2010-02-02
■[ナノ]報告制度・法規制改正・リスク評価の展望
ナノテク産業協会(Nanotechnology Industries Association: NIA)が便利な展望記事を書いているのでそこからメモ。以前書いた関連ブログ記事も参照しつつ。
ナノ材料の報告義務付け
米国EPAは今年の終わりか来年初めに、工業ナノ材料のデータ収集&獲得を義務付ける規制を導入する方向で検討中。その際、TSCAの化学物質の定義(分子的同一性)を見直す。
フランスも、環境グルネル第2法案第73節にもとづき、工業ナノ材料の報告を義務付ける制度を検討中で2010年中には始まりそうだ(2009年1月24日のブログ記事参照)。
ノルウェーでも、汚染管理局(SFT)が、化学製品中のナノ材料の利用についての強制的な報告制度の導入を発表した(2009年6月のニュース記事参照)。
オーストラリアでも、2009年11月にNICNASから提案された「工業ナノ材料の規制改革提案」(pdf)に、強制的な報告制度と強制的な通知&評価制度が含まれている。
カナダでは、2008年6月のOECD会議で「強制的な報告制度に向けた調査を開始」と宣言してからずいぶん経つけどまだ調査結果が公表になってないようだ(2009年2月2日のブログ記事参照)。
ナノ材料を扱うための法規制改正
オーストラリアの提案が通れば、初めてナノ材料に合わせた法規制の改正が行われる事例となる。
欧州では、製品レベルでは、化粧品規制の改正が通り(2009年12月8日ブログ記事参照)、新規食品規制が第二読会を待っている段階(2009年4月24日のブログ記事を参照)。この先は、殺生物剤(バイオサイド)指令、欧州RoHS指令、欧州WEEE指令の改正において、明示的に「ナノマテリアル」が扱われる可能性が高いとのこと。
米国では、上院で1月、「ナノテクノロジー安全法案2010」が提案された(リンク)。これはFDAの扱う製品をターゲットしたもののようだ。
リスク評価が始まりつつある
2009年から実際に、ナノ材料を用いた製品を対象としたリスク評価が出てきつつある。これらは2009年後半の2つの会議でプレゼンされた。1つはOECDのWPMNとSRAが共催したワークショップ「規制文脈におけるリスク評価」。もう1つは、欧州委員会のDG SANCOによる"3rd Annual Nanotechnology Safety for Success Dialogue Workshop"。両者とも、ナノスケールの二酸化チタン、カーボンナノチューブ、銀ナノ粒子が取り上げられた。
※これらにうちらが出した、リスク評価書中間報告版も加えてくれればよかったのに!
2010-02-01
■[ナノ]SafeNanoがREACH関連の重要なアドバイザリー契約を獲得!
英国のSafeNano(ブログで書いた紹介記事はここ)がコンソーシアムとして、2つの契約を取り付けたとのこと。1つはREACH-NanoInfoと言って、REACHのもとでナノマテリアル固有の特性をどう扱うか検討するもの、もう1つがREACH-NanoHazExと言って、これもREACH文脈でのナノマテリアルの曝露&ハザード評価を行うもの。
コンソーシアムには、SafeNanoの他に、ナノテク業界団体であるナノテク産業協会(NIA)や、欧州化学工業協会(Cefic)、そして、イタリアのコンサルタント会社であるSoluzioni Informatiche社なんかが入っている。プロジェクトは2010年1月からスタートし、12〜16か月後にはアウトプットが出てくる予定で、それがさらに欧州委員会によってREACHの改革のための資料として利用されるとのこと。REACHのもとでどのようにしてナノマテリアルが取り込まれるかという方向性を決めるカギとなりそうだ。
そういえばしばらく前に、オランダのRIVMから「REACHのもとでのナノマテリアル:ケーススタディとして銀ナノ粒子」というおよそ150ページ(本文50ページ)の報告書が出た(pdf)。ここでは銀ナノ粒子をREACHのもとで登録しリスク評価を行うという仮想的なケースをたどることで、様々なギャップを明らかにするというもの。
2010-01-24
■[ナノ]英国上院科学技術委員会の報告書「ナノテクノロジーズと食品」のまとめ。
2回に分けて長々と書いてしまったけど、特に印象に残った点は以下のとおり。
- 消化器官に入ったナノマテリアルの有害性に関連しそうな特性として、サイズ、溶解性と残留性、化学的&触媒的反応性、形状、抗菌作用、凝集状態を挙げたこと。
- 吸入曝露したナノ粒子の多くは、消化管に移行しているという指摘(これは忘れがち。Donaldson氏のコメント)。
- RCEP(2008)に続いてここでも毒性学者の不足が指摘されている(もっと不足している日本は大丈夫か?)
