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2010-03-19 インコグニート(incognito) 第1回ユーザーミーティング

インコグニート(incognito) 第1回ユーザーミーティング

ヨーロッパではすでに何回か開催されているユーザーミーティングですが、日本では第一回となるインコグニートのユーザーミーティング、Incognito 1st Japanese Users Meeting 2010に出席しました。

ユーザーミーティングとは、いわゆる「認定講習会」と異なり、すでにインコグニートで治療をしている歯科医師が集まって意見交換をしたり、よりアドバンスな内容のレクチャーをうける機会です。今回の第一回ユーザーミーティングでは、この治療システムの開発者であるWiechmann先生らによる各種テクニックやTipsの講義、日本サイドからも、日本におけるインコグニート治療の現状に関する講演などが行なわれましたが、70名もの先生方が出席されており、インコグニートという治療体系が日本においても着実に発展しているのだなと、非常に心強く感じました。

今回とくに強調されていた点は、矯正装置は舌側(歯の裏側)に装着した方が、歯の脱灰(虫歯のすごく初期の状態)のリスクが極端に低いということ。これはインコグニートに限らず舌側矯正全般の長所といえると思いますが、やはり歯の表側より裏側の方が、唾液による自浄作用があきらかに強いということに裏付けられていると思います。これまでも感覚的に感じていた部分ではあるのだけれど、きちんと数字や統計で示されるとあらためて納得します。

今回は、居波徹先生や杉山晶二先生とともに、Wiechmann先生やVu先生と、前日の夕食をご一緒させていただいたのですが、その席での会話がそのまま当日の講演の内容に活かされている場面もあり、インコグニートというシステムを、日本独自の状況に対応させようとしている姿勢を感じた機会でもありました。

インコグニートという舌側矯正システムが日本に正式導入されてそろそろ2年、安定したひとつの治療システムとしてきちんと広く認知されるように、僕自身も精進しようと、あらためて感じ入った一日でした。

2010-02-09 矯正治療の費用(2) 自費の歯列矯正の費用

矯正治療の費用ってわかりにくい

きょう初診でお話した患者さんが『矯正の費用ってわかりにくい」ってお話をされていたので、そのあたりの話題を。

日本の健康保険制度では、顎変形症や選定性疾患など一部の矯正治療を除き、大部分の矯正は健康保険が使えない(=自費での治療)ことになっています。そのため(矯正に限らず健康保険が適用できない治療では)病院や歯科医院が独自に料金を決めなければならないわけですが、仕方ないのだけれどもこの「独自に」というところがわかりにくさの大元なんだと思います。

矯正治療がひとつ特殊な点は、実際の治療が始まる前に結構な費用がかかるということ。実際の治療が始まる前=[初診相談][検査][診断]のステップのことです。

矯正治療は長期に及び、なおかつ高額な医療行為であるという点からもともと、矯正開始前の説明が重視されていますが、何より先ず矯正治療がどのようなものなのか、ということを[初診相談]のカウンセリングで知っていただく必要があります。また、[検査][診断]を行なって確定した治療の計画を患者さんに十分に吟味していただいた上で治療を始める必要がある。実はこれらのステップも矯正治療の一環だし、矯正医としてのスキルや(設備も)必要な医療行為なのですが、治療が始まる前の段階をステップバイステップですすめる、というのは逆に言えば、どの段階でも中止できるような柔軟さを考慮した結果だと思います。(診断まで受診してみたけど、やっぱり矯正治療はやらないことにした、という場合もあり得ますよね)

それでは矯正治療そのものの内訳はどうか?

矯正治療費の内訳とは大まかに[矯正装置代][矯正治療の技術料][処置料]に大別できると思います。[矯正装置代][矯正治療の技術料]とは矯正治療全体にかかるもの、[処置料]とは、定期的な矯正治療の受診(処置)にかかる費用のことで、「調整料」という場合もあります。したがって費用全体としては、[矯正装置代]+[矯正治療の技術料]+([処置料]×通院回数)と考えていただけば良いと思いますが、これらの費用を一括して「矯正治療費」としている歯科医院もありますし、名目別に明細を提示している場合もあります。抜歯を必要としないようなマイルドな不正咬合で1年半〜ぐらい、抜歯を必要とするケースで2年+α〜、という治療期間が一般的と思いますので、一般論として治療回数は20〜30回ぐらいを想定すれば良いのではないかと思います。あとは舌側矯正インビザライン、インプラント矯正など、治療に関連した”オプション”によって費用が異なります。

ポイントとしては、矯正医の多くが上下全体の歯列矯正をした場合の費用を提示しているということ。これはかみ合わせを考慮して歯列矯正する場合、上下の歯ならびをセットで考えた治療が必要な場合が大部分なためです。このような料金体系の歯科医院で部分矯正を行なう場合、部分矯正の規模に応じて治療費を算出します。一方、部分矯正の費用を基準とした歯科医院の場合には上下どちらか片方(片顎)の費用を提示している場合もあり、このような料金体系の歯科医院で本格的な歯列矯正をする場合、上下顎(=片顎×2)の費用がかかることになります。

誤解のないように書いておくと、どちらが良いとか悪いとかいうことではなく、ブリッジやインプラントなど補綴治療の前処置などの状況で部分矯正はとても重要だし、一方、矯正を専門とする歯科医師は得てして上下全体で考える癖がついているというだけのことであって、どちらも必然性があります。

必ずしも患者さんが本格矯正を望んでいる場合ばかりではないと感じることは僕自身もあるのですが、矯正治療を考えていくうえでは、ご自分に適切な治療はどのような方針なのか、そのなかで自分の希望がどのように反映されていくのか、ということなども含め、初診相談でのカウンセリングを活かしてお尋ねいただくのがきっといちばんわかりやすいと思います。矯正医とよくお話になってくださいね。

2009-07-02 第4回インコグニート講習会

目黒青葉台矯正歯科クリニックでのイン

第4回インコグニート講習会が開催

昨日から今日にかけて、第4回目となるインコグニートの認定講習会が開催されました。僕は第1回目から前回の第3回まで毎回受講していたので、今回は受講を遠慮したのですが、大学病院勤務当時に同僚だった矯正医が何人か受講していたので、認定講習会会場だったリッツカールトンに「飲み」にだけいってきました。(笑)

インコグニートでの舌側矯正とはどのようなものか、ということに関しては前回書いたので今回はあまり書きませんが、矯正を専門とする者として、非常にすぐれた歯列矯正治療のシステムのひとつだと思います。このような優れたシステムが選択肢のひとつとして広まっていくことはとても良いことだと思う。誤解のないように書いておくと、従来の舌側矯正を否定しているのではなく、歯列矯正の中でも難度の高い舌側矯正で治療がうまくいかないとしたら、どこで「ハマって」しまうのか?ということを追求したときに、インコグニートというシステムは、できるだけ確実に治療がきちんと遂行できるようにいろいろな工夫が施された治療装置だ、ということです。逆に言えば、どんなに優れた治療システムであっても、丁寧にきちんと取り扱わなければ、期待通りの成果が得られない可能性はいくらでもある。

僕自身自分の診療所の治療システムにインコグニートを導入してからかなりの時間が経ちますが、治療する側から見てもとても優れた治療システムだと感じています。こういう「良いもの」が一過性の流行になってしまってはいけない。インコグニートに限らず、万が一矯正治療がうまくいかないことがあるとしたら、それは矯正装置が悪いのではなく(仮に矯正装置が悪かったとしても)、やはり治療をおこなう矯正医に責任があることだと思う。良いものだからこそコミュニティが広がっていくわけなんだけど、広がって一般的なものになったときにも現在と同様、結果として全体のクオリティがハイレベルに保たれているように、僕らひとりひとりが努力し続ける責任があるのだと思います。

僕がインコグニートを始めた頃、某歯科大の助教授の先生に「インコグニートなんていかがわしい治療をしているヤツがいる」って非難されたことがある。まあ新しいものって玉石混合なので当時としては仕方ない反応なのかなって今でこそ思えますが、やっぱり「無知ゆえの誤解」は良好な治療結果で解いていくべきだし、「新しいもの」から「一般的なもの」にシフトしていく過程で解消していくといいと思う。そんな思いもあってインコグニートの説明サイトを作ってみたりもしました。

