認知症の糖尿病患者と「低血糖」

認知症の糖尿病患者さんが起こしやすい「低血糖

糖尿病の治療がはじまると、「低血糖」という問題が出てきます。
低血糖とはどのような状態なのでしょうか?
 
糖尿病の治療薬は糖尿病により高くなった血糖値を下げるための薬ですが、例えば、食事が十分に取れなかったり、服薬の量や方法を間違えたりして、血糖が正常の範囲を超えて下がり過ぎてしまうことがあります。

認知症があると糖尿病の治療が難しくなりやすい
そのようなときに冷や汗や手のしびれ、動悸が起こります。
これは交感神経が刺激された症状です。
糖尿病の治療をしていない方では通常は起こりませんが、イメージとしては「非常に緊張したときに起こる症状が、もっともっときつくなった状態」に近いということになります。
 
脳はブドウ糖をそのメインのエネルギー源として用います。
血糖値が下がると(50mg/dl程度)、頭痛や生あくびなど中枢神経が低エネルギー状態に陥ったことを示すサインが出ます。
そこからさらに下がると意識レベルの低下や異常行動が出てきます。
この異常行動は時に認知症とも間違えられるものであり、区別するためにも血糖値の測定が必須です。

砂糖よりブドウ糖の方が速効性
このような低血糖症状が出たら、どうしたらいいのでしょうか?
 
ブドウ糖(薬局で手に入ります)を10グラム、身近にない場合はジュースや砂糖(砂糖なら20グラム)などの甘いものをすぐに摂取してください。
通常の砂糖はショ糖といって、ブドウ糖と果糖がくっついた物質です。
ブドウ糖になるには分解が必要で、効果が出るまでに時間がかかります。
速効性ではブドウ糖のほうが勝りますが、どちらも低血糖の症状緩和には効果的です。
 
糖尿病の薬のなかには、このショ糖がブドウ糖と果糖に分解されるのをじゃまする「アルファ・グルコシダーゼ阻害薬」があります。
この薬剤を服用している方が低血糖になった場合は、必ずブドウ糖を服用する必要があります。
 
さて、認知症低血糖の話に戻します。
重い低血糖は、神経細胞に障害を与えると言われています。
主要なエネルギー源であるブドウ糖が不足することで、神経細胞そのものがやられてしまうことが考えられています。
 
このことに関連して、米国ので最近、「低血糖があると認知機能に障害を与えやすく、また認知機能障害があると低血糖を導きやすい」という内容の前向き研究の結果が報告されました。
 
前向き研究とは、いまある患者さんのカルテを調べて「○○と▲▲には関係があったよ」と後ろ向きに調べるのではなく、まず「○○と▲▲には関係があるのではないか」という仮説を立てて、今ある患者さんのデータを把握してから患者さんのその経過を追うことで、その仮説を検証していくという手法の研究です。
一般的に、後ろ向きの研究よりも前向き研究のほうが、思い込みの入る余地が少なく、信頼性が高いとされています。
 
さて、この研究では「重篤低血糖認知症の増加と関係があるのでは? そしていったん、認知症と診断された患者さんは重篤低血糖のリスクが増えるのでは?」という仮説を立てました。
 
まず認知症のない糖尿病の患者さんがこの研究に参加されました(800人弱)。_
12年間のフォローアップのうちに約8%の人に低血糖症状が起こっていました。
また、全体の約19%のひとが認知症を発症されました。
 
患者さんの経過を分析したところ、入院が必要なほど重篤低血糖を起こしていた高齢の糖尿病患者さんでは、低血糖のなかった高齢の糖尿病患者さんに比べて認知症を発症する確率が2倍ありました。
低血糖による神経細胞への障害は、認知症の発症にもつながっている可能性があります。
 
一方、認知症の患者さんは認知症でない患者さんに比べて、入院が必要なほど重篤低血糖を経験した割合が2倍以上に多くなっていました。
 
この研究とは別に、ACCORD試験という有名な糖尿病の研究があります。
その研究においても、認知機能障害がある2型糖尿病の患者さんでは低血糖のリスクが高くなっていることが確認されており、糖尿病の治療を始めるときに認知機能のテストをしておくことをすすめています。

表情の変化や手の震えに注意を
それではなぜ、認知症の患者さんは低血糖を起こしやすいのでしょうか?
 
