記憶の底で惰眠中

 と、そんなふうに親の横で観た映画の多くはほとんど記憶に残っていないか、あっても断片的なものだ。だからそのタイトルを知ることもない。
 しかし特に断片的でも強く印象に残ったのが、昨日ふれた「青い麦」だった。なにせ年頃のお兄さんが裸のままで海からよろよろと上がり、その一部分だけを小さな帽子で隠しているのを見て、同世代の女の子がケラケラ笑っているのだからね。彼らの半分ぐらいの年齢でその映画を観て、彼らの年齢の三倍ぐらいになって、やっとそのタイトルを知ったことになる。やれやれ。これは冒頭のシーンだったが、最後のシーンだけを憶えていた映画もある。
 ある男が断頭台に送られる。その首が飛んだ瞬間にその男ととある女がクルクルとダンスをする。そんなシーンだった。この映画も「青い麦」と同様に何十年もタイトルがわからず、全体のストーリーも不明だったのだが、数年前に偶然テレビをつけたら、見覚えのある女優の映画が放映されていて、その数分後にこれがあの最後のダンスを踊るの映画に間違いないと思った。ちゃんと覚えていたのは最後のシーンだけだったが、なんとなくその途中も記憶の底で眠っていたのかもしれない。ちなみにこの映画のタイトルは「肉体の冠」で、その女優とはかのシモーヌ・シニョレだったのである。
★近くの公園のカワセミです。