めずらしくアグレッシブに文章を書いた気がしますが、自戒も込めて、ということでご容赦ください。

インコグニートが日本に正式導入されてまだ1年、はじめて紹介された第1回講習会からカウントしてもまだ3年です。インコグニートに興味をもって行動をはじめた矯正の先生方、日本にも良好ななコミュニティができあがるように、みんなで一緒に盛り上がって頑張っていきましょう。

2009-05-09 Incognitoでの舌側矯正

Incognitoでの舌側矯正

すごく久しぶりにはてなにログインしてみたら、半年ぶりだった。スミマセン。矯正全体を網羅しようと思って始めたはずだったのですが、過去ログををみてみると、意外と全体的に基本的なことを書いていたようなので、興味があったら見てみてください。

ということで今後は、一貫性がなくても矯正について自分が知っていることややっていることを都度書こうと思います。

ということで今日のお題は舌側矯正

僕のところの舌側矯正(歯の裏側からの歯列矯正)は、Incognito(インコグニート)というシステムでやっています。実は日本は舌側矯正発祥の国で、欧米と異なり矯正装置を隠したいという希望の強い土地柄と本来マッチした治療システムです。しかし、歯科の中でやや特殊技術の感がある矯正治療の中でもさらに舌側矯正は技術的に難度が高いので、希望する患者さんが多い割になかなか一般的な技術になっていかなかった。難度の高い治療技術だということや、装置そのものが比較的高価なこと、実際の治療でも毎回の処置にかかる時間が長いなどの理由から、一般的に表側の矯正よりさらに高額な治療となることも手伝ったかもしれませんね。

もともと目立つ装置はイヤ、と思っていたはずなのに、こういった「審美的」な矯正装置に関しては残念ながら最近は諸外国の方が元気です。マウスピース矯正インビザライン(アメリカ)やクリアアライナー(韓国)、そしてインコグニート(ドイツ)など。日本の舌側矯正にも世界に誇るSTbというシステムがあり、現状日本の舌側矯正の大部分がSTbを利用しているのではないかと思います。(ちなみにgoogleでSTbと検索すると、セットトップボックスばかりがでてきます。Incognitoの場合、アシッドジャズバンドの方ばかりがでてきます。はてなでも「矯正」ということばの流通量はとても少なくて、あらためてすき間産業だなあと感じたりします)

ところでIncognitoとは、舌側矯正のながれのなかでも比較的最近のシステムで、日本に初めて紹介されたのは2006年です。その直後からいろいろとあって、本格的に日本でも供給されるようになったのは2008年。このブログを書いている2009年5月時点で、incognitoの認定を受けている矯正医はまだ100人前後ぐらいしかいないと思います。(今後どんどん増えていきそうですが)僕が2006年に認定を受けた時点では50人ぐらいだったのじゃないかと思います。(当時の僕の会員番号は10番台でした)一方のSTbもどんどん発展し続けていて、非常に優秀な舌側矯正システムとして円熟していっているのですが、矯正専門医から見て、IncognitoSTb、多少コンセプトを異にする、それぞれ優秀な治療システムと考えています。そんなIncognitoなので日本での知名度はまだ低いですが、最近になって僕の診療所にもIncognito名指しの問い合わせを患者さんからもらうことが増えてきました。

STbに関しては豊富に情報があるのでさておきIncognitoとは、それぞれの患者さんにあわせ、矯正ブラケットも、アーチワイヤーもオーダーメイドする治療システムです。オーダーメイドでの装置製作はドイツ本国のラボでCAD/CAMでおこなわれてます。というとInvisalignと似た感じがしますが、マウスピース矯正と異なりIncognitoはワイヤーを使った歯列矯正なので、対応可能な症例の幅広さという点では表側からの矯正治療と同様、基本的にあらゆるケースが可能です。

歯の裏側に矯正装置がつくということは、多少なりとも舌の違和感があるものだと思います。Incognitoだからといって違和感がなくなる訳ではないけれども、患者さんにあわせて装置を作る最大のメリットは「装置をできるだけ薄くできること」だと思っています。Incognito以外のブラケットを使った歯列矯正は「既製品矯正装置」をそれぞれの患者さんにカスタマイズして使いますがIncognitoではオーダーメイドしているからです。実際僕のところの患者さんたちを拝見していると、「思ったより平気だった」「意外と早く慣れた」という感想が多いように感じてます。

裏側からの歯列矯正というと審美やエステティックの側面を強く感じるかもしれませんが、難度の高い分表側の歯列矯正以上に真摯に基本に忠実な処置をおこなう必要があります。実際の処置ばかりでなく装置の準備工程も複雑な内容が多く、これらのかなりの部分を「オーダーメイドであらかじめめ準備する」ことのメリット治療する側にとってもメリットが大きい。矯正医にメリットが大きいということは結果的に処置時間や治療期間の短縮だったり、確実な治療結果だったり、患者さんにとってのメリットの大きさとなっていくと思うのです。

Incognitoは「歯列矯正システムのひとつ」としてとてもきちんとしたものだ、ということを知ってもらいたい。というのが今日のテーマだったかな、と思います。2006年に僕がincognitoにかかわり始めた当時、大学病院助教授には「そんないかがわしいもの」と言われたのを今でも悔しく思い出します。

僕としては、できるだけ患者さんの希望に添いながら良好な治療結果が得られるように、常に選択していきたいと思っています。Incognito信者だと思われるとちょっとそれは違っていて、STbのほうも新しいコンセプトがどんどん投入されていて、来年あたり予定されているヤツが今からすごく楽しみだったりします。

そんな訳でIncognitoの情報提供サイトを立ち上げてみたのはいいんだけど、ネームサーバーがいま一つ安定しなくて。舌側矯正での歯列矯正に興味を持っている最中の人は時間があったら覗いてみてくださいね。

2008-11-05 手術の必要な歯列矯正とは?

手術の必要な歯列矯正とは?

あごの骨の手術を併用する歯列矯正(=外科矯正)は、矯正専門医ならではの歯列矯正のひとつといえると思います。どのような場合に手術の併用が必要になるかというと、「歯の移動のみでは十分にかみ合わせをなおせないほど、顔の骨格にアンバランスがある場合」ということになります。

代表的な例は骨格性の下顎前突(うけ口、三日月型の横顔)ですが、それ以外のかみ合わせ(上顎前突や交叉咬合、開咬など)でも、骨格的なアンバランスが著しければ外科矯正の適応となります。

外科矯正の特徴をまとめると、

・手術前の矯正→入院・手術→手術後の矯正→保定の順で治療をすすめる

外科矯正を開始するには、成長発育がきちんと終了している必要がある

・都道府県知事指定の医療施設で治療をおこなうことで健康保険が適用できる

・しかし舌側矯正マウスピース矯正では健康保険の適用にならない

歯ならびというものは、ある程度の骨格のアンバランスをカバーできるように歯が生えていることが多く、そのままあごの手術だけしても噛めなくなってしまいます。そのため、手術後にきちんと咬めるようにあらかじめ歯列矯正をしておいてから手術をおこなう、という手順が一般的です。患者さんによってはいちばん気にしている部分への対処が後回しになるように感じる場合もあるかもしれませんが、矯正治療が人の体に関わる医療である以上、美容・審美の問題と、かみ合わせという機能の問題を両立できるように安全に治療をおこなう必要があります。

当然の話ですが、手術が終わった後に成長発育であごのバランスが変わってしまうと、折角の治療が台無しになってしまうので、若年者の場合にはきちんと成長を見届けてから外科矯正を開始することが重要です。手術の適否によって、抜歯/非抜歯の方針が全く逆転する場合もあり、治療開始前に十分な診断が必要です。