- 食品業界が研究開発中のナノ材料情報をFSAに提供しそれを非公開のデータベースとすることを義務付ける勧告。
- ナノ材料の定義は「100nm」といった恣意的なカットオフはやめて、1000nm未満のすべてのマテリアルが検討対象となるような形で「ナノスケール」という言葉を使うべきと勧告。
- 人体への作用の仕方が変化するという意味での「機能性の変化」を、ナノ材料か、それよりも大きい形態であるか区別するための因子とすべきと勧告。
- ナノ粒子は必ず粒径分布を持つため、何割くらいがナノスケールに該当する場合は「ナノ材料」とみなされ規制の対象になるのかガイドラインの明記すべきと勧告。
- ナノテクの発展速度が早いことから、FSAは3年ごとに法規制ギャップの有無をレビューすべきと勧告。
- FSAは、EFSAによって(新規食品等に)認可された、市場で購入できる、ナノ材料を含む食品や食品包装のリスト(一覧表)を作成・公開・維持管理することを勧告。
- 英国政府は、食品部門におけるナノテクノロジー利用に関する一般人の考え方についてのアンケート調査を定期的に委託すべきと勧告。
- 食品産業界が情報提供に消極的な現状を批判。過去の失敗から、情報公開と透明性こそが重要と指摘。
- 情報提供といっても「一括でのラベリング」は間違った情報を伝えることになるので推奨しない。(上記の)ナノ材料利用商品リスト(一覧表)が望ましい。
2010-01-22
■[ナノ][食品]英国上院科学技術委員会の報告書「ナノテクノロジーズと食品」メモ(その2)
その1はある意味イントロ。ここからどんどん本質に切り込んでいく。
第5章「規制のカバー範囲」。
ここは法規制ギャップ調査の章。英国の規制の大部分は欧州レベルで決められたもの。一般的な安全性については、「食品法規制の一般原則(EC/178/2002)」。この法律は「安全でない」という証拠がなければ対応できないのでセイフティネットにはならない。さらに、新規食品、食品添加物、食品包装材、サプリメントなどについての規制がある。化学物質という側面では、REACH規制も関係してくる。農薬や肥料についてもそれぞれ規制がある。FSAは2008年に法規制ギャップ調査を実施(pdf)。最もカギとなる法律は「新規食品規制(Novel Food Regulation)」(※以前ブログに審議中の改正案を紹介した)なのでこの規制中心に議論を進める。
先の報告書や委員会での証言から抽出された不確実性は以下の4点。それと自主的取り組みの位置づけ。
新規食品規制においてすでに使用が認可された成分は、規制の中にナノの定義がないため、ナノスケールに加工されても必ずしも再評価を受けないことになっている。また、規制では、伝統的な食品と同等であると評価されない限り、上市前承認が必要だけど、同等性を考慮する際の因子に「粒子サイズ」は入っていない。サプリメントの規制でも同じで、ナノサイズに加工しても新たに規制対象とはならない。それゆえ、食品に使用されるすべてのナノマテリアル(食品に元から含まれるものと通常の製造プロセスで副生するものを除く)はEFSAの公式なリスク評価プロセスに従うべきと勧告。それゆえ、欧州レベルでの現行法規制を改正し、ナノマテリアルを適用対象と明記するとともに、ナノマテリアルとその関連概念の、うまく機能する定義を含むべきと勧告。
次に定義はどうするか。論点は2つあって、1つは「重要なのはサイズか機能性か」、もう1つは「天然のナノマテリアルをどう扱うか」。RCEP(2008)は「ナノ材料の新規性は、物質の特性、特に新しい機能性にあるのであって、そのサイズにあるのではない」と強調した(以前ブログで紹介。機能性は"functionality"、特性は"property"。特性によって機能性が発揮される)。そういうわけで、「100nm」といった恣意的なカットオフはやめて、1000nm未満のすべてのマテリアルが検討対象となるような形で「ナノスケール」という言葉を使うべきと勧告。そして、物質の人体への作用の仕方という意味での「機能性の変化」を、ナノマテリアルか、それよりも大きい形態であるか区別するための因子とすべきと勧告。また、ナノスケールに特有の「特性」を明確にして、そのリストを規制の中に明記し、定期的な見直しを通して更新していくべきと勧告。
続いて「天然の」ナノマテリアルをどうするか。規制目的での「ナノマテリアル」の定義からは、天然の食品成分からできるものは除外すべきであると勧告。ただし、ナノスケールの特性を利用するために意図的に選別したり、加工したりしたものは(天然の食品であっても)含めるべき。
