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こんな映画は見ちゃいけない! このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-04-03 エンター・ザ・ボイド  このエントリーを含むブックマーク

otello2010-04-03

エンター・ザ・ボイド Enter The Void


ポイント ★★★
監督 ギャスパー・ノエ
出演 ナサニエル・ブラウン/パズ・ラ・ウエルタ/シリル・ロイ
ナンバー 76
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


肉体を離れて浮遊する意識は自由に空間を移動するだけでなく、記憶の中にある過去にも遡ることができる。感覚が冴え、見るもの聞くものが過剰に知覚され、情報洪水に圧倒されそうになる。死は決して魂の安らぎなどではなく、生という軛からの解放。しかしそれは感じられても、思考や行動で己を主張できない。だからこそ意のままにならないとわかっていても、魂は新たな入れ物を求めて現世に復帰しようとするのだろう。


東京ドラッグ売人をするオスカーは、幼いころに生き別れた妹のリンダを呼び寄せ一緒に暮らしている。ある日、警察の手入れ中にオスカーは射殺され、彼は魂のみの存在になり、飛びまわって関係のあった人々を観察する。


映画は終始オスカー主観で構成される。彼の死後は上から地上の営みを見下ろし、時に天井の高さ、時に天空高く神の視点となる。そのビジョンは、東京の街のあらゆる建物ネオンに縁取られたギトギトとしたけばけばしいもの。最初は戸惑いながらも、自分死体火葬された後はむしろ運命と受け入れ、オスカーはすべて体験しようとする。その過程でうだつの上がらなかったオスカー人生にも、愛する妹・リンダがいて、彼女オスカーの心にとって大きな意義をもたらしていた事実を語る。辛い現実や思い出ばかりでなく、愛してくれた両親やリンダとの満ち足りた生活をフラッシュバックさせて、オスカーがこの世にいた時間を肯定する姿勢が心地よい。


以下 結末に触れています


やがて、オスカーの魂はラブホテルにはいり、そこで繰り広げられる男女の営みを凝視する。愛よりは肉欲の発露、ひたすら性器を結合して欲望を満たす彼らの中から、新たな命の種を探す。ペニスから放たれた精子卵子にたどりつく瞬間に立ち会って、オスカーは再び誕生の機会を与えられるのだ。「チベット死者の書」をモチーフに、全編宙に浮いたような位置でカメラを回して人間界を俯瞰し、増幅された光とともに、一般映画では描けなかったリアルな性行為にまで踏み込んで描写する。ギャスパー・ノエが目指した世界は大いなるイマジネーションに富み、誰も撮ろうとしなかった映像、誰も見た経験のない映像をめざした試みは見事に成功していた。なにより、死は終わりではなく転生までの準備期間であるという解釈に、死への恐怖が和らげられた。

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