手術の適用が確定した以降の矯正治療健康保険が適用になります。成長期のうちは骨格が変化していくし、また、成長期の矯正治療の結果により将来の治療プランが変わってくる可能性があるために、現在の制度では、成長発育が一段落して歯列矯正の方針が確定できるようになるまでは健康保険の適用にはならないことになっています。つまり、将来手術が必要なあごのアンバランスがある患者さんでも、成長期の矯正治療は自費扱いで、その後の歯列矯正時の検査・診断で手術が必要と確定した以降が健康保険の適用になります。

健康保険を適用するには、矯正と手術の両方を健康保険でおこなう必要があります。どちらか一方だけを保険でおこなうことは制度上禁じられています。つまり矯正治療を担当する矯正歯科と、手術を担当する外科の双方が健保適用が可能な医療施設として申請・指定を受けている必要があります。日本矯正歯科学会の認定医を取得している矯正専門歯科でも外科矯正の健保適用については未申請の場合も多く、このあたりは患者さんからはわかりにくい点と思いますので、治療方針としての手術の適否、ならびに日本の医療制度としての健康保険の適用/不適については初診相談で十分にご相談される必要があります。

2008-11-03 反対咬合の歯列矯正

反対咬合の歯列矯正

反対咬合(うけ口)の歯列矯正では、原因や不正咬合の程度によって治療の方法が大きく異なります。おおまかに、

  • 歯ならび(歯のはえ方)が原因となっている場合
  • 顔の骨格のアンバランスが原因となっている場合

のふたつに大別できます。骨格のアンバランスが著しい場合には、歯列矯正のみでの治療ではなく、あごの骨の手術を併用して治療する外科矯正が選択されます。とはいえ、すべてのひとの顔の骨格のバランスが完璧であるわけもなく、ある程度のアンバランスであれば歯ならびでカバーすることにより「噛める」ようにするのが自然なわけで、骨格のアンバランスすなわち外科矯正というわけではありません。矯正治療の方針決定は客観的な根拠に基づく必要があり、したがって事前の検査・診断が重要になります。

歯並びが原因となっている場合とは、(1)上の前歯が内側に傾いている、(2)下の前歯が前方に傾きすぎている、などのケースが考えられます。(1)が主要な原因の場合には、上の前歯を前方に方向けていくことで解決できますが、(2)の場合には下の前歯を内側に傾斜させるためのスペースが必要になるため、永久歯の抜歯が必要になる可能性があります。また、[受け口+でこぼこ]の場合などには、でこぼこの解消のためにも抜歯を必要とする可能性が高まります。

一方手術を併用した外科矯正の場合は、[下あごを後ろに下げる手術の終了後]にきちんと咬める歯ならびにするために、予め手術前の歯列矯正で準備をしておく必要があります。一般的に手術前の歯列矯正では、下の前歯を前方に傾斜します。(手術前の矯正では一時的にうけ口を強めることになります)結果的にこれがでこぼこを解消可能なスペースを生じるため、外科矯正では下あごの抜歯をおこなわないケースがほとんどです。

反対咬合や下顎前突以外の不正咬合でも、骨格の不調和が著しい場合には手術の併用をおこなうことはあるのですが、反対咬合や下顎前突の場合には手術の適否により、抜歯に関する方針も正反対となるため、成長期(身長が伸びている間=下あごが成長している間)は歯列矯正治療計画の決定はできません成長期から矯正治療を開始するのはもちろん有意義ですが、それでも骨格性反対咬合の場合の矯正治療では、成長期の処置を一通り終えた後に、身長が止まるまで(女子は14歳頃、男子は18歳頃)まで歯列矯正の判断を待つ必要があります。成人の患者さんの矯正治療では、すでに成長による変化は考えられないので、検査・診断結果からもっとも適した方針を考えていきます。

余談ですが、手術の併用をして歯列矯正をおこなう場合、都道府県知事指定の医療施設にて矯正と手術とをおこなうことにより、健康保険の適用が可能です。抜歯や手術に対する考え方、感じ方は患者さんにより異なるとは思いますが、まずは専門医の十分な説明や、正確な検査と診断をおすすめします。

2008-10-21 上顎前突・出っ歯の歯列矯正

上顎前突・出っ歯の歯列矯正

上あごの歯列が下あごより相対的に前方にある状態を「上顎前突」といいます。歯列矯正では、でこぼこやすき間のないきれいな歯ならびをかたちづくると同時に、このような歯ならびの上下の相対的なずれも修正する必要があります。歯列矯正が可能な状態ということは、顔の骨格の成長による変化は基本的に期待できない成長発育段階であり、基本的に歯の移動のみによって矯正治療をおこなう必要があるということです。成人の矯正治療では、すでに成長発育を終了して骨格の変化はないので、当然歯列矯正の段階から始まります。子供の頃から矯正治療をしている場合は、成長期の矯正治療を終え、永久歯が揃うのを待って歯列矯正を始めます。

人の体の構造上、下あごの前歯の前後的位置はそれほど大きく変化させることができません。したがって上顎前突(出っ歯)の歯列矯正の場合、「上の前歯を後ろへ下げる」ことが治療の中心になります。前歯を後ろに下げるには、歯を移動するための場所、スペースが必要です。もともと歯並びが狭ければ、可能な範囲で歯列の拡大をおこなってスペースを得たり、または最後方の奥歯から順番に、さらに後ろへ歯をずらしていく方法もあります。いずれの方法も歯を移動できる量に限界があるため、充分なスペースが得られない場合に「抜歯」を選択することになります。実際には出っ歯の程度や、併発しているでこぼこなどの程度を考慮して、必要なスペースが多ければ抜歯が必要と判断します。

矯正治療における歯の移動では、持続した力を歯に荷重することで目的の方向へ歯を動かします。力というものは必ず作用/反作用で働くため、力の土台となる場所が必要です。通常は奥歯から前歯を引っ張ることにより歯を後ろに動かすので、奥歯は反作用をうけ前方に移動します。奥歯の前方への移動が望ましくない場合には、ストッパーの役目を担う矯正装置を追加することもあります。また最近ではチタン合金の小さなピンを一時的に骨に埋め込み、そこから歯を引っ張ることで効率よく効果的に歯を動かす方法(インプラント矯正)も必要に応じておこなわれます。

上顎前突の場合、顔のバランスも口もとが突出した感じになっています。上の前歯を十分に後方に移動することで、口もとの感じも変わります。以下のチェックポイントにあてはまる方は、かみ合わせの状態もチェックしてみてください。

  • いつも下唇に上の前歯があたっていて、下唇があれている
  • 上下の唇を閉じると、への字口になりやすい
  • 上下の唇を閉じると、下あごの先端にウメボシ状のしわがよる
  • 上の前歯の先端から下の前歯までの距離が4mm以上ある

2008-10-18 歯列矯正、という矯正治療

歯列矯正、という矯正治療

歯列矯正とは、永久歯(歯ならび全体)を動かす矯正治療のことです。矯正治療の目標は、バランスがよく、きれいで、よく咬める、永久歯の歯ならびかみ合わせ、ということなので、矯正治療として最終的な、精密さの要求されるステップです。

子供の頃から矯正治療を継続している患者さんにとっては、歯ならび・噛みあわせを完成させる「仕上げの矯正治療」の時期になります。すでに成長を終了した成人の患者さんの場合は、治療の当初から「歯列矯正」による歯ならびかみ合わせの治療が始まります。

歯列矯正ではどのような装置を使うのか?

最も一般的にはブラケットとアーチワイヤーを装着しておこないます(マルチブラケット装置といいます。)歯列矯正中の審美(見た目)を重視する場合にはブラケットとアーチワイヤーを歯の裏側に装着する舌側矯正や、ブラケットを極力使用しないマウスピース矯正(インビザラインやクリアアライナー)などを選択する場合もあります。歯列矯正では永久歯を3次元的に精密に動かす必要があり、このような点で最も万能に近いのはマルチブラケット装置です。現状でマウスピース矯正は壮麗により限界があるので限局的にブラケットを併用することもあります。

歯列矯正の期間や通院頻度は?

