Web上で論文共有がしたい!:「論文2.0」が実現されたなら(妄想)。

前のエントリーでは、論文の入手が時代遅れであることを、素人目で指摘しましたが、今回のエントリーでは、前回予告通り、論文の引用可能性について指摘したいと思いますが、よく考えたら引用可能性って自分で使っていてよくわかりませんでした。なので、引用による論文の価値について、今回は書きたいと思います。

少し前かだいぶ前かわかりませんけど、ある国の科学技術力を測るための方法として代表的なものにその国の大学で出された論文数というのが一つの尺度になっていた時代がありました。

しかし今では、科学技術力を測るには論文数ではなくて、被引用文献数が重要である、というのが常識となっています。

これ、どういうことかというと。

まず知ってもらいたいのが、論文というのは、見てもらえればわかるのですが、

  • 自分の主張をサポートする文献
  • 比較すべき文献

などを文中に[1]というような形で引用して(一例はこちら:Sergey Brin and Lawrence Page, The Anatomy of a Large-Scale Hypertextual Web Search Engine, http://www-db.stanford.edu/~backrub/google.html)、自らの主張ないし技術というのを記しており、これによって自分の主張の妥当性や今までの研究との違いを明確にしているのです。引用が適切にされていない論文は、周りの意見を参考にしていない独りよがりのダメ論文とされています。

こうした中で、よく引用されやすい論文というのは、汎用性があり非常に優れた論文であるという傾向が出てきます。

だから、ダメ論文の数を競ったって科学技術力の証明になる訳じゃなくて、引用された数が多い論文(すなわち価値のある論文)の数が多い方がその国の技術力を測るのにいいでしょうってことなんです。

こうした例が次のトムソン社のページにあります。国別じゃなくて大学別ですけど。
トムソンサイエンティフィック 日本の論文の引用動向1993-2003 http://www.thomsonscientific.jp/news/press/esi2004/ranking.html

ただ、こうした被引用文献数を調べるってのはいくつかの理由で容易ではありません。なぜかというと、現在の世界では論文というのは基本的に紙ベースもしくはpdfベースで出されているために、論文同士がWebのリンクのように自動的に関連づけできないからです。被引用文献数を調べるには、可能な限り論文を集めまくり、紙で出されているものは気合いでタイトル・雑誌名などから対応する論文を探し、その数をカウントするという果てしない作業が必要になってきます。

だから、上のトムソン社は商売できてるってわけです(笑)。

・・・

ここまで読んできたGoogle愛好家はもう既に気がついているはずです。
引用されることが大事というのはWebの世界で言うと、リンクされることが大事ってことです。もろGoogleアルゴリズムじゃないですか。こうなってくると、論文が、blogかもしれないし、それに代わるプラットフォームかもしれませんが、Web上で公開され、引用がリンクで代替されるようになる世界が考えられませんか。

こうした論文同士がリンクで繋がれて、皆で共有される世界を、私は最近の流行に任せて「論文2.0」と呼びたい。もちろん、論文1.0は紙ベース・pdfベースの論文です。

論文2.0の世界になると、アカデミックな社会に大きな変革が訪れます。以下、blogベースで論文が公開されていたら・・・ということを考えますが、まず、トムソン社が商売あがったりなる、というのは冗談で、

  • Googleで役立つ論文を簡単に探すことができる。
  • diggの論文版が作られ、今の流行研究が何かがすぐにわかる。
  • 論文が一般の人の目にもさらされるようになり、世界の科学技術の発展が加速する。
  • はてなブックマークなどのサービスでタグを使い簡単に関連研究が調べられる。
  • はてなブックマークなどのブックマーカーの数が研究者の能力評価の1つとなる。
  • 役に立たない論文(被引用が少ない論文)が検索エンジンで検索されず、駆逐される。
  • 税金かけて書いた論文だけに、世間の厳しい目が向けられる。
  • 役に立つ論文を書いて人気になった論文を書いた人は、例えばGoogle Adsense等で副収入が得られる。
  • 内容がいっちゃってる論文だというコメントがつけられた研究者は商売あがったり。
  • 引用文献がリンクされてるので、査読者(論文の審査をする人)の手間が軽減。ひいては、論文審査の高速化につながる(現状では普通に1年近くかかることもあります。)
  • たいした論文を出さない弱小学会は駆逐される。

など、学会に大きな波紋が広がること間違いなしで、それだけに、論文2.0を構成するプラットフォームは、間違いなくアカデミック社会からは出てこないと思います(笑)。

実際に論文2.0を実現する土台はほとんど整っているんですけどねぇ。
blogのコメントやトラックバックなんて、まさに論文の評価につかえるし、はてなだったらTex記法を使えば数式かけるし、図も画像で入れ込めばいいだけの話でしょう。
後は論文が改変されないようにとか、細かいとこの調整だけだと思うんですが。

ちょっと前の日経ビジネスで酷評された情報処理学会とかが取りかかってくれないかしらん。IEEEのどっかの人が言われてしまった「アカデミック活動はビジネスだ」なんて調子に乗った発言に対抗してやるためにも。

でも、それで研究費とれたら、論文2.0の言い出しっぺである私にも、見返りをくださいね。ちゃんとWebに出してるんだから、引用して(笑)。