CKDと中性脂肪
https://medical-tribune.co.jp/special/e_detailing/kowa/2023/01/
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① CKDと心血管疾患について
・腎機能が低下すると、心血管疾患のみならず、脳卒中、心筋梗塞、全死亡のリスクが高くなる。
Ninomiya T. et al. : Circulation.2008 ;118(25):2694-701.
・わが国の心不全のレジストリー(JCARE-CARD)では、腎機能低下(eGFR<60mL/min/1.73m2)を呈する割合が70%を超えていた。
Hamaguchi S. et al.: Circ J.2009;73(8):1442-7.
・心不全の予後を規定する因子は、BUN、収縮期血圧、血清クレアチニンであるとの報告があるが、これら死亡率のリスクファクターは全て腎臓に関連している。
そのため、心不全の治療においては、腎機能を低下させない、悪化させないことが重要であると考えられる。
Gregg C Fonarow.et al.; JAMA.2005;293(5):572-580.
② CKDと脳卒中について
・2型糖尿病患者におけるアルブミン尿、eGFRを指標として、脳卒中、冠動脈疾患との関連を検討した報告では、尿アルブミンが正常であってもeGFR<60mL/min/1.73m2では、脳卒中の発症リスクがeGFR≧60mL/min/1.73m2の群と比べて2.16倍になると報告されている。
Bouchi R.et al. : Hypertens Res. 2010;33(12):1298-304.
・脳出血におけるCKDの頻度と特徴に関する調査では、腎機能が低下するほど、出血量が多いことが報告されている。
CKDは、脳卒中の発症や予後においても影響を与えるという報告からも、脳腎連関が存在すると考えられる。
Molshatzki N. et al. : Cerebrovasc Dis. 2011;31(3):271-7.
③ CKDと脂質異常症、高TG血症治療の意義
・LDL-C上昇、HDL-C低下は、それぞれCKD進展のリスク因子とされている。
Schaeffner ES. et al. :J Am Soc Nephrol.2003 ;14(8):2084-2091.
・脂質異常症の治療は、まずスタチンによるLDL-C低下療法が行われているが、適切にLDL-Cが管理された状況下でも、残存リスクが存在する。
残存リスクの一つに高TG血症があるが、TG高値がCKD患者における腎機能低下の重要なリスク因子であることも報告されている。
Nakano Tl. et al. :Clin Exp Nephrol. 2021; 25(4):385-393.
・海外のコホート研究であるARIC StudyにおいてもCKD患者でTG高値が冠動脈疾患発症のリスク因子であることが示されていることから、TGには積極的に介入すべきであると考えられる。
Muntner P. et al. :J Am Soc Nephrol. 2005;16(2):529-538.
④ 本論文の研究背景
高TG血症の治療では、フィブラート製剤などによる治療が行われているが、血清クレアチニン値や腎機能に及ぼす影響も報告されている。
Mychaleckyj JC. et al. : Diabetes Care.2012;35(5):1008-14.
・ペマフィブラートは、選択的PPARαモジュレーターとして作用を発現し、脂質代謝への効果を選択的に高め、その他の影響を少なくすることが期待される。
・今回の検討では、ベザフィブラート、フェノフィブラート、エイコサペンタエン酸(EPA)を服用しているCKD合併高TG血症患者を対象に、ペマフィブラートヘ変更した際の治療効果について検討した。
・47名の対象患者にペマフィブラート0.2m9/日を投与し、変更前と投与後24週間の血清クレアチニン、eGFR、TG、HDL-C、LDL-Cや尿酸値などの検査値の推移を検討した。
⑤ 血清脂質に及ぼす影響
・血清TGは、ベザフィブラート400mgからペマフィブラート0.2mg/日へ変更した群では有意な上昇が見られた。
ベザフィブラート400mg以外のフィブラートからの変更例では有意な変動は認められなかったが、EPA群では有意なTG低下作用が認められた。
⑥ 腎機能に及ぼす影響
・本研究における腎機能の推移について、フェノフィブラート、ベザフィブラート投与群において、ペマフィブラートヘ変更することによりeGFRの有意な上昇、血清クレアチニン値の有意な低下が認められた。
なお、尿酸値においては、フェノフィブラート投与群からの変更により、有意な上昇が認められた。
フェノフィブラート投与により、尿酸値が低下する報告がされていることから、薬剤を変更する際は、患者の血清尿酸値を確認することが必要となる。
Zhang J. et al. :Endocr J.2021;68(7):829-37.
TGはCVDのリスク因子であり、スタチン治療でLDL-Cを低下させても、そのイベント抑制率は3割前後であることから、TGへの介入は重要であると考えられる。
Lim S. et al. :Int J Cardiol. 2013 ;166(1):8-14.
フィブラートが腎機能に及ぼす詳細な機序は解明されていないが、本研究においては、ペマフィブラートヘの変更後に血清クレアチニン値とeGFRに有意な変化が認められた。
そのことから、ペマフィブラートは、CKDを合併した高TG血症患者に対して、有益な選択肢となり得ることが示唆された。
コメント;
CKDと脂質異常との関連については、あまり話題にはなりません。
そのメカニズムについては不明とのことですが、俄かには信じがたいことです。
CKDの概念自体が「病因は問わない」ということになっています。
途中の改訂から、糖尿病(性腎症)については別途に取り扱うようになったようです。
CKDという言葉が登場した時、この「病因は問わない」ということ自体に問題があるように思っていました。
したがって、CKDと脂質異常、血圧などの関連を取り扱う際には、交絡因子を除外して統計処理をする必要がある思っていました。
しかし、病因が不明のCKDがあまりにも多いことから、こういったこと自体も困難です。
想定されるのは、中性脂肪を改善しても全く腎機能が改善しないCKDが多いのではないかということです。
これ以上踏み込んで論ずるには、元文献を仔細に読み込む必要がありそうです。