月一回程度の通院を2~3年程度継続していただく場合が一般的です。不正咬合のタイプ、難易度や患者さんの協力の程度などにより変動することもあります。歯列矯正の開始前には必ず矯正検査と診断、終了後には保定というメンテナンスの期間が必要です。

歯列矯正では永久歯の抜歯は必須?

抜歯が適しているかどうかは、検査結果の総合的な分析結果より判断します。当たり前の話ですが、抜歯の方が適している患者さんもいれば、非抜歯の方が良好な結果を得られる患者さんもいます。それぞれの患者さんにあった治療方針で歯列矯正をおこなうことが重要です。必要のない抜歯や、逆に無理な非抜歯での歯列矯正治療期間の長期化をはじめ治療に悪影響をおよぼす場合があります。

インプラント矯正とは?

患者さんのお口の中に、歯列矯正の期間中に限りチタン合金のピン(小さなインプラント)をうたせていただき、これを土台として歯を動かす歯列矯正の方法です。従来では複雑な治療が必要なタイプの不正咬合や、歯の移動量の多い歯列矯正などで治療の効率化、短期化に役立つ場合におすすめするものです。

手術の併用が必要といわれましたが?

骨格的なアンバランスが著しいために不正咬合となっている場合、あごの骨の手術を併用した歯列矯正を選択することがあります(外科矯正といいます。)歯を動かすだけではきちんとかみ合わせをなおせない場合や、不正咬合とともに顔のアンバランスも著しいときにおこないます。外科矯正健康保険の適用となる矯正治療です。

歯列矯正はすべて保険がきかないのですか?

健康保険の適用/適用外については、健康保険制度上の問題なのですが、一般的な矯正治療では健康保険は使えません。上記の外科矯正(顎の手術を併用する場合)と厚生労働大臣の定める先天性疾患のみが保険適用となっています。

医療費控除の対象になりますか?

審美(見た目の美しさ)のみを目的としたもの以外は医療費控除の対象となります。とくにお子様の矯正治療は代表的な医療費控除の対象です。成人の歯列矯正医療費控除の対象となるものもあります。保険の適用/適用外とは別の制度の問題なので必要に応じご相談ください。

2008-09-22 矯正治療にともなう抜歯について

矯正治療にともなう抜歯について

歯列矯正ではえてして、永久歯の抜歯が必要なことがあります。時折「歯を抜かなくてすむなら矯正治療をしたい」というお話を伺うこともありますし、もちろん抜歯など積極的にしたいことではないと思います。しかし、抜歯の是非の議論となる前に患者さんにご理解いただきたいことは、

  • 「抜歯」することが目的なのではなく、歯ならびや噛みあわせを治すための手段のひとつであるということ。
  • 予定・計画しておこなう抜歯処置なので、痛みや危険の心配がほとんどないこと。
  • 本当に抜歯が必要かどうかは、矯正治療の検査・診断の結果にもとづいて判断をおこなうものであること。

です。

通常歯列矯正では

  • でこぼこを解消する場所をつくるために、歯の間引きをしてスペースを作る
  • 上下のかみあわせのバランスを整える
  • 顔の(口もとの)バランスを整える

などを目的に抜歯を検討します。大切なのは、われわれ矯正専門医歯科医師として、「できるだけ歯を抜きたくない」という前提で考えているいて、それでも抜歯の必要がある場合にそのようなご説明をしているということです。実際のところ、抜歯すべき治療で歯を抜かなかったり、逆に非抜歯でおこなうべき治療で抜歯をおこなうと、結果的に治療期間や治療結果に悪影響をおよぼします。したがって、患者さん自身の要望や検査結果などから総合的に判断するべき大切な点であり、「絶対に抜く」「絶対に抜かない」などと先に決めてしまうものではないと思います。それぞれの患者さんにあわせた最適な治療方針の中で抜歯/非抜歯は決定されるべきものです。治療をおこなう私たち矯正専門医も、患者さんの要望に添う努力を惜しまない必要がありますし、同時に、実際に治療が始まるまでのながれのなかで充分なご理解がいただけるようなコミュニケーションが大切だと思います。

治療上の必要性」をご理解いただいても、あらためて抜歯がこわいと感じる場合もあると思います。矯正の抜歯は、打撲や虫歯の処置などと異なり、「あらかじめ計画された抜歯を予定通りに安全におこなう」ものです。緊急の処置ではないので当然安全性も高く、抜歯の際には麻酔をするので、抜歯自体の痛みを感じることはまずありません。最近では、麻酔用の自動の注射器も普及しており、麻酔自体の痛みも軽減できるよう配慮されています。

抜歯なんて嫌なものだと思います。その理由も様々だと思います。しかし本来の矯正治療の目的を達成するために最善の計画を選択していただくことが何より大切な点だと思います。

2008-09-21 子どもの交叉咬合:奥歯のかみあわせが横にずれる

子どもの交叉咬合:奥歯のかみ合わせが横にずれる

上の奥歯が下の奥歯の外側に被さっているのが正常なかみ合わせですが、これが逆になっている(下の奥歯が外側)ものを交叉咬合といいます。両側ともなっている場合と、片側だけなっている場合とがありますが、正面から見た際の顔の曲がりと関連している場合もあり、放置せず早期に治療すべき不正咬合のひとつです。

交叉咬合の原因はいくつかあり、

(1)上あごの歯ならびが下あごに対して相対的に狭い場合

(2)土台となる顔の骨格自体が横に曲がっている場合

(3)上記(1)と(2)の複合した場合

などが考えられます。完璧にかみ合わせ自体が曲がってしまっている場合もあれば、部分的に邪魔なかみあわせ(早期接触)があるために横にずらして噛んでいる場合もあります。

成長期の交叉咬合を放置すると、あごの骨が曲がって成長し、本格的な骨格性の交叉咬合(=顎変形症)に発展するリスクがあります。そのため、早期に正しいかみ合わせを確立し、左右対称の正しい成長発育となるように誘導することが大切です。上あごの歯列の拡大などをおこなうことにより、不正な咬合関係を解消し、正しい咬合関係とすることで、かみ合わせが成長発育に悪影響をおよぼさないようにしていきます。

永久歯列期の歯列矯正の方針は、二期治療の検査・診断時の条件により異なります。骨格性の原因により、あごやかみ合わせが大きく曲がっている場合には、外科矯正が適用になる場合もあります。このようなリスクを下げるためには、成長期からの矯正治療が大切です。

2008-09-20 子どもの開咬:前歯が噛めない

子どもの開咬:前歯が噛めない

奥歯できちんと噛んでも、前歯が噛み合わない状態を「開咬」といいます。前歯でモノを噛み切れなかったり、発音しにくい音があったり、また、鼻ではなく口で息をする習慣の二次的な弊害など、「開咬」がおよぼす悪影響はいろいろあります。成人歯列期の歯列矯正では、難易度の高い治療となることもあり、子どもの頃からの予防矯正・抑制矯正的なアプローチが重要な不正咬合です。

子どもの時期の開咬の治療

永久歯列期であれば、ブラケットとアーチワイヤーを装着して歯列矯正をしたり、症状によってはあごの骨の手術を併用した矯正治療をおこなうことにより、積極的に歯ならび・かみ合わせの治療をおこないます。しかし小学生ぐらいまではまだ乳歯が残っている時期のため、このような積極的な歯の移動を行なうことはできません。そのため、開咬の原因や要因となっていると考えられるものをこつこつと取り除いくことにより、正しいかみ合わせに成長していくように誘導していきます。そして、永久歯が生えそろった後に歯列矯正をおこない、最終的な永久歯の歯ならび・かみ合わせを完成させていきます。

食べ物を噛む、飲み込む、発音するなどといった一連の動作は、かみ合わせと深く関係しています。開咬の場合いくら噛んでも、上下の歯ならびの間に空間ができてしまうため発音や咀嚼・嚥下に支障がでます。そのため無意識のうちに、この空間を舌でふさぐ癖がついたり、正しい発音ができないまま成長してしまうことになります。舌や唇など口の周りの軟組織や、爪を噛む、指をしゃぶるなどの癖は、開咬の原因となると同時に開咬の状態を維持する要因になってしまうのです。成長期にこれらの癖を放置すると、どんどん本格的に開咬の状態に成長してしまうリスクがあるため、この時期の開咬の矯正治療は、開咬と関連する習癖の除去が最も重要になります。