ナノスケール材料の粒子サイズのばらつき
ナノ粒子は必ず分布を持って生産される。平均値がナノスケールでなくても分布の裾はナノスケールとなり、新規な特性を示しうる。だから、法規制を施行するためのガイドラインには、何割くらいがナノスケールに該当する場合は規制の対象になるのか明記すべきと勧告。
法規制による監視とリスク評価手法がナノテクノロジーの発展に追いつくように、FSAは3年ごとに法規制ギャップの有無をレビューすべきと勧告。
REACH規制の役割
食品製造のみに使用される材料はREACH規制の対象外。食品包装に使用される材料は対象となる。RCEP (2008)を受けて、サイズだけでなく機能性が、REACH改正の際に焦点となるべきとした政府の決定を歓迎。また、「1トンの閾値」を見直すように勧告。
自主的取り組み
企業独自の取り組みや行動規範(code of conduct)の位置づけについては、法規制の代替ではなく、補完的なものとする見解が支配的。そのため、政府は、効果的な法規制を補完するために、ナノテクについての自主的な行動規範の作成を支援すべきであり、自主的取り組みは効果的な監視と透明性を確保すべきと勧告。
第6章「規制の執行」
法規制には適切なスコープと実行可能性が必要。そういう意味で、1)リスク評価、2)輸入やインターネット経由の販売、3)企業向けガイダンス、4)国際的文脈での法規制、5)市民への情報提供、が懸念事項。
リスク評価
リスク評価プロセスは4つのパートからなる(ハザードの特定、ハザードのキャラクタリゼーション、摂取量の評価、リスクキャラクタリゼーション)。このパラダイムがナノ材料にも当てはまる。とはいえ(第4章で挙げた)知識ギャップのもとで果たして実行可能なのかという疑問。ただし全体のモラトリアムには意味がない。EFSAがやっているように製品ごとのケースバイケースのアプローチを推奨。安全性に関するデータがない場合はリスク評価ができないので承認を受けられない。銀ナノのサプリメントはそういう理由でEFSAの承認を得られなかった。
輸入
懸念はインターネットでの個人輸入と当局の執行能力。食品中のナノマテリアルを検出するための検証された方法がない。まずは検出と計測のための手法開発が必要。
企業向けガイダンス
「ナノマテリアル」の法規制上の意味や、EFSAが「新規食品規制」において要求する安全性試験についてのガイダンスが必要。
国際協調
OECD、UNEP、WHOなどでの対話と情報交換。
食品分野におけるナノテク応用の一覧表
産業界からは事実上のブラックリストになリかねないなどの懸念が表明されたが、FSAは、EFSAによって(新規食品等に)認可された、市場で購入できる、ナノマテリアルを含む食品や食品包装のリスト(一覧表)を作成し、公開、維持管理することを勧告(※第4章で勧告されたのは「研究開発中のナノマテリアル情報についての非公開データベース」)。
第7章「効果的なコミュニケーション」
主要な2つの活動領域は、情報提供とステークホルダーの参加。まず、政府は、食品部門におけるナノテクノロジーの利用に関する一般人の考え方についてのアンケート調査を定期的に委託べきと勧告。
コミュニケーション
情報提供としては、政府からの委託により、Nano and Meサイトが運営されているが、食品部門におけるナノテクノロジーの利用に関連した事項に特化したページを作るべきと勧告。
産業界は現状では透明性からほど遠く、情報開示に抵抗している。GMOの経験から人々のネガティブな反応を恐れているのは分かるが、消極的な態度が再び同じ失敗につながりかねない。政府は、企業が研究開発の状況に関する情報開示と透明性を確保するために食品産業と協働すべきと勧告。
ただし透明性といっても「一括でのラベリング」は間違った情報を伝えることになり正しい方法とは思えない。第6章で勧告したナノマテリアルを含む商品の公開リストが良いと考える。
ステークホルダーの参加
Defraの"Nanotechnologies Stakeholder Forum"のような公開のディスカッショングループを作って、食品部門でのナノテク応用について議論すべき。政府、学術、産業、NPOといった多様なステークホルダーが参加すべき。政府は結果を政策意思決定プロセスに反映すべき。
第8章「勧告リストと結論」
各章の勧告部分の再掲。
2010-01-21
■[ナノ][食品]英国上院科学技術委員会の報告書「ナノテクノロジーズと食品」メモ(その1)
