「変人」は褒め言葉 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

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2005-08-07

[]「女王の教室」に学ぶ マインドコントロール入門 「女王の教室」に学ぶ マインドコントロール入門を含むブックマーク 「女王の教室」に学ぶ マインドコントロール入門のブックマークコメント

 私が「女王の教室」というドラマを興味深いと思う点の一つは、人はいかにしてマインドコントロールされるかをよく描いているところである。「マインドコントロール」というと、よっぽど頭のキレる政治家やカルト宗教の悪党共が使うかなり複雑で特殊なテクニックだと誤解している人も多いが、本当は、からくりの骨組みそのものは至極単純である。

前提条件

  1. 上下関係があること。これだけ。たとえば教団幹部と信者、党幹部と党員、先生と生徒、医者と患者セールスマンと客といった関係のこと。

手順

  1. 必要があるなら、古い価値観を除き去る。
  2. そして新しい価値観を植え付け続ける。
  3. 目標を達成した者や上位者に従った者にはアメを与える。
  4. 目標を達成できなかった者や上位者に逆らった者にはムチを与える。
  5. 上位者の権威を脅かす情報が広まったり、反逆者が団結しないように徹底的な情報統制を敷く。

 拍子抜けするかもしれないが、たったこれだけである。

 まず、古い価値観を除き去り、新しい価値観を植え付け続ける必要がある。これは、もっともらしい教えなら何でもよい。たとえ詳しく調べてみると理論が破綻していたとしても、その「理論の破綻」そのものが間違っていることにすれば良いだけの話なのだから。具体的には、その「詳しく調べる」ことを禁止したり、詳しく調べた者の意見を受け入れようとする者に「そんなデタラメを言う人のことをお前は信じるのか」「それを信じるのは、師に対する恩知らずだ、集団から村八分にするぞ」などと言って、巧妙に封じ込めれば良い。また、植え付け「続ける」と書いたのには理由があり、これは継続して教え続けなくてはならない。何度も何度も刷り込まれることによって、たとえデタラメな価値観であっても、それがどんどん強化されていく。

 次に、「アメとムチ」である。これは、「金銭」とか「労働」のような、別に俗世間で通用するような特典や処罰である必要は全く無い。極端な話、只の紙切れを「褒美」にしてもよい。よく行われるのが、集団に属する人々に順位を付ける事や、肩書や特別職などを設定して、名誉あるいは不名誉な立場に移動させることである。「自分はみんなからどう見られているか」をコントロールしてやる事が、アメとムチになるというわけである。

 そして、普通のしつけや教育とマインドコントロールの異なる大きな一つの点、それは最後の「情報統制」である。上位者の一番恐れているのが、「下剋上」である。上位者が上位者としての権威をあえて保つために何をするか。それは、上位者の権威を脅かす情報を下位者が受け入れないようにする事と、下位者が反逆者にくみして一致団結しないようにする事である。前者については、別に情報そのものを規制する必要は無い。「反逆者のデタラメな情報に騙されるな」「あなたは、どちらの情報が正しいか既に知っているはずだ」と言って、情報の権威を貶めれば良いだけである。また、人を説得する際には複数人を相手にする代わりに、一人でいる時を狙うか、一人一人ばらばらに分けて説得する。こうして隣の友人と相談する機会を奪い、自分のペースに持ち込むのだ(悪徳商法のセールスマンがよく用いる手段でもある)。後者については、反逆者を村八分にして親しい付き合いを禁止する事や、集団に属する個人個人をスパイに仕立て上げ、反逆者と付き合っている人だけでなく、その人について知っているのに密告しなかった人も反逆者と同じ扱いにして集団から仲間外れにすればよい。「彼ら反逆者の仲間になるな、彼らの言う事に耳を貸すな、彼らと話をする者は同罪だ」と徹底的に教え込むのだ。

 するとどうなるか。上位者の指示や判断は絶対であり、どんな理由があろうと、それに逆らった個人の判断は「くだらない」もの、と決まっている。個人で「これはおかしい」と思った事でも、集団から疎外されることを恐れて、上位者の指示や判断を優先するようになる。最終的には、個人の判断そのものが、「それは上位者が良いと言うのか、悪いと言うのか」という価値基準にすり替わってしまうから、とうとう、「これはおかしい」とも思わなくなってしまう。正確には、「自分はおかしいと思うけれど、それは自分の知識不足のせいで、自分よりもっと偉い師の言う事だから、やっぱり間違いは無い」と判断してしまう。

 それから、その集団を抜けた者にとって、その集団以外に帰る場所を見つけるのは大変な事がある。以前まともな社会生活をしていて、人生の途中でカルト集団の生活に入ってしまったのなら、元の社会に戻ればよいのだが、その社会復帰も大変である。しかし、物心付いたころからカルト集団で生活していた人にとって、一般のまともな社会生活とは、新しい価値基準を受け入れる必要のある新しい生活であり、それに順応していくのは、もっと大変なことだろう。これに挫折した人は、結局、自分の行いを“悔いて”、元のカルト集団という古巣へ戻ってしまう事もある。

 なお、他人のマインドコントロールを解くことは、非常に難しい。それが簡単にできるというのなら、とっくの昔に社会主義国家絶滅している。結婚詐欺に騙されている最中の女性には、どんなに真実の証拠を突きつけても「それは全くのデタラメだ」「あの真面目で清廉潔白な男性が、まさか私を騙すなんて、絶対あり得ない」「あなたは私たちのことを嫉妬して憎んでいるから、そういう嘘をついて嫌がらせしているのでしょう」と言われて相手にもされない。マインドコントロールの支配下にある人の反応とは、まさしくこれと同じであり、何を言ったって「嘘だ、デタラメだ」と言って受け入れようとしないものである。中には「脱洗脳のプロフェッショナル」を自称し、何十万円、何百万円も取って当事者を監禁してマインドコントロールを解くような裏の仕事人もいるそうだが、私は絶対おすすめしない。そういうプロでさえ失敗することは珍しくない上に、下手に第三者が介入する事で家族仲が悪くなる事がある。その種の仕事人も必ずしも清廉潔白とは限らず、ボランティアを自称しながらも金に汚かったり、マインドコントロールを解いたかと思うと今度は逆に自分のマインドコントロールに掛けたりと、とにかく悪い噂には事欠かない。とにかく、一筋縄ではいかないのだから、それほど反社会性の強い集団でなければ、無理に脱洗脳するよりは、あきらめて「彼らには勝手に夢を見させてやる」方がまだマシという例も多い。大事なのは、脱洗脳そのものよりも、可能な範囲で当人と良い関係を保ち続けることである。当人がその集団内でトラブルに巻き込まれるなどの理由で、ある時突然目醒めてしまうといった具合に、時が解決してしまう事もある。そんな時にこそ家族や友人の支えを是非とも必要とするのに、もし喧嘩別れだったなら、元の古巣へ帰った方が気楽だと思うだろう。だから、時間はかかるかもしれないが、焦らず気長に待った方が良い。

 この問題については、語るべきことは沢山あるが、今日の所は簡単な解説で止める事とする。「女王の教室」というドラマを、以上の視点で見てみるなら、恐らく新しい発見があるだろうと私は思う。

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