「癖」というものは無意識にでてしまう体の行動です。癖をなくす、すなわち無意識の正しい習慣に転換するのは結構大変なことです。なによりも本人やご家族が「心がける」ことが大切になります。しかし本来の正しい習慣や、正しい習慣を身につけるために有効な方法を知らないまま努力するのは無理なので、そこで歯科医師や歯科衛生士による指導が重要になります。これらの指導〜トレーニングを「筋機能療法」といい、本来矯正装置をあまり使わずに、筋機能療法により正しい習慣が身に付くのが理想的ですが、場合によっては習癖をブロックする矯正装置を使っていただく場合もあります。

2008-09-19 子どもの時期のうけ口の治療:反対咬合

子どもの時期のうけ口:反対咬合

今回は、反対咬合についてです。通常前歯のかみ合わせは、上の前歯が下の前歯の2~3mm前方に被さっているのが普通です。これが逆(下の前歯が上の前歯の前方に咬んでいる)の状態を反対咬合といいます。一般的な俗称では「受け口」といわれます。

こどもの反対咬合の場合は、8歳ぐらいまでには矯正専門医受診されるのがベターです。

ひとくちに反対咬合といっても、原因は何通りかあります。

1.単純に歯の生え方で反対咬合になっている場合

この場合は、部分的に矯正装置を使用していくことにより、多少歯を動かして前歯のかみ合わせを正常にします。

2.上下の骨格のアンバランスにより反対咬合になっている場合

上あごの骨の成長がまだある時期(10歳頃まで)であれば、上あごの骨の成長促進をおこないます。上あごの歯列に矯正装置を装着し、これを着脱式の「お面」から輪ゴムで前方に引っ張ることで、上あごの成長をプラスしていきます。(「お面」タイプの矯正装置は着脱式なので、お家にいる時間帯に10時間以上はお使いいただく必要があります。お出かけのときに使用するのは現実的に無理なので。)10歳をすぎると、あごの骨の成長が終了するまで経過観察になる場合がほとんどです。以前はチンキャップという装置で下あごの成長を抑えることもしましたが、現在では弊害の可能性を重視し、適用する頻度はさがっています。

3.奥歯が咬む前に、前歯があたってしまうため、顎を前方にずらして咬んでいる反対咬合

本当はもう少し後ろで咬めるのに、前歯が邪魔なためにうけ口で咬んでいるタイプです。潜在的に上記の1や2の要因を含んでいる場合が多いので、検査結果に基づいた治療をおこない前歯が邪魔にならないかみ合わせにしていきます。

いずれの場合も反対咬合のまま放置すると、この後の成長発育期に、より骨格性の下顎前突に成長していくリスクが高まります。したがってよりよい成長発育に導くために、成長期にいちどかみ合わせを正しい前後関係に整えておく必要があります。万が一うけ口の原因が骨格のバランスによるものだった場合、10歳までに初期の治療(上顎骨の成長促進)を一段落する必要があるため、反対咬合のお子様の場合、8際頃にはいちど矯正専門医受診し、検査・診断されることをおすすめします。

反対咬合や下顎前突の傾向の強いお子様の場合、永久歯列期の歯列矯正は成長終了まで待ってからおこないます。

身長が伸びている間は下あごの骨も成長します。この時期にはすでに上あごの骨は成長終了しているため、骨格性の反対咬合がひどくなっていく可能性があります。歯の移動だけではなおせないほどの顎のバランスにまで下あごが成長した場合、あごの骨の手術を併用した矯正治療の可能性もあります。手術を併用する場合としない場合とでは抜歯/非抜歯の方針が逆転することが多いため、じっくりの上下の顎の関係が確定するのを待って歯列矯正の方針を確定します。

まとめると、

  • 成長終了後の骨格性のアンバランスを減少させるために、子どもの時期からの治療が大切です。また、骨格性の原因の場合を考えると、小学校低学年頃にはいちどチェックするのがおすすめです。
  • 骨格性の下顎前突の場合には、最終的な歯列矯正は、身長が伸び終わった後からはじめます。女子の場合中学3年生頃には開始できる場合が多いですが、男子の場合18~19歳以降の開始となります。
  • 骨格性の下顎前突が重度の場合には、外科矯正の可能性もあります。

2008-09-18 こどもの時期の出っ歯の治療

子こどもの時期の出っ歯の治療

あまり出っ歯という言葉は好きではないのですが、俗称としてほかに言葉がないので、説明上この言葉を使っています。歯科矯正の用語では「上顎前突」といい、下顎に対して上あごが相対的に前方にある状態のことをいいます。

正常咬合での上あごの前歯は、下顎の前歯の前方2~3mmに被さっています。

これよりも、上の前歯が前方に出ている状態を出っ歯、といっています。原因としては、

  • 上あごが骨格的に大きい
  • 下あごが骨格的に小さい
  • 上の前歯が前方に傾斜してはえている
  • 下の前歯が内側に傾斜してはえている

などが単独、あるいは複合して出っ歯の原因となっています。これらの原因や症状、成長発育段階などに良い治療のしかたが変わります。そのため、治療開始前の検査や診断が重要になります。子どもの時期の成長発育を利用できると骨格の問題にアタックすることも可能です。また、指しゃぶりや唇を咬む癖などの「習癖」を解消することで、不正咬合の状態を和らげながら正常な成長発育に近づけていくことも可能な場合もあります。り正常な成長発育に近づけ症状を軽くしておくと、その後の治療治療後の安定に有利になります。

実際の不正咬合は、でこぼこをはじめ様々な状態が複合していることが多いので単純には分類できませんが、おおまかに以下のような治療が代表的です。

上あごが大きい→上あごの成長抑制

上あごの骨が成長する時期に、上あごの骨に対して後ろ向きの力を作用させることにより、上あごの骨の成長抑制をおこないます。同時に奥歯を後ろに移動する作用が得られることもあり、上顎前突の定番の治療装置に”ヘッドギア”があります。着脱式ではありますが、頭にかぶる矯正用の帽子のようなものを装着してもらう必要があります。きちんと使ってもらえれば効果的な装置です。(しかしぱっと見大仰な装置なので時折いやがられます...)

下あごが小さい→下あごの成長促進

下あごの骨が成長している時期に、成長方向を前方に誘導するマウスピースのような装置などを使い、下顎の成長をかみ合わせや骨格のバランスが良くなるように誘導していきます。ほかにも口の中に固定する装置や、マルチブラケット装置と併用するタイプなど、同じ効果をねらった様々なタイプの装置があります。いずれのタイプも下あごの成長期に使用することで効果が得られます。

上の前歯が前方に傾斜している、下の前歯が内側に傾斜している

根本的、かつダイナミックに歯を移動する治療は、永久歯列期の歯列矯正を待っておこないます。しかし成長期はとくに、癖をなおすと自然にかみ合わせが良くなることが多いので、指しゃぶりや下唇を噛むなど、出っ歯の原因となる癖があれば積極的に取り除きます。癖を除去するために矯正装置を使用することもあります。また、部分的な歯列矯正や、着脱式の装置である程度かみ合わせを整える場合もあります。

成長期の一期治療(予防矯正、抑制矯正)のあとに、永久歯列期の歯列矯正をおこなうという、2段階での矯正治療が必要なことは、ほかのタイプの不正咬合と同じです。それでも成長期の治療により得られるものは多く、この時期を利用しないのはもったいないと感じます。

要点をまとめると、

成長期の出っ歯の治療では、かみ合わせの土台となる骨格のバランスを整えたり、不正咬合の原因となるような癖の除去などがメインです。
最終的な仕上げは永久歯列期の歯列矯正でおこないます。この時期に永久歯の抜歯の併用が必要な場合もあります。
2段階目の歯列矯正は中学生ぐらいから可能な場合が多いですが、この時期はまだ下あごの成長があるので、今しばらく成長促進をすることもあります。

