こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

かぞくのくに

otello2012-03-31

かぞくのくに

オススメ度 ★★★★
監督 ヤン・ヨンヒ
出演 安藤サクラ/井浦新/ヤン・イクチュン/京野ことみ/大森立嗣/村上淳/諏訪太朗/宮崎美子/津嘉山正種
ナンバー 76
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

久しぶりに両親と再会したのに笑顔はない。懐かしい旧友たちとの会合でも浮かない顔を崩さない。地上の楽園と信じて故国に渡ったのに、彼の地で待ち受けていた厳しい現実に縛られ、男は感情も思考も失った抜け殻になっている。いや、「考えずただ従うだけ、生きのびるために頭を使う」という言葉に象徴されるように、監視下に置かれてそんなフリを装っているのだろう。物語は難病治療で来日した北朝鮮帰国者と日本に住む彼の親族・友人たちのつかの間の交流を通じて、あの国の非人道的な体制を批判する。ほとんどハンディカメラで撮られた緊張感あふれる不安定な映像が、独裁国家に引き裂かれた家族の哀しみをリアルに再現していた。

帰国事業北朝鮮に行ったソンホが脳腫瘍の手術のために25年ぶりに東京の実家に帰ってくる。妹のリエや叔父も何かと世話を焼くが、24時間見張りがつくソンホは北での出来事を何も話せない。

ソンホの一時渡日には手術以外に別の目的があって、それをリエに打ち明けるとき初めて人間らしい表情に戻る。だがそこには喜びや嬉しさはなく、口にしづらい頼み事をお願いする後ろめたさにあふれたバツの悪さ。そしてソンホの申し出を断固として断るリエ。政治的立場を利用して市民をコントロールしようとする北朝鮮の狡猾さ異常さが、ひしひしとした皮膚感覚で伝わってくるシーンだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、ソンホたちに理不尽な命令が伝えられる。説明は一切なし、訝り怒る親族を尻目に淡々と準備を進めるソンホ。彼に出来るのはかつての恋人に「笑っていてくれ」、リエに「どう生きるか考えろ」と自分の気持ちを託すことだけだ。自ら渡航船に乗り、日本に逃げ帰りたくても妻子を人質に取られているソンホには何もできない。追いすがるリエを振り切ってクルマに乗る彼の背中には、かつての希望がはるか昔に絶望に変わり、それでも生きていかなければならない男の諦観が浮き彫りにされていた。

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