日本の財政破綻 財政敗戦はあるか | 財政再建にどう取り組むか(日本総研)

 最近、日本の財政破綻の可能性を言及する書籍が増えてきた。
 ただバブル崩壊の警鐘が出ているうちは、そうはならないのが通り相場・・・。数年後には本当になっているかもしれないけど。そして、大方の日本人が破綻した方が良いと感じているのが最大の問題かも。大して資産もないんだから、いっそ崩壊してゼロから始めたらいいじゃんと思ってるから、何も解決しないのかもしれない。
  

 ただ、上記の二冊は分かりやすさを重視しているために、論理の納得性がやや犠牲になっているように感じられる向きもあるようだ。
 日本総研の2013年のこのリポートは、日本の戦後の重債務問題解決を掘り起こした。戦後政府は「全国民の資産に25〜90%の財産税を課税して借金を返した」というのである。この解決策が現代でも取られるかもしれないという危機感はある程度、納得感がある。最悪の事態に至るかどうかは分からないが、一考に値するだろう。歴史的に見ても金融の世界では、信じられないようなことが平気で起きてきたし。
 https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/7020.pdf

 「財政再建にどう取り組むか ─国内外の重債務国の歴史的経験を踏まえたわが国財政の立ち位置と今後の課題─」調査部 主任研究員 河村 小百合

 論旨としては下記のようになっている。

 「.国内外の歴史的な経験を振り返ると、政府債務残高規模がGDP比200%を超過した事例は、ごく限られる。1980年代以降の比較的最近に限れば、アフリカ等の新興国開発途上国)のみにとどまる。経済が成熟した先進国についてみると、資本移動規制を撤廃し、変動為替相場に移行した1980年代以降、換言すれば、人為的な低金利で国内民間部門に国債の引き受けを強要する「金融抑圧」が事実上困難な開放経済下では、皆無である。よって、成熟した先進国が、そうした重債務国状態から自力で立ち直ったという事例も存在しない。そうした意味で、わが国財政が直面している課題は、極めて高いハードルであると考えられる。
  .重債務国が債務残高を縮減させていくうえでとり得るアプローチとしては、①財政再建(自力での増税・歳出カット)、②連続的な債務調整(インフレや「金融抑圧」によるもの)、③非連続的な対外債務調整、④非連続的な国内債務調整、の四つに大別することができる。近年の③の事例としては2012年のギリシャの2度にわたるデフォルトをはじめ、多くの事例が存在する。一方、④のような国内デフォルト事例は、詳細があまり明らかにされないことも多い。しかし、事態の推移を細部にわたって追うことのできる稀有な事例は意外な身近にあり、わが国の第二次大戦後の経験こそがまさにその典型例である。
 .そこで、重債務国が財政運営に行き詰まり、非連続的な国内債務調整が行われる場合の典型例として、わが国の第二次大戦後の経験を、財政当局監修のもとに公表されている資料等を基に検証した。終戦の前年の時点で、わが国が抱える国債・借入金の対国民所得比は約260%と、現在のわが国の政府債務規模に匹敵する水準であった。終戦とともに、財政運営の継続は困難となり、わが国の政権・財政当局は、「取るものは取る、返すものは返す」という政策運営方針のもと、大規模な国内債務調整に踏み切った。具体的には、終戦の翌年の昭和21年2月、預金封鎖と新円切り替えを電撃的に実施し、後に続く異例の課税に先立って国民の資産を差し押さえた。そのうえで、同年秋以降、1度限りの空前絶後の大規模課税として、ほぼ全国民を貧富の差なく対象とする「財産税」課税を断行し(=「取るものは取る」)、それを原資に内国債を可能な限り償還した。外国債に関しては、わが国は戦時中の昭和17年からすでに債務不履行状態に陥っていた一方で、内国債の元利償還は、このような異例の財源手当てによって、形式的には維持された(=「返すものは返す」)。他方、戦時中に国民や国内企業に対して約束した補償債務については、「戦時補償特別税」の課税によって、実質的な国内債務不履行を強行した。封鎖預金は、これらの「財産税」や「戦時補償特別税」の納税に充当されたほか、民間金融機関等の経営再建・再編に向けての債務切捨ての原資にも充当された。これが、わが国で終戦直後に実施された、非連続的な国内債務調整、すなわち国内債務デフォルトの概要である。あくまで、敗戦後という特殊な局面での事例ではあるものの、政府債務の大半を国内資金で賄う重債務国が、非連続的な形で清算を迫られる場合の一類型であるといえよう。」

 こうした事態を解決するためには、
 ①中期的に目指すべき要財政緊縮額(IMF等の国際機関によれば年額50兆円規模)に、きちんと正面から向き合ったうえで、
 ②中長期的な財政再建達成のための道筋と具体的な取り組みのプランを国民に示すことが求められる。
 ③中長期にわたって改革が着実に実行されるよう担保すべく「工程表」を作成し、
 ④その進捗を管理するために、国民にとってわかりやすい指標を設定することが望まれる。指標としては、各年度の新発国債発行額が、その実質的な意味合い(債務残高の行方を左右する財政赤字幅と同義)からしても、国民にとってのわかりやすさからも望ましい。

 とされる。

 注目すべきは、終戦後の政府がとった「預金封鎖」と「資産税による財産徴収」であろう。これを現在の政府が行うとしたら、どのようになるだろうか。また国民がその被害から逃れる方法はあるだろうか。

資金循環統計(2014年第4四半期速報):参考図表 https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf を見ると、

 家計資産1694兆円+民間非金融法人資産1019兆円+一般政府資産552兆円=3265兆円
 家計負債366兆円+民間非金融法人負債1420兆円+一般政府負債1193兆円=2979兆円
 となり、差し引き286兆円の自己資本があることになる・・・。つまり、家計資産(家計負債差し引き後)に100%課税すれば、解決は可能である。しかも全国民に資産を286兆円残して。一人当たりでは、286万円(ざっくり一億人で割り算して)のストックが、所有権は企業か政府になっているが残るわけだ。それでも実態としての生産能力が損なわれなければ特に問題はないかもしれない。ただ、それをどんな政府でも実現はできないでろうことが問題で。マイルドなインフレと、福祉の削減を通じて家計資産を吸収しゼロに近づけていくしか方法はなさそうだが、そのプロセスで様々な社会的な不安・不満が発生するだろう。

 そして、課税強化されればされるほど、課税を逃れようとする動きも激しくなるだろう。下記のように国籍離脱や、海外への居住などの方法が駆使されるため、政府が対策に乗り出すことになるだろう。そこに憲法改正もかかってきているのではないかと思う。国家を強調し、私有財産を否定する方向に向かっていくだろう。
 ・米国籍離脱者3415人で過去最高、FATCAも影響かhttp://media.yucasee.jp/posts/index/14584
 ・国籍離脱者と税金(その2)http://www.zeikei-news.co.jp/kobore_bn/kobore_100602_1.html
 ・出国に伴う所得税制度と出国税の我が国への導入 http://www.nta.go.jp/ntc/kenkyu/backnumber/journal/14/pdf/14_05.pdf

 また、河村が指摘するように金利上昇にほぼ政府が耐えられない状況になっているということにも注意を払う必要がある。政府は国債の短期債権借り換えを続けており、短期金利の上昇によって急速に利払いが増加する状況となっている。