2008-09-17 子どもの矯正治療:でこぼこ

子どもの矯正治療:でこぼこ

歯並びのでこぼこは、歯が生える場所が足りないとおこります。乳歯は永久歯とくらべて小さいので、でこぼこなく永久歯がならぶためには、6歳頃の乳歯列では多少すきまが余っていなければなりません。前歯が3~4本生えてくると、でこぼこが目立ちはじめることが多いのですが、その後の歯の生え変わりによりさらにでこぼこになる場合があります。とくに上あごは犬歯が生えてくる順番が遅いので、小学校5年生ぐらいの時期にあらためて八重歯になったりします。前歯が4本生えた状態で、前歯だけきれいにならべても、後から場所が足りなくなって八重歯になる場合もある訳です。最終的なでこぼこの程度は、永久歯が生えそろわないと確定しないため、小学校低学年ぐらいではでこぼこの問題を根本的に解消できない場合が多く、永久歯が生えた後の歯列矯正までを一貫して考慮する必要があります。上記の背景を考慮した上で、歯のはえかわりの途中の時期に、前歯のみ一時的に前歯だけきれいにならべる場合もあります。

原因や症状によりますが、この時期のでこぼこへの対処は状況により以下の方法があります。

保隙:(奥歯が前にずれないようにして、後から生えてくる永久歯の場所を確保する)

6歳臼歯などの奥歯が前方にずれないように止めておく処置のことを保隙と言います。奥歯が前方にずれてくると、後から生えてくる歯の場所不足がひどくなる可能性があるためです。虫歯などにより早くに乳歯を抜歯してしまった場合などにおこないます。

拡大(幅をひろげることで全体的に歯のならぶ場所を増やす)

歯列が狭いことが原因となっている場合には拡大をおこないます。ただし上下のかみ合わせの関係や、歯の生える土台となっている歯槽骨の限界もあるため、、無限に拡大できる訳ではありません。抜歯を避けるためだけに無理な拡大をとことんおこなうのはナンセンスです。拡大すれば抜歯が避けられるというものではなく、適正な拡大量におさめるのもまた重要なポイントになります。

前歯を前方に傾斜

これも歯列の拡大の一種です。もともと前歯が内側に傾斜している場合には、適正な角度まで前方に傾斜させると(歯ならびの円周も長くなるので)でこぼこの問題も解消できる場合があります。一方、前方に傾斜させすぎると口元が突出した横顔になってしまうので限度があります。下の前歯などでは、咬唇癖や吸指癖が原因になっている場合もあり、この場合は癖をヤメさせることで解決できる場合もあります。

奥歯を後ろへ移動

全体的に出っ歯のかみ合わせをともなう場合などでは有効な方法のひとつです。しかし6歳臼歯の後ろには将来12歳臼歯が生えてきます。やりすぎると奥歯の生える場所が足りなくなるので、これもまた限度があります。

将来の歯列矯正のときに永久歯を抜歯

上記のいずれの方法も不適当だったり、拡大や保隙では根本的に場所が足りない場合は歯列矯正の際に永久歯の抜歯をおこないます。ただし、本当に抜歯してよいかどうかは総合的に判断する必要があるので、永久歯が生えそろった後、上下のかみ合わせのバランスやでこぼこの程度などを検査してから決定します。

どの方法が適正かは、検査結果に基づいてきちんと決定することが大切です。また場合によっては歯列矯正の時期まで(=永久歯の抜歯ができるようになるまで)でこぼこのままガマンしていただかなければならない場合もありますが、でこぼこ以外の不正咬合が複合している場合も多いので、前歯が永久歯になった頃には、いちどは矯正専門医に相談された方が良いと思います。

矯正治療の最終目標は、永久歯列で、きれいでよく噛める歯並び・噛み合わせにすることです。子どもの時期はそのための途中経過と考えることができます。不正咬合の種類や程度、成長発育段階に合わせた適正な方針の選択が重要です


2008-09-16 成人の一般的な矯正治療のながれ

成人の一般的な矯正治療のながれ

前回は子どもの矯正の概要について書いたので、今回は成人の矯正治療の概要について書こうと思います。

矯正治療は基本的に何歳からでも可能です。

矯正治療により歯を動かすことは、基本的に何歳からでも可能です。ただしひとくちに「成人」といっても20歳代から60歳、70歳〜まで幅広く、それぞれ患者さんにより矯正治療の理由や目的などが異なってきます。

こども(成長期)の矯正治療と異なる点は?

成人の場合子どもと異なり、成長発育がすでに終了している点が最もおおきな相違点です。こどもの矯正治療の場合はあごの骨の成長発育にはたらきかけることが可能ですが、大人のあごの骨は今後それほど大きな変化はおきません。したがって、現時点でのあごの骨を土台とした歯を動かす治療歯列矯正が成人の矯正治療の中心になります。また、歯の移動のみでは十分にかみ合わせを治せないほど「あごの骨のずれ」が大きい場合、あごの骨の手術をともなう歯列矯正(外科矯正)をおこなう場合もあります。

一方「装置の目立たなさ」への関心の高さも成人の特徴だと思います。私の診療所の場合、舌側矯正インビザラインなどのマウスピース矯正を希望される患者さんの大部分が、成人期以降に矯正治療を開始される方が占めています。

成人矯正における「むずかしさ」とは?

大人の場合、永久歯がはえてから長い期間が経過しています。そのため、人によっては虫歯歯周病が進行していることがあります。また何らかの理由によりすでに抜歯などをおこない部分的に歯を喪失している場合もあります。これらの状況が患者さんの状況や背景により異なります。お口の中の状況に反した無理な治療目標・治療計画はむしろ歯の安定を損なうリスクを高めてしまう場合もあり、それぞれの患者さんにあわせた治療目標や治療計画を設定する必要があります。

矯正治療の目的も、きれいな歯ならび(審美)を目的にされる場合をはじめ、ブリッジなどの補綴処置をよりよい状態でおこなうための術前処置としての矯正治療や、歯周病治療のために並行しておこなう矯正治療など、包括歯科診療の一翼を担う場合など多岐にわたります。いずれの場合も長期間よい歯ならび・かみ合わせで気持ちよくすごせるようにすることを目標としていることにはかわりがありません。当初にも述べたように、基本的に成人矯正は年齢と関係なく可能なものです。気になる点があればいつでも気軽にご相談されると良いと思います。

治療のながれはどのように?(肝心なことを忘れていたので追加します)

治療開始までのながれは大まかに子どもでも大人でも変わりません。まず最初に、「初診相談」をおこない、治療の概要を知っていただきます。治療の概要とは、治療の期間や通院頻度、費用、抜歯の可能性など、矯正治療をほんとうに受診するかどうかを考えるのに必要な基本情報を、ある程度専門的な知識を交えて、正確に知っていただくための機会です。初診相談の結果、検査・診断を受診される場合には、矯正治療のためのレントゲン、印象採得などの検査をおこない、検査結果に基づく治療の目標と計画を立案します。ここまでの段階で「矯正治療でどこをどのようになおしたいか」(主訴といいます)を十分に担当医にお伝えいただくことが重要です。患者さんのお話や検査結果を総合して、どのような治療目標で、どのような方法で治療していくのか、場合によっては抜歯などの処置が必要なのか、などが確定します。これらのプランが納得いただけてはじめて矯正治療の開始となります。

成人の矯正治療なので、多くの場合歯列矯正の開始となります。一般的には表側の矯正装置を使用して歯の移動をおこないます。通常約一ヶ月に一度の処置を繰り返し、上下全体の矯正治療の場合で概ね2~3年の期間で歯ならびを完成させます。歯の移動を行なった後は、いきなりすべてをヤメてしまうと後戻りのリスクが高いので、「保定」というメインテナンスの期間をもうけるのが普通です。審美的矯正装置を希望される場合には、舌側矯正マウスピース矯正(インビザラインやクリアライナーなど)を使用する場合もあります。これらの審美的矯正装置では、不正咬合の状態により適否があるので、事前の説明とご相談が非常に大切になります。

実際の矯正治療では、虫歯の有無、歯周病の有無・程度、ブリッジなど補綴処置の必要性などに、治療の計画は大きく左右されます。歯科治療の一環である矯正治療では、患者さんの要望に可能な限り応えて主訴を解決すると同時に、歯科治療としても適正な治療をおこなう責任があります。治療が始まる段階での患者さんの希望と、歯科医師歯科的な判断とが概ね一致していることが、矯正治療上とても大切だと思います。折角の矯正治療をより良いものにするために、まずはご希望をしっかりお伝えになり、同時に担当医の説明もよくお聞きになって、充分なコミュニケーションをはかっていただければと思います。

2008-09-15 こどもの頃からはじめる矯正治療

こどもの頃からはじめる矯正治療

今回は、子どもの頃からはじめる矯正治療の意義やタイミングなどについて、もうすこし詳しく書こうと思います。

成長期に矯正治療を開始する意義は?