1月8日に公開された報告書の気になる部分をメモ。英語タイトルは、"Nanotechnologies and Food"であり、ナノテクは複数形であることに注意。日本語にすると区別がつかなくなるのが残念なので「ナノテクノロジーズ」としてみた。かなりはっきりした勧告を行っている。
第1章は「イントロ」
報告書では、食品の成分だけでなく、農薬や肥料、食品製造過程、食品包装に使用されるナノ粒子も対象。ただし、環境影響や、食品以外の用途から経口摂取につながる可能性は対象外。
第2章「ナノサイエンスとナノテクノロジーズ」
ナノザイズの構造を持つもの全体をとりあえずナノマテリアルとする。食品にもとから含まれていないナノスケール物質と、もとからある食品を意図的にナノスケールにしたものを対象とし、食品にもとから含まれているナノスケール物質や、伝統的な食品製造過程で形成されているものはこのカテゴリーに含めないと整理。
第3章「食品部門におけるナノテクノロジーズ」
現在のところナノテク適用事例は、食品とサプリメント、食品添加物、食品包装、農業ともにまだ少ないようだ。これからありそうな適用例としては以下のようなものが挙げられている。
- 食品とサプリメント:新規な風味や食感、塩分・脂肪・糖分を減らした/ビタミンや栄養成分を増やした健康食品。
- 食品製造:抗菌や固着防止。
- 食品包装:包装を軽く薄くすることで廃棄物削減(複雑さを増すことで廃棄物増加という予測も)、ガスや湿気に対するバリア機能。
- 農業:農薬の量と頻度を削減できることで環境負荷低下。
つまり、社会的なアウトカムとしては、ヘルスケアコストの削減や環境負荷の低下ということになる。Cientifica (2007)によると、世界で最大400社がナノテク応用研究に取り組み中。英国では1999年にKraft foods社がナノテクラボを創設。英国では食品ナノテクの基礎研究はトップレベルだけど応用はまだまだとのこと。欧州ではオランダ。5年で4000万ユーロの研究プロジェクトあり。
第4章「健康と安全」
消化器官に入ったナノマテリアルの有害性に関連しそうな6個の特性についての解説。サイズ、溶解性と残留性、化学的&触媒的反応性、形状、抗菌作用、凝集。
- サイズ:ナノ粒子は腸上皮細胞の細胞膜を通過し、リンパ管や血管(=脳を含む体のすべての場所)や細胞内のすべての場所(核を含む)にフリーな粒子として移行する可能性がある。ただし肺以外の場所への移行の証拠はまだない。
- 溶解性と残留性:移行したナノマテリアルが細胞や組織中に蓄積するという懸念。不溶性で消化困難で分解しないナノ粒子(すなわち無機金属酸化物や金属)が高リスク。
- 化学的&触媒的反応性:比表面積が大きいため反応性が高い。通常の細胞プロセスに干渉し「炎症反応と酸化的障害」を引き起こす。さらには、腸内の細菌毒素とくっついて細胞や血流への運び屋になる(「トロイの木馬効果」)という懸念も。
- 形状:高アスペクト比ナノ粒子(HARN)の例。この件は現段階では、肺や中皮の話。
- 抗菌作用:銀ナノ粒子など。摂取されると、腸の天然のフローラに有害な影響を与えるかもしれない。
- 凝集:物理的力による凝集と化学的力による凝集。それと同時に、分散(disaggregate)の可能性もあるのでややこしい。
続いて知識ギャップ。7分野が挙げられた。
- キャラクタリゼーション、検出、計測:天然のナノスケール構造を持つ食品は多いので相当難しい。
- 消化器内でのナノマテリアルの動態:自然起源のナノマテリアルには以前から曝露し続けてきたのでそれ自体は新しい現象ではない。また、吸入曝露したナノ粒子の多くは消化管に移行している。しかし、消化管内での動態について情報はほとんど無い。
- ヒトの胎児への影響:情報は少ないが、胎盤を通るのではないかという指摘もある。
- 食品特有の研究:食品成分とナノ粒子の相互作用はまだあんまりない。
- トキシコキネティクス:消化管から吸収された生分解されないナノ粒子の場合、白血球が脾臓・肝臓・骨髄に運ぶ。そうしたところに蓄積するかさらに脳や腎臓に移行する。
- ナノマテリアルの慢性影響:長期的には不溶性のナノ粒子は二次的な標的臓器に蓄積するかも。ただし情報はほとんどない。
- 妥当性検証済みの有害性試験:BSIなんかは新規な有害性試験の標準化を主張しているが、ナノ材料の多様性を考えると限界があるという指摘もある。
知識ギャップを埋めるための努力について、
