原発ゼロの日本において、日立・東芝・三菱重工は、いずれも過去最高益を更新となった

東京都知事選もいよいよ投開票日が目前に迫ってきましたが、一方で、この都知事選の時期は、株式市場においては決算シーズンでもありました。脱原発が争点となるなか、原子力村の中核として知られた日立・東芝三菱重工の決算はいったいどのようなものだったのでしょうか? 昨年9月に大飯原発が停止して以降、日本全国で原発ゼロの状況が続いています。そうである以上、原発プラントメーカーとして知られたこれらの企業の決算はさぞかし悪かったと予想する人もいるかと思います。ところが、3社とも、決算の内容は素晴らしいものでした。日立・東芝三菱重工のいずれもが、連結営業利益、あるいは純利益で過去最高益を更新となったのです。

まず、このなかではトップバッターとなった東芝ですが、4−12月期の業績は連結営業利益が1553億円で過去最高益を更新。今後の動向次第では、更なる上昇修正も十分に見込める内容です。

さて、注目の電力・インフラ部門について、彼らはこのように記しています。

「国内の原子力発電システムや火力・水力発電システムは減収になったもの、太陽光発電システム、鉄道システム、自動車向け事業等の増収により、社会インフラシステム全体が伸長し、部門全体として増収となりました」。

「損益面では太陽光システム等が増収により増益となりました。一方、火力・水力発電システムは好調を維持したものの減益となり、海外の原子力発電システムが悪化した結果、部門全体として減益となりました」。

要するに、業績の足を引っ張っている原子力発電をやめて、増収増益の太陽光システム発電等に事業を集中すれば、東芝のこの部門の業績が大幅に好転することは明らかです。

そして、決算では触れられていませんが、実は東芝は、地熱発電設備では世界シェア1位なのです。また東芝は、省エネ家電の分野でも非常に高い競争力を持っています。企業の側が区分するセグメントではなく、省エネ・環境という項目で見ると、東芝がいかに脱原発の恩恵を受けるかがよく解ります。

1月26日付けの日経新聞電子版の記事によると、東芝の省エネ・環境関連製品の売上は絶好調であり、前年度は6700億円であったものが、今年度は1兆3000億円と倍増する見込みです。これだけの急成長というのは、まさに凄いの一言であり、そうである以上、原発をやめるという決断があるならば、東芝のこの分野はさらに飛躍的な成長を遂げることは間違いありません。

次に日立ですが、日立は今回、昨年秋に算出した業績を上方修正してきまして、2014年3月期の連結営業利益は5100億円となる見込みで、過去最高益更新が確実となりました。

ちなみに、この企業、かつてはテレビや電子レンジなどを盛んに売っていたので、総合電機というイメージが強いですけど、実はいまや日立は完全にインフラが事業の中核を成しています。情報通信インフラ、都市交通インフラ、建設機械、などが売り上げのかなりの部分も占めます。それと、半導体やハードディスクドライブなどの電子部品です。

インフラに関しては、新興国を中心にまさに成長産業の代名詞でもあり、また電子部品の分野も、エコカーによって自動車の電子化が進んでいるのでこちらも成長期待が高いです。

それと、日立といえば、再生可能エネルギースマートグリッド、省エネ、電気自動者向けのリチウムイオン電池及び充電システム、なども幅広くやっています。そして、高効率の天然ガス火力に関しては、つい先日三菱重工との事業統合を果たしたばかりで、こちらも成長分野。特に中国は、これら日立の技術は喉から手が出るほど必要としています。

という訳で、東芝同様、日立にも原発は絶対に必要ありません。というより、これだけ成長期待の高い事業をたくさん抱えている以上、投資家からの注目は非常に高いです。原発さえやらなければ、物凄い優良企業といえます。

最後に三菱重工ですが、今回三菱重工も業績の上方修正をしてきまして、三菱重工の2014年3月期の連結純利益は1500億円の見通しとなり、過去最高益更新が確実となりました。

