想いの爆発〜鴨はうす「God's truth control」〜

 「つくケット」開催記念ということで、つくりものじ氏の同人誌をネタに、ちょっと書いてみます。
 私が手にとった最初の氏の本であり、氏のファンになったきっかけの本であり、心の底から「すげぇ!」と思った最初のパロディ本であり、今まで読んできた同人誌の中でも最高傑作の一つ、と信じている本です。

 98年夏コミ発行、「God's truth control」。
 

 私が持っているのは、同年11月3日(レヴォですね)再版、と入っている第二版。とすると、入手したのは98年冬コミ……と思われます。確かその後、もう1回再版されたような記憶があります。
 コミケのその日、ある程度買い物も済み、友人連中がぼちぼち集合してだべりながらのんびりしていた頃合。集合場所に戻ってきた一人の友人が「これどうよ?」と差し出した本がこれでした。一人が読み、私を含む居合わせた面々が覗き込み……「はーい!欲しい!」「俺も!」「俺も」と挙手の嵐。持ってきた友人は苦笑しながら、完売間近であっただろうスペースへ引返して行ったのでした。
 いやあ、仲間っていいですね。運命的な巡り合わせへ導いてくれた友人に感謝。……仲間うちの誰だったか、正確には忘れてしまったんですが(笑)。

 内容は一言で言って、『「To Heart」vs「センチメンタルグラフィティ」・「ジャイアントロボ」風』。マルチ(HMX-12)抹殺を目論み、突如襲いかかるセンチキャラ達。応戦する東鳩キャラ達。導入部を抜いて本編60ページ、全編これバトル、バトル、ひたすらバトル、全力バトル。さらに、このページ数の中に両作品キャラきっちり全員登場、血風連もちゃんといます(笑)。次々と新手が登場する中盤は息継ぎのヒマも与えず、全てのページが、いや全てのコマが見せ場。正直構成もヘッタクレもありゃしませんが、全編に満ちる凄まじい密度と凄まじいテンション。ただただ圧倒。圧倒されます。
 絵にも描けないクライマックス。
 そしてLeafの前作「雫」「痕」のキャラが総登場し、生き残ったキャラに希望と警告を託しつつ去る。
 終劇。

 “何だかよくわからんけど、とにかく凄ェ勢いだ……”それが最初の、強烈な、あまりにも強烈な印象でした。
 一体何が、この勢いを作りたもうたのか。
 暗示的な結末、そして巻末の「描くに至る心境、少しでもお察し頂ければ幸いです」という重い一文。これらをヒントに、8年を経た今、改めて本作に込められた激情の源を僭越ながら慮ってみたいと思います。あくまで、私の勝手な想像でありますので、その点はご容赦を。

 初版発行は98年8月のコミケ54。巻末の後書きの日付が8月2日となっています。執筆は98年の夏ということになりますが、「To Heart」のPS移植発表が丁度この頃だったはずです。大手メーカーならまだしも、1年前まで中堅だったメーカーのノーマークなゲームが、人気に押されてあれよあれよと上り詰め、一般コンシューマゲームというスポットライトまばゆい舞台へ上っていく。素晴らしいサクセスストーリーの真っ只中に「To Heart」は居ました。
 丁度その頃、コンシューマ市場で暴れまわり大きな爪痕を残しつつあったのが、本作で悪役に設定されている「センチメンタルグラフィティ」。ゲーム本編発売前からメディアで露出しまくり、大量のグッズを乱発し、プレディスクを発売してさらに煽り……とまあ、なかなか悪どい展開をしておりました。今にして思えば、エロゲーやギャルゲー〜今で言う「萌えコンテンツ」〜の購買層の熱狂を意識し、それを煽りたててビジネスに繋げる、ということを初めから意図していた最初のゲームだったと言えます。手法こそ変われど、曲芸商法なんかもルーツを辿ればここに行き着くのですね。
 肝心のゲームはなかなか姿を見せないまま、即売会では結構同人誌が出ていたりするという異様な光景。その中で、世界がどこか歪な方向に向かおうとしている、と感じていたギャルゲー/エロゲーファンも少なからずいたことでしょう。そして階段を登り始めた「To Heart」も、そうした何か得体の知れない巨大な渦に飲み込まれていってしまうのではないか……。愛したものの成長に立ち会えた喜びと、その前途に広がる巨大な脅威。拭っても拭っても沸き起こり、どうにも振り払うことのできない堪らない不安。
 「God's truth control」に込められた爆発的な感情は、そういったものだったんではないかな、と思います。あくまで勝手に思ってみる、だけですが。

 その後ファンも増え、人気作家となっていった氏ですが、以後これほどまでに激しい本は私の知る限り見られません。ある意味、「若気の至り」だったのかも知れません。
 もちろん、グダグダな雰囲気とスパイスの効いたお笑い、なぜか漂う緊張感……という「いつもの」氏の本も大好きです。しかし、元ネタの背景を汲み取り、それへの激情をぶつけた激しいマンガもまた氏の持ち味であり、やはり素晴らしい輝きを放っているのです。その意味では、「サヨウナラ偽春菜」('01年「\e」にてコピー本発行、後にオフセット再録)は久々のヒットでありました。忘れもしない損保会館、コピー本をゲットし読んだ瞬間、「来た……!」と身震いしたものです。
 願わくば、またああいう本を読みたいなあ……と思うところなのですが、今はそれ以前にイベント参加してくれないかなあ、って方が問題ですね(笑)。もちろん、現在いろいろと多忙であることは存じ上げておりますので、同人は気長に待ちつつ、そちらを見守ることにしています。何せあれだけのものを描ける人なんですから、これからもいい仕事をしてくれる事でしょう。
 氏に、幸運あれ。