こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

振り子

otello2015-03-04

振り子

監督 竹永典弘
出演 中村獅童/小西真奈美/石田卓也/清水富美加/板尾創路/笛木優子/松井珠理奈/鈴木亮平/武田鉄矢
ナンバー 53
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

お金はなかったけれどふたりでいるだけで楽しかった。娘が生まれた後は家族と未来に希望を持たせてくれた。不幸のスパイラルを転落している間も、ずっと笑顔を絶やさなかった。そして彼女の深い愛に気づいたときにはもう手遅れになりかけていた。できるならタイムマシンで過去を修正したい、そう願う主人公の胸の内が切実だ。映画は、若くして結ばれた男と女が苦労とすれ違いをの果てに、ともに寄り添いあおうとする姿を描く。そんな彼らの暮らしを見つめる柱時計が刻む音が切なさを誘う。人生とは、時計の振り子のように右に行ったり左に行ったりの繰り返し。真ん中で止まっていてはダメ、様々な体験を経て美しいものに昇華されていくのだ。

ヤンキーに絡まれているサキを助けた大介。ふたりはたちまち恋に落ち、サキの父の反対を押し切って結婚する。やがて娘を授かり、バイク修理屋を開く目標に向かって働く大介を、サキはいつも陰で支えていた。

しかし、騙されて借金を背負った大介は会社員になり、慣れないデスクワークにストレスはたまるばかり。心が荒れ、浮気し、あまり家に寄りつかなくなる。だがサキは一切不機嫌な顔を見せず帰ってきた大介を迎え手料理で励まそうとする。一途で健気なサキの優しさに耐えかねて、ますますいたたまれなくなる大介。夢が破れ涙を流した大介に“うれしかった”とサキが言ったのと同様、大介も本当はサキに怒鳴ってほしかったのだろう。そのあたりの微妙な感情の齟齬が、夫婦といういちばん近い他人との距離感をリアルに再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

突然サキは脳梗塞で倒れ、重篤な後遺症が残る。もはや何の反応も示さないサキへの罪悪感、いやそれ以上にきちんと思いを伝えなかった大介自身の後悔が彼を許さない。ありふれた物語ではある、哀切を帯びた音楽で涙腺を刺激しようともする。それでも、生きることへの小さな祈りが、しみじみとした味わいを醸し出す作品だった。

オススメ度 ★★*

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