PAPERBACK のイラスト

osamuharada2013-12-12

今夏ニューヨークでは、スティーヴン・キングの PAPERBACK(廉価版の本)の新刊【 JOYLAND 】が、どこの本屋やキオスクでも目についた。高級なハードカバーではなく、いきなりペーパーバックでの新刊本。大衆向けのミステリーといえば、やはりこの判型とデザインが嬉しいな。しかも昔懐かし DETECTIVE STORY 風のイラストが使われていたのです。新しく描いたものだと思うけれど、50年代スタイルのイラストレーションを踏襲していてかっこいい。
これはキング自身のたっての所望で、大手の出版社からではなく、ペーパーバックのミステリー専門のような独立出版社 Hard Case Crime から上梓されている。なんでもキングは若い頃に、こういったパルプ・ノワール系の大衆小説を読み耽っていたそうだ。いまや大ベストセラー作家の大御所キングが、弱小の出版社を経済的にも応援するという意向もあったらしい。原点であるペーパーバック・ライターとして好んで書いたミステリーということになる。恩返しというわけかな、本好きにはちょっといい話ですね。半世紀前の古めかしいイラストとデザインにも光をあててくれた、ありがとう。
写真左の雑誌、前述した「ソサエティ・オブ・イラストレーターズ」から刊行されている【 Illustration 】誌のなかの広告ページです。主に5、60年代のペーパーバックや雑誌などに使用されたイラスト原画の複製を売っています。ノスタルジックでマニアックだけれど、欲しくなるね。古きよきアメリカの、明快なリアリズム様式イラストレーション。同時代に同じような画風が流行して、特にイラストレーターの名前など記憶に残らないくらい誰もが同じ描法だった。むしろ無名の職人気質のようなものが一貫していて清々しい。挿絵画家のちっぽけな個性などに逡巡されることもなく、そこがまたかっこいい。江戸の浮世絵にも似て、よきイラストは、よき時代と寝ているものですね。
PAPERBACK は、アメリカなら「ポケット・ブックス」、英国は「ペンギン・ブックス」、フランスなら「クセジュ」、など大手出版社がありますが、日本のミステリー小説なら、なんてったって早川書房の「ポケミス」ですよね。アブストラクトの表紙絵は、画家の勝呂忠さん(1926〜2010)がずっとお一人で描いていらした。アメリカ版のように風俗的イラストではなかったが、これはこれで翻訳ミステリーに抽象がピッタリあっていたと思う。勝呂さん亡き後の、現在のポケット・ミステリーの表紙は、さえない今風デザインばかりになってしまってガッカリだな。
日本版キングの新刊【 JOYLAND 】は、最初から文庫オリジナル作品として刊行予定だそうです。廉価版といっても文庫のカバー装幀では味気ないけど、早く邦訳で読んでみたいな。 夏に読んだキングの傑作中編ミステリー→[id:osamuharada:20130807]  NYの「ソサエティ・オブ・イラストレーターズ」はこっち→[id:osamuharada:20130625]