矯正治療は最終的に、永久歯でよく噛めて美しい歯並び・かみ合わせを目標にします。そのためたいていの場合、子どもの頃から矯正治療を開始しても、永久歯が生え揃った後に「歯列矯正」もおこなう必要があります。それでは当然「永久歯が生え揃ってからの歯列矯正だけではダメなの?」という疑問がうまれますよね?この疑問に対するもっとも単純明快な回答は、「子どもの頃から一貫した矯正治療をおこなった方が、よりよい結果が得やすいから」ということだと思います。

歯はあごの骨を土台して生えています。上下のあごの骨の大きさやバランスは、顔のかたちを形作るとともに、歯ならびやかみ合わせに多大な影響を及ぼしています。(あごのバランスが悪いとかみ合わせもずれている場合が多くなります)同時に、歯ならびやかみ合わせも顔のバランスや印象におおきな影響を与えています。成長が終了した後の成人の矯正治療では「歯を動かすこと」により治療をおこないます。逆に言うと、成長発育が終了すると、顎の大きさや形に変化が起きないため、歯の移動に限定された矯正治療をおこなうことになります。一方成長期にはあごの骨も成長により変化していきます。上あごの骨は10歳ぐらいまで、下顎の骨は身長が伸びている間は成長するので、この期間を利用した矯正治療により、かみ合わせの土台となるあごの骨のバランスを整えることが可能になります。これらの治療は、顔全体のバランスを整えることにもつながります。

一方、この時期の不正咬合を放置すると、自然に不正咬合が解消されることはまず期待できず、むしろ成長発育にともない不正咬合のまま安定してしまったり、さらに強まってしまったりすることもあります。(たとえば小学生の頃の下顎前突(うけ口)は、中学生〜ぐらいの身長が伸びる時期にさらに強まるリスクが大きい不正咬合です。)また、指しゃぶりや咬唇癖などの習癖はさまざまな不正咬合の原因・要因となるので、不正咬合の状態のまま成長していかないようにこれらの癖を解消することも重要です。

歯ならびのでこぼこは子どものうちに治せませんか?

でこぼこの程度や原因によっては、子どもの頃から解消が可能な場合もあります。しかし一般的に、永久歯が生えるにしたがってでこぼこが強まる可能性があり(たとえば、上あごの犬歯は小学校5年生頃に生えてくることが多く、生える場所が足りないとこの時点で「八重歯」になります)また、根本的に歯が生える場所が足りない場合には、永久歯の間引き=抜歯が必要になる場合もあります。したがってでこぼこの治療は永久歯が生え揃った後にトータルで判定する必要があるため、永久歯列期の歯列矯正をおこなう必要性がでてきます。

成長期の矯正治療はいつからはじめた方がよいですか?

不正咬合のタイプや成長発育段階により治療の方針や内容は変わってきます。ですから、まずお気づきになったときに矯正専門医にご相談されると良いと思います。しかし例えば、上あごの成長を利用する矯正治療が必要な場合、10 歳ぐらいまでに治療を一段落させる必要があります。一方、あまりに乳歯ばかりだとまだ治療が開始できない場合もあります。このような事情を考えると、上あごの前歯が3~4本永久歯になった頃に、いちどご相談されると良いと思います。

子どもの時期からの矯正治療のながれは長期にわたりますが、将来の歯列矯正の難易度を下げる効果もあり、より良い結果が得やすくなります。歯列矯正の難易度が下がる、ということは、歯列矯正においてマルチブラケット装置を装着する期間を短縮できるばかりでなく、より良いかみ合わせを得やすくする効果があるので、いずれ矯正治療受診する必要があるのであれば、成長期から矯正治療受診されるのがおすすめだと考えています。

2008-09-13 子どもの時期の矯正治療と、大人の歯列矯正

子どもの時期の矯正治療と、大人の歯列矯正

矯正治療の基本的なゴールは、「きれいでよく噛める永久歯の歯ならび・かみあわせ」です。永久歯をきれいにならべるには、すべて永久歯が生え揃った後に、[歯列矯正]をおこなう必要があります。したがって、永久歯が生え揃った後の矯正治療(成人の矯正治療など)のばあい、治療の当初から歯列矯正が始まります。

一方、永久歯が生え揃う前の成長期では、歯列矯正の前段階の成長期に、あごの骨のバランスや、歯の生え変わりの管理などの成長発育にあわせた治療により、将来の歯列矯正でより良い結果を得やすくなります。

大人の矯正治療 [歯列矯正]

大人の場合(あたりまえですが)成長発育はすでに終了しているので、あごの骨の大きさやバランスには大きな変化はおきません。したがって現在のあごの骨の範囲内で永久歯を動かして歯ならび・かみ合わせの治療をおこないます。もっとも一般的な装置は歯の表側にブラケットとアーチワイヤーを装着するマルチブラケット装置ですが、ご希望や症状によりインビザラインなどのマウスピース矯正や舌側矯正などの装置で歯列矯正をおこなう場合もあります。また、あごの骨のバランスが大きくずれている場合には、あごの骨の手術を併用した矯正治療(外科矯正)をおこなう場合もあります。

子どもの時期から始める矯正治療

子どもの時期から始める矯正治療の場合は、成長期(主に小学生ごろ)の治療と、永久歯が揃った後の歯列矯正、の2段階で治療をおこないます。あごの骨の成長や歯が生え変わる成長期には、あごの骨の成長促進・成長抑制や、不正咬合の原因となる口もとの癖の解消などを主におこないます。この時期にかみ合わせの土台・基礎となる部分を成長発育とともにできるだけ整えておいて、最終的な歯ならび・かみ合わせの仕上げを歯列矯正でおこないます。逆に、最終的なあごの骨のバランスや歯ならびのでこぼこの程度などは成長発育が一段落しないと確定しないので、抜歯/非抜歯の判断などが必要となる歯列矯正については、安全に判断できる時期を待ってから開始することが重要になります。歯列矯正が開始できる年齢は不正咬合のタイプや性別などにより異なり、早い方では中学生ぐらいから、遅い方では19歳頃まで歯列矯正の開始を待たなければいけない場合もあります。

矯正治療は基本的に何歳からでも可能な治療です。それぞれの状況にあわせた治療の目標、プランをたてるものなので、気になったときに矯正専門医にご相談されると良いと思います。一方、いずれ矯正治療を行なう予定であれば、成長期から治療を開始したほうが矯正治療全体から得られるものは多くなります。また、不正咬合のタイプにより治療に最適な年齢、成長発育段階もあるので、前歯が4本永久歯になった頃には矯正専門医にいちどご相談されると良いと思います。

2008-09-12 矯正治療が始まるまでのながれ、について

矯正治療が始まるまでのながれ、について

矯正治療をはじめるには、あらかじめ開始前に知っていただきたいことがたくさんあります。

どのような医療行為であもインフォームドコンセントは重要です。矯正治療の場合には、一般的に長期にわたる治療期間や、どの段階でどのような費用が必要になるのか、またかみ合わせの症状や患者さんの年齢、成長発育段階などによる治療内容や時期のちがいなどを大まかに知っておいていただく必要があります。そのため矯正歯科の初診では「初診相談」と呼ばれる概要の説明とご相談から始まるのが一般的です。