注目のセグメント別の業績ですだけど、三菱重工の「エネルギー・環境」部門は、受注、売上、営業損益、いずれも前年同期を上回ります。特に受注に関しては、9376億円から1兆4000億円と大幅増となりました。何より火力プラント向けのガスタービン受注が、前期比で倍になり、業績に大きく貢献。

ちなみに、実は三菱重工風力発電の分野において日本でトップであり、しかもヨーロッパの風力発電の雄ヴェスタス(この企業は昨年1年間で株価が5倍になった)と業務提携をしており、風力発電を重要な成長分野と位置付けています。

勿論高効率の火力発電に関しては高い技術力を誇っており、この分野で日立と業務提携をはかり、火力プラントに特化した新会社を設立したというのは前述のとおりです。

さて、これら一連の数字から、日立・東芝三菱重工は、そのいずれもが脱原発の恩恵を大変大きく享受する企業であることは明らかです。株式市場は、当然このことを解っています。

細川元首相が東京都知事選への出馬を表明した1月なかば、株式市場では脱原発の恩恵を受けるとされる銘柄の物色が盛んにおこなわれました。その際、ジャスダックマザーズ市場でエナリスなどのベンチャー企業の株が急騰した一方で、これら伝統企業の株も買われたのです。

1月15日、ブルームバーグは、次のような報道をしています。

ガスタービン関連:日立製作所 (6501):前日比4.1%高の867円、三菱重工業 (7011)が4.8%高、川崎重工業(7012)が5.3%高など。脱原子力発電所を掲げ細川護煕元首相が東京都知事選への立候補を表明し、原発が争点の一つになる可能性が高まり、脱原発政策で恩恵を受けるとみられた」。

日本が脱原発を決定するなら、高効率の天然ガス火力、再生可能エネルギー、省エネ、これらが伸びることに疑いの余地はないので、そうである以上、これらの企業が脱原発の恩恵を受ける銘柄として物色されるのは至極当然です。

ちなみに、これらの企業、いずれも製品やシステムの輸出もしているので、だから最高益更新と言っても単に円安効果ではないのか? と見る向きもあるかもしれませんが、それは違います。このことは、ソニーやキャノンと較べるとよく解るのです。

ソニーもキャノンも、いずれも日本を代表する輸出企業ですが、しかしその決算はひどいものでした。まず昨年7月、まだワン・クォーターが過ぎただけであるにも拘らず、いきなりキャノンは通期の業績見通しを下方修正し、それを受けて株価は急落、これはマーケットにおいてキャノン・ショックと呼ばれました。

そして秋になると、今度はソニー・ショックが市場を襲います。ソニーはパソコンなどの家電、スマホなどの通信機器、ゲーム機、更には音楽・映画などのエンターテインメント事業など色々なことをやっていますが、そのすべての部門において業績の下方修正を発表したのです。更に今回の冬の決算はそこからさらに業績が悪化し、ついにパソコン事業の売却を余儀なくされました。

一方で、日立・東芝三菱重工は、ソニーやキャノンとは逆に、夏から秋に、そして秋から冬になるほど業績は上向くばかりで、そうして上方修正の連続となり、ついに過去最高益を更新となったのです。

ちなみに、自動車業界でも、トヨタマツダ三菱自動車富士重工などは過去最高益更新となる一方で、そうではないところもあります。商社でも、伊藤忠商事が最高益を更新した一方で、最大手の三菱商事三井物産などはそこまで行っていません。要するに、たとえ円安でも、駄目なところは駄目だし、良いところは良いのであって、すべては経営次第であり、重要なのは絶えざるイノベーションなのです。

日立・東芝三菱重工に関しては、おりしも、大飯原発が停止して、日本が原発ゼロになるとともに業績もドンドン上向いていった訳で、そうである以上、日立・東芝三菱重工は、まさに原発ゼロの恩恵を最大限に受ける企業であるということは、もはや明らかです。