神戸の知的障害者のワークショップ 最終回その2

otomojamjam2006-03-09

3月5日神戸ジーベックホール「音の海」本番。


最初は、いつものワークショップのとおり、まずはスタッフの大人たちによる演奏をオレの指揮で10分ほど。オレもみんなもちょいと固いかな。音と音の切れ目から佑豪くんの唄声が聞こえてくる。ひとつの場所にはじっとしていられない男の子だ。多分会場のどこかを徘徊しながら唄っているのだ。彼にも今日がコンサートだってことわかっているんだ。彼の声がなるべく聞こえるように、間をあけて指揮をする。ステージのみんなにも、会場のみんなにも彼の歌が聞こえたはずだ。スタッフみんなの気分が落ち着いてきた。そう、今日の主役は、僕等じゃなくて、彼等彼女等なのだ。


前座の演奏終了、拍手。


ここでステージ脇の待合所にいる子供達に声をかける。待合所からはステージも見えるし、ステージからも客席からも彼等彼女等を見えるようにした。これなら、子供達に、逐一コンサートの進行を伝えなくても、今がどういう状況かすぐにわかるし、僕等にもみんなの様子がわかる。


「今度はみんなの番だよ」


案の定、子供達は待ってましたと言わんばかりにステージに駆け上がってきた。あっという間に、目当ての楽器の前につく。いつもなら、これにものすごい時間がかかるのに。すでに演奏を始める子もいる。「おいおい、まだ音出しちゃ駄目だよ、音出す前に挨拶しなくちゃ」怒鳴るオレ。そんな中、突然メンバーの中で一番おねえさんの綾子ちゃんが大きな声で


「起立!」


みんな演奏をやめて起立する。予期せぬ事態。「え? え? え?」とまどうオレ。


「礼!」


みんないっせいにお辞儀を。オレもつられて、おもわずお辞儀。さらに綾子ちゃんの大きな声が響く。


「よろしくおねがいします」


会場から大きな拍手。みな演奏をぴたりとやめて楽器の前について、オレのほうを見ている。なんてこった。こっちの苦労をよそに、子供達が彼等、彼女等自身で、自分達でコンサートを仕切りだしている。泣けそうになったけど、ぐっとこらえて、みなを見返して、ここはバンマスらしく笑顔で
「いい、みんな、おもいっきりいくよ」
腕を大きくひとふり、最初の合図だけはオレが出した。と同時に堰を切ったように皆が演奏しだす。ドタタタタタ・・・ばらばらだけど、ちゃんとひとつになっている幸福な出だし。オレの今までの音楽人生の中でも、こんな最高の音楽の始まりかたは初めて。みなが音を出したのを確認してオレはこっそりステージを降りる。ドダダダダダ・・・ビュビュビュビュ・・・・なんのルールも無い子供だけの即興演奏。みんなすごい嬉しそうだ。まったくこいつらときたら。


ゴゴゴゴ・・・・・


さてそろそろこの演奏終わらせないと、みんな延々とやりかねない。今日はこのあともプログラムが目白押しだ。当初は、オレが出て行って、最後だけ指揮をするはずたっだ。でも考えがかわった。ドラムを叩いてるみなのリーダー、高校3年生の永井くんのところにいって耳打ちした。永井くんは、秋にワークショップを見学にいったオレに「今度一緒に踊ろうよ」って声をかけてくれた子だ。


「永井くん、今日は君にまかせたから。この演奏、ぴしっとまとめてくれよ」


「OK!」といったとたんに彼はステージ前に踊るように飛び出していってリズムの塊のように全身を動かしながら指揮をしだした。クラシックやポップスの指揮なんてもんじゃない。ヒップホップのブレイクダンスといったほうが近いくらいのしなやかな動き。メンバー全員が彼の動きに吸い寄せられるようにグルーブしていく。両手をゆっくり広げて上に向けてかざしていくと同時に、演奏はピークを迎える。突然ものすごい勢いで両手を振り下ろす、と同時に、全員の演奏がぴたりと止まる。正確にはぴたりと止まったのは8割の子供達で、会場からは佑豪くんの唄や、ものすごい絵を描いてくれる翼くんの鼻歌のような声が聴こえてくるし、ステージ上でも、いくつかの音は残ったまま。それでも会場からはものすごい拍手。ここで、残ったメンバーも演奏の終わりに気づく。
ふたたびここで綾子ちゃん


「起立! 礼! ありがとうございました!」


おいおい、なんの予行演習もしてないのに、なんでこんな段取りちゃんとしてるのよみんな。子供達は子供達なりに、自分達でしっかりとコンサートを仕切ろうとしているのだ。スクラムの効果がここまであるとは思わなかった。



メインステージの子供だけによる演奏が終わると、ステージ袖、向って左側にある小さなサブステージで林加奈がジェットコースターの歌を歌いだす。今回のゲストミュージシャン、京都在住の彼女は、今回一番子供の心をがっしりとつかんでいて、ちょうどおもちゃ箱を沢山もっている唄と体操のお姉さんのような役目。オレの世代的に言えばロンパールームうつみみどり先生なんだけど、こんなこと書いても誰もしらないか。
ジェットコースターの唄は、彼女の歌にオレのギターの伴奏、おはやしの森本アリの3人だけでやるつなぎの余興的な出し物のはずだった。ところかこの曲の途中で小学校2年生の大生くんが、突然マイクを持って歌いだしたのだ。オレの弾いているDとGのコードにしっかりとあわせてくる。気分がのらないときは、まったく演奏すらしない大生くんだけど、今日は気分がいいみたい。以前ワークショップの時に、ジャズのブルースをギターで弾いていたら、突然うしろのほうから3連の素敵なリズムが聴こえてきたことがあって、何事かと思ったら、大生くんが、楽器のはいった箱を叩いている音だった。最初は偶然3連にはまったのかと思ったけど、そのあともおかずの入るべきところで、おかずをいれたり4ビートと3連を自在に行き来している。しかもいいグルーブ感。こんなことってあるんだって驚いたことがあったけど、今日の彼の即興の歌も、和声、ビートともにパーフェクト。無欲の才能とでも言ったらいいのかな。さんざん努力しても、この程度のリズムと音感しかないオレからみたら、まったくうらやましいかぎり。林加奈も彼の歌にすぐに気づいて最後は、大生くんのヴォーカルの座をゆずってエンディング。ふたたびすごい拍手。



全員の即興と、サブステージで起こったこの出来事、これでこの日の方向はほぼ決定したと言ってもいい。大人の僕等の役割と、子供達がやるべきことが、これでクリアに見えてきたのだ。子供達が自由に音楽をやるための枠組みを作ること、これがオレ達大人の役目。この時点で、フェス全体が多分うまく行くってことを確信した。でも油断は出来ない。なにか事故が起これば、それで全ては帳消しになる。コンサートはまだ始まったばかり。



つづきは次回の日記で。




再び細馬さんが素敵な感想を書いています。
http://d.hatena.ne.jp/kaerusan/