原田治ノート

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2005-09-15 珈琲

osamuharada2005-09-15

ジム・ジャームッシュ監督の『コーヒー&シガレッツ』のDVDを観たら、コーヒーに関しては日本人的感覚とは別のものという、違和感を感じてしまいました。ジャームッシュ好きのサブカル映画オタクと、カフェ派少女(実際は30歳代)あたりだったら、この雰囲気を盲目的に支持しちゃいそうですが、ぼくのトシでは興味のない世界でした。映画としては、大昔のゴダールの描いた不毛の世界観を、外見だけそっくりの偽ブランド品。ただぼくの最近のひいき女優ケイト・ブランシェットの、一人二役芝居だけは楽しめました。そこだけジャームッシュのタッチには染まらない英国式演劇調で、やっぱりケイトはたいした役者なのでした。

 横道にそれました、コーヒーの話をしようとしてたんですね。三十年も昔、京都のイノダコーヒ三条店で猪田さん(上の写真は近影)が焙煎して淹れてくれたコーヒ(ヒーとのばさない)にハマってしまったのが、ぼくの珈琲を旨いと思った最初なのでした。お店では昼食の後で飲むのと、夕食前の空腹時で飲むのとでは、違う味と淹れ方をするといった、お客さんの体調を大切にした気遣いでした。またカウンター内のステンレスの厨房はいつも清潔に保たれ、ものの配置は見事に合理的で、猪田さんの温度調節を考え抜いたコーヒを淹れる手際には、見ているだけでぼくは感動しました。気取りも、てらいも無い、職人気質そのものでした。

親しく口をきいてくれるようになったら、秘密を打ち明けるかのような感じでこんな話をしてくれました。コーヒ豆を焙煎するのも、その日その日の、できふできがあるということで、自分自身の調子が良くって、非常にうまく豆を煎れた時は、豆のひとつぶ一粒が、みんな喜んでくれて、嬉しそうに自分に礼を言ってくれる顔が、よく見てとれるんだそうです。それが一番の楽しみやけど、いつもそううまくはいかへんから毎日毎日が勉強ですわ。と翁のような満面の笑みで話してくれました。

その猪田さんがイノダから引退されて10年近く、先日たまたま三条店に行ったら、ばったり会いました。時々古巣をのぞきにこられているそうです。ぼくは猪田さんファンだったので、今の観光化したイノダは、味も落ちてひどいし、この厨房だってきれいとはいえない、などと思わず口をついて苦言を呈しました。すると猪田さん、懐かしい満面の笑みを浮かべて、実は今も個人的に焙煎だけして、つまりぼくのようなオールドファンのためにつくっている由。さっそく教えてもらったのが、「AKIOブレンド」(猪田彰郎さんなので)です。北大路通り今宮神社の門前にある、紫野の「はしもと珈琲」で、表には出ていないけれど、言えばその日に煎った袋入りをすぐ出してくれます。

京都紫野(むらさきの)は、映画監督をしていたぼくの祖父が東京から移り住んで、終世いた場所なので、さらに心ひかれて「はしもと珈琲」を訪ねました。見覚えのある店員さん、むかし猪田さんのいた頃の三条店にいた人でした。お弟子さんですね。やっぱり日本人に合う珈琲はこうこなくっちゃ。獅子文六のユーモア小説『可否道』を、ゆくりなく思い出してしまいました。

AKIOブレンド(予約したほうがいいでしょう) 

『はしもと珈琲』 京都市北区紫野西野町31-1  TEL 075-494-2560