「鈍感力」、「老人力」、そして「病人力」で、生き抜こう。

クリエーティブ・ビジネス塾29「健康格差」(2018.7.16)塾長・大沢達男

「鈍感力」、「老人力」、そして「病人力」で、生き抜こう。

1、健康格差
「『仕事をしていて、一戸建てに住んでいて、結婚している人』は、『無職で、集合住宅に住んでいて、結婚していない人』に比べると、骨折が6割も少ない」(『健康格差社会』を生き抜く」p.18 近藤克則 朝日新書)。
なぜそうなるのか。健康格差は社会経済的格差から生まれる。「社会疫学」は、健康の社会的決定要因に関する科学で、それを明らかにする。健康格差をなくすためには、社会環境を変えなければならない。
なるほどねえ、と思います。マルクス資本論です。労働者の貧困の原因は、社会経済のしくみに問題がある、従って革命によって社会経済を変えなければならない。
2、鈍感力、老人力、病人力
高齢化社会の議論は、人は年齢とともに衰え死んでいく自然の摂理を、無視しています。老人を認知症という病人にして大騒ぎをし、厄介者、邪魔者にしています。老人は社会の財産です。それも日本社会の文化的財産です。老人の力を見直すべきです。
1)鈍感力(『鈍感力』渡辺淳一 集英社文庫
鈍感力とは老人のしたたか力です。『鈍感力』は、平成19年(2007)に100万部のベストセラーになり、流行語になりました。鈍感力とは、自律神経の副交感神経を働かせる、恋愛力です。鈍感力は日本文芸の中心にありました。世界最古の長編小説『源氏物語』は恋愛のあれこれを描いたいわば「鈍感力文芸」です。
2)老人力(『老人力赤瀬川原平 筑摩書房
老人力は、耄碌として忌避されてきた現象に潜むとされる未知の力、です。1997年に赤瀬川原平らによって発見されました。赤瀬川らは、日本美術の美意識「わびさび」が老人力によって形づくられた、と主張します。言われるまでもなくピカソマチスより、東山魁夷平山郁夫の画の方がはるかに枯れています。日本美術は「老人力美術」です。
3)病人力
「友とするに悪き者、(中略)病なく、身強き人。」(『徒然草』 旺文社文庫 p.192)。14世紀の吉田兼好は、友達にするのによくない人に、病気知らずの健康な人をあげています。思いやり、感謝の気持ち、我慢を知らないからです。そして病人は、必ず病院のベッドの中で神仏への祈りに目覚め、祖先を思います。病人力によって、日本人は日本人になります。
3、ユマニチュード
「ユマニチュード」と呼ばれる認知症ケア技術があります。フランス人のイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが、40年かかり哲学と技術体系を作り上げたものです。ユマニチュードとは「人間らしくある」という意味のフランス語です(「フランス発『奇跡の認知症ケア技術』本田美和子 『文芸春秋』7月号)。
ユマニチュードは、認知症がある人々の人権と自由を守り、ポジティブな人間関係を結ぶ、という根本的な哲学を持っています。老人と会話がほとんど成立しなくなっても、感情豊かで、文化的にも歴史的にも背景を持つ人格者ということを忘れません。
まず「見る」。同じ目の高さで、近くから、長く見つめるアイコンタクトをとります。ケアをする人は相手の瞳を見つめることはまずない。それでは相手にとって存在を認められていないのと同じです。
第2に「話す」。ゆっくりと、優しく歌うような抑揚のある調子で、前向きな語彙を用いて話します。「ありがとう」、「楽しい」、「うれしい」。言葉だけでなく、非言語的なメッセージもケアでは必要です。
第3に「触れる」。触れるという行為が無造作に行われています。触れるは攻撃を意味することもある。優しさを伝えるために、広く大きな面積で包み込むように触り、下から支えて、ゆっくり動かす必要があります。
そして第4に「立つ」。立つということは人間にとって根源的なことです。ユマニチュードでは1日20分ほどあえて立つ機会をつくります。寝たきりにならないで済むからです。ユマニチュードにより、ケアが困難な者が、受け入れてくれるようになり、「奇跡だ」、「魔法のようだ」と驚かれています。
本田美和子東京医療センター総合内科医長は、「患者」という言葉を意図的に使いません。つまり高齢者を邪魔者にしていません。高齢者の未知の力を認めています。2024年には3人に1人が65歳以上の超高齢化社会になります。そこで、健康礼賛社会と高齢者軽視社会に決別をします。
○平成「老」人権宣言「すべての老人は、耄碌し、病弱になり、そして老いて死ぬ権利を有する」