最初のステップ [初診相談]

治療の期間、タイミング、抜歯の必要性、費用などについて、患者さんの症状や成長発育段階にあわせたご説明を行います。これらの基本情報を知っていただいたうえで、この後の検査・診断を受診するかを考えていただくステップです。初診相談を受診された段階で、矯正治療がご希望に添うものではないとお感じの場合には当然この段階でストップすることが可能です。

第2のステップ [検査]

矯正治療治療方針・計画は、検査結果に基づいて正確に行う必要があります。矯正治療の検査では、パノラマエックス線写真撮影、セファログラム(側貌規格レントゲン撮影)、上下の歯ならびの型の採得、歯ならびや顔の写真撮影などをおこないます。セファログラムの分析により顔やあごの骨の大きさやバランスなどを正確に把握することが矯正治療の基本になるので、セファログラムの撮影は、矯正治療において最も重要かつ必須の検査のひとつです。これらの分析は即時におこなうことが不可能なため、診断までに数日〜の期間をいただく必要があります。また、検査の結果、追加の検査が必要になる場合もあります。

第3のステップ [診断]

検査結果に基づき、1)現状の正確な把握、2)成長期の場合には成長予測、3)治療方針・治療計画の決定、をおこないます。治療の方法や使用する装置、時期、タイミング、永久歯列期の歯列矯正の場合には抜歯の必要性についても確定されると同時に、今後の矯正治療治療費についても確定します。これらのお話をご理解いただいたうえで、矯正治療を開始するかどうかをお考えいただくステップになります。矯正治療の計画をご理解されたうえで納得が得られない場合にはこの段階で中断することがもちろん可能です。

いちど矯正治療を開始されたら、中途半端な治療段階で中断になると弊害のほうが多くなってしまうため、きちんと一段落するまでやりきることが重要です。一方最初にも述べたように矯正治療は長期間に及ぶので、治療開始前の患者さんのご理解は非常に重要で、したがって治療開始前の初診相談から診断までのステップは、実際の治療以上に重要なステップです。ミスコミュニケーションによる誤解は、折角の治療をつらいものにしてしまいかねないので、まずこの段階で十分に納得ができるまで担当医とお話されることがとても大切です。治療開始前のステップが意外と長いのも矯正治療の特徴といえるかもしれません。よりよい治療のための大切なステップだということをご理解いただければと思います。

2008-09-11 健康保険適用となる矯正治療

健康保険適用となる矯正治療

昨日に続き、矯正治療健康保険に関する話題です。

ほとんどの一般的な矯正治療健康保険の適用になりません。適用になるのは、(1)厚生労働大臣が定める、歯ならび・かみ合わせにも治療が必要となる先天性の病気と、(2)あごの骨を切る手術の併用が必要な歯列矯正(外科矯正)、に限られています。(平成20年現在)

(1)の厚生労働大臣の定める先天性疾患とは、昨日も列記しましたが、

[唇顎口蓋裂、Goldenhar症候群(鰓弓異常症を含む)、鎖骨・頭蓋骨異形成、Crouzon症候群、Treacher-Collins症候群、Pierre Robin症候群、Down症候群、Russell-Silver症候群、Turner症候群、Beckwith-Wiedemann症候群、尖頭合指症]の11疾患で、小児科などをはじめ形成外科、耳鼻科、小児歯科...など、多くの診療科目にわたって専門的な治療・処置を必要とする場合が多いため、現在のところ大学病院をはじめとする総合病院や比較的規模の大きい病因での治療が主体となっています。

(2)のあごの骨を切る手術の併用が必要な歯列矯正(外科矯正)とは、

歯ならびの土台となるあごの骨の大きさやバランスのずれが大きく、きちんとしたかみ合わせにするには手術が必要な場合をさします。本当に手術が必要かどうかは、あごの骨の成長が終了し、上下のあごのバランスが決まらないと確定できないことになっています。とくに下顎は身長が伸びている間は大きくなるので、手術が必要な歯列矯正になるかどうかは、背が止まるまで確定できないということになります。手術の併用が必要になりそうなお子様の矯正治療の場合、成長期のうちに、できるだけ手術のリスクを下げるための予防的な矯正治療が必要になるのですが、この時期には「本当に手術が必要かどうか」ということが確定できていないので、この段階の矯正治療は自費(保険の適用外)、成長終了後の歯列矯正のための検査・診断結果で手術が必要と確定した後から健康保険が適用可能となります。

上記いずれの矯正治療においても、健康保険の適用には、受診する医院・病院が都道府県知事から育成医療や更生医療などの指定を受けている必要があります。指定を受けるには、経験・業績のある矯正専門医が常勤していることや、外科矯正を行うためには顎や筋肉の動き、働きを測定する特殊な検査機器を設備しているかどうか、などの条件があります。また、外科矯正の場合には手術を行う口腔外科の医療施設も同様の指定を受けている必要があります。

2008-09-10 矯正治療の費用(1) 健康保険とはなにか

矯正治療の費用(1) 健康保険とはなにか

矯正治療では健康保険が使えないのはなぜ?

矯正治療は保険がきかない、という話がよく出ます。(実際には矯正治療が保険適用となる疾患もわずかにありますが、一般的な矯正治療では保険がきかないものがほとんどです)そこでそもそも、健康保険制度とはどういうものなのでしょう?矯正の話題を逸れるし小難しい話になりますが、矯正治療に保険が使えないのは、健康保険制度ゆえのことなので、今日は「健康保険」について書こうと思います。

健康保険とは日本の公的医療保険制度です。

細かく言うと社会保障のうち社会保険(医療保険)に分類され、健康保険に加入する[被保険者]が医療の必要な状態[=要医療状態]になったときに、医療費の一部を[保険者]が負担する制度です。[保険者]とは、健康保険事業を運営するために保険料を徴収したり、保険給付を行ったりする「健康保険の運営主体」のことで、健康保険組合や、政府管掌健康保険の場合には政府がこれにあたります。また、[被保険者]とは、健康保険に加入し、病気やけがなどをしたときなどに必要な給付を受けることができる人のことをいいます。

健康保険による医療費の支払いは、[保険者]がみとめる[要医療状態]において、[保険者]がみとめる[治療方法]で治療をした場合のみ、適用となります。

つまり、[保険での治療が認められている病気やけが]を[保険でみとめられている治療方法・薬剤]のみで治療した場合のみ、健康保険が医療費(の一部)をカバーしてくれる、ということです。原則的に混合診療は禁止されているので、[要医療状態]であっても、保険適用外の処置や薬剤などが併用されると、治療全体が保険非適用=自費=全額自己負担での治療、という制度になっています。こう書くと、健康保険が気が利かない制度のように感じてしまいますが、そんなことはありません。「治さないと困る病気・怪我を、標準的な治療方法で治療する」ということを全体的にカバーしている制度であり、僕たちの生活の基本を支えている制度のひとつです。しかしそのような性格の制度であるため、QOLの向上などを主に期待した医療行為などは保険の適用外になります。矯正治療においても、一部健康保険の適用がみとめられている「疾患」がありますが、大部分の「不正咬合」はこれにあてはまらないため、ほとんどの患者さんの矯正治療は自費で治療を行なうことになります。他の医療分野での例を挙げると、通常の出産で産婦人科を受診する場合は自費診療となりますが、帝王切開での出産(=帝王切開しなければ出産がうまくいかない状況)は健保適用となります。

(参考)矯正治療が健康保険の適用となる疾患(平成20年現在)
  • 厚生労働大臣の定める先天性疾患の矯正治療:唇顎口蓋裂、Goldenhar症候群(鰓弓異常症を含む)、鎖骨・頭蓋骨異形成、Crouzon症候群、Treacher-Collins症候群、Pierre Robin症候群、Down症候群、Russell-Silver症候群、Turner症候群、Beckwith-Wiedemann症候群、尖頭合指症
  • 顎変形症の歯科矯正治療

ちなみに、矯正治療の費用は自費での治療であっても医療費控除の対象になる場合があります。公的制度の利用のひとつとしてお知りおきください。