認知症の患者さんでは過食や薬の飲み忘れによって血糖のコントロールが難しくなります。
同時に、食事の摂取量に合わせた服薬の調整も、認知症になると患者さん1人ではなかなか難しくなります。例えば、風邪を引いた時などに食事量が十分取れない場合の対応(薬の量を調節する、あるいは医者に相談する、という判断)ができなくなります。
ですので、認知症患者さんのご家族やヘルパーさんには、食事量や患者さんの体調の変化に注意して頂きたいと思います。
 
また認知症の患者さんでは冷や汗や手のしびれを「低血糖の症状だ」と認識することが難しくなってきます。
また低血糖の症状であることがわかっても、それにうまく対応すること(ブドウ糖を摂取するなど)ができなくなってしまいます。
これらの理由により、認知症の人は低血糖になりやすいと言えます。
 
ご家族やヘルパーさんは、患者さんの表情の変化(顔面蒼白)や発汗、手の震えにも注意して頂き、血糖の測定や、ブドウ糖の摂取を積極的に考慮しましょう。
また、最近では薬剤が進歩し、低血糖を起こしにくい薬も登場していますので、低血糖が頻繁にある場合には、主治医と相談して、薬剤を見直してもらうことも検討しましょう。

朝日新聞 2016.3.9

今冬はインフルエンザワクチンには頼れません!
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t303/201712/553955.html?n_cid=nbpnmo_mled_html-new-arrivals
供給不足はなぜ起きた
使用するワクチン株はA(H1N1)pdm09型(AH1pdm09)、A香港(H3N2)型(A[H3])、B(山形系統)、B(ビクトリア系統)の4種類。
ワクチン株は鶏卵で増えやすくする工程(卵馴化)をたどるが、近年特にA(H3)で、その工程で抗原変異が生じる問題が起こっている。
ここ6〜7年のA(H3)はこの傾向を示しており、今後も継続すると考えられる。

実は近年、卵馴化による抗原変異を生じない「A/埼玉/103/2014(CEXP002)」というA(H3)ワクチン株(以下、埼玉株)が発見されていた。埼玉株は発育鶏卵で20回継代しても抗原性の変化が少ない特殊なワクチン株で、昨シーズンのA(H3)ワクチン株「A/香港/4801/2014(X-263)」(以下、香港株)と比較しても、有効性の改善が期待された。

ところが、埼玉株の製造効率は非常に悪いことがメーカーの報告で判明。
埼玉株のまま製造を進めると、ワクチン供給量が昨年度比で7割程度に落ち込むと予想された。

流行シーズンを前にして、希望してもワクチン接種を受けられないケースが相当数発生し、社会的な混乱が生じる可能性が高いと判断されたことから、昨シーズンと同じ香港株に選定し直した結果、製造に遅れが生じた。

このような背景から、感染研は今年のワクチン株に埼玉株を選んでいた。
世界的に頭を悩ませているA(H3)の抗原変異の問題を解決できるとして、国内外の専門家が注目していた。


流行ウイルス、全国的にはAH1pdm09が47%
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/special/flu/topics/201712/553892.html?ref=RL2
11月26日までの1週間で、全国的に流行期入りしたインフルエンザ。気になるのは流行しているウイルスのタイプだが、国立感染症研究所の集計によると、全国的にはA/H1N1pdm2009が47%と最多だった。
ただし、岩手県、栃木県、富山県、石川県など8県はA/H3N2のみで、地域的に流行ウイルスが異なることも明らかになった。