こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

喰女 クイメ

otello2014-05-21

喰女 クイメ

監督 三池崇史
出演 市川海老蔵/柴咲コウ/伊藤英明
ナンバー 106
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

利用できるだけ利用して用が無くなったら自分を捨てた男。女の恨みは悪霊となり男にまとわりついて呪い殺そうとする。物語は「四谷怪談」をモティーフに、舞台公演稽古期間中の役者たちの私生活とシンクロさせていく。愛と憎しみ、性と血、裏切りと嘘、高慢と卑屈、それらを光と陰で描き分けるコントラストも鮮やかな映像が、人間の業の深さを浮かび上がらせる。一方で、美しくも妖しい、そしてどうしようもないほど魅力的な色男を、市川海老蔵が端整な振る舞いと一瞥で女を虜にしてしまう艶っぽいまなざしで説得力を持たせている。騙した男よりも騙された女が悪いと思わせるセクシーさを放っていた。

「四谷怪談」舞台化で伊右衛門に扮する浩介は、お岩役の美雪とはプライベートでも恋人関係。だが、共演する新人女優に手を出して以降、芝居の稽古に熱が入るにつれ恐ろしい幻覚を見るようになる。

新人女優と密会を重ねるうちに彼女から結婚を申し込まれた浩介は、図らずも伊右衛門と同じ立場になってしまう。腐れ縁の女に飽き、仕官とカネを保障してくれる若い女に目がくらむ浩介。伊右衛門の魂が乗り移ったとしか思えないほど美雪に対して冷酷になっていく。それは舞台稽古の場にも反映され、己の出世のためにお岩親子を殺めた伊右衛門を氷の心とカミソリのような冷徹さで演じ切るようになる。同時に美雪もまたお岩の思念を自らに取り込み、生霊となって浩介を苦しめる。現実か幻か、虚実皮膜を行き来するふたりの意識を幻想的な舞台装置が包み込み、おぞましい欲望を際立たせていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

工事現場の鉄板、浴室の鏡、赤ちゃんの人形、無機質な寝室などの大道具小道具と、本物と見まがうような回転する芝居用のステージといった大がかりな仕掛けを巧みに使い分け、浩介と美雪はさらに「四谷怪談」という虚構の世界にはまり込んでいく。そこではもはや伊右衛門=浩介の“悪い男”の部分よりも、思いを相手に押し付けるお岩=美雪の怨念の部分が勝る。女の情念が真綿で首を絞めるような恐怖に昇華されていた。

オススメ度 ★★★

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