- 英国内の努力:2004年以来、学際的なセンターの設立が提言されているが、政府は一貫してNRCG(省庁横断グループ)で大丈夫と主張。
- リサーチカウンシルの研究資金助成メカニズム:健康安全に関する研究の進捗が遅い理由として、申請ベースの研究助成(response mode funding)が中心で、戦略的なトップダウンによる研究助成(directed programmes)をやってこなかったため。そのため専門家の多い吸入系の研究ばかりになり、人材が少ない経口系の研究が手薄になった。
- EHS研究への資金:計算しようとしたがソースによって値がバラバラでよく分からないとのこと。
- 毒性学コミュニティのキャパシティ:RCEP(2008)でも強調されていたことだけど、そもそも毒性学者が少ないぞという話。これに関しては昨年Defraから「毒性学者と生態毒性学者についての英国のスキルベースの評価」という報告書が出ている(※これの日本版も誰か作ってほしい!)。
- 国際的協力:OECDは閉鎖的で透明性に欠けているとしながらも、リスク評価のための試験方法の開発研究の協調においては中心的役割だと認識。EU内で情報交換をしっかりやって重複を避けようという勧告。
- 産業界の役割:「FSAは、適切なリスク評価手続きについての情報提供と適切な研究の優先順位付けの支援のために、食品産業とコラボして、研究中のナノマテリアル情報に関する非公開のデータベースを作成すべき」と勧告し、自発的スキームのこれまでの失敗を踏まえて「強制的なものとすべき」とした。
■[リスク][技術]「今後10年ウォッチしておくべき10の新規技術トレンド」
Maynard氏の2020 Scienceブログの12月25日のエントリは「今後10年ウォッチしておくべき10の新規技術トレンド」。新規リスクのない新規技術はないので、この先盛り上がりそうな新規技術をウォッチすることはすなわちこの先盛り上がりそうな新規リスク(社会的倫理的影響を含む)のウォッチにもつながる。
- ジオエンジニアリング
- スマートグリッド
- ラディカルマテリアルズ
- シンセティックバイオロジー
- パーソナルゲノミクス
- バイオインターフェイス
- データインターフェイス
- 太陽光発電
- ヌートロピクス
- 薬用化粧品
ラディカルマテリアルとは、原子・分子レベルでのコントロールを通じて、通常の材料よりもあらゆる特性(強度、軽量化、熱伝導性など)で上回る材料とのこと。もちろんカーボンナノチューブも含まれる。データインターフェイスは大量のデータとウェブを通して利用するためのテクノロジーで、例として、Wolfram Alpha、Bing、Six Sense projectなんかが挙げられている。太陽光発電としては2つの注目技術が挙げられている。印刷可能な太陽電池と太陽補助反応装置。ヌートロピクスとは、スマートドラッグ、すなわち頭の良くなる薬のこと。学生や研究者の間での利用が急速に広まっているとのこと(日本ではどうかな?)。面白いのは「ヌートロピクスを使わない方が非倫理的だ。だってそれってメンタル能力を社会のために最大限利用してないってことでしょ」という反応があるという話。薬用化粧品は"cosmeceutical"、つまり化粧品と医薬品を合わせた造語。化粧品はプラスアルファで、医薬品はマイナスからゼロに戻すという感じがする。法規制上も、医薬品はとても厳しいのに化粧品は緩い。でも、これって本当に区別すべきなのか?日本で今問題になっているのが食品と医薬品の境目。そしてナノテクノロジーはほぼすべての技術に関わっている。Maynard氏かこれからはナノテクノロジーというよりはこれらを追い掛けたいと考えているようだ。ちなみに、2日後、10のリストに加えて「スマートドラッグ」をどうしても追加したいというコメントが載った。
これらのリストはまさに今、テクノロジーアセスメントが必要な対象といってもよい。これらに付けくわえるとしたらどんなものがあるだろうか?Maynard氏の最初のリストにはこれらのほかに、電池、分散型コンピューティング、バイオ燃料、幹細胞、クローン技術、人工知能、ロボティクス、地球低軌道飛行、クリーンテクノロジー、神経科学、Memristor(回路素子)などが含まれていたそうだ。
■[ナノ]カリフォルニア州へのCNTs情報提供の第1号
カリフォルニア州DTSCは2009年1月22日に、カーボンナノチューブ(CNTs)の生産・輸入を行う26社(大学や研究所も含む)に対して正式にCNTsに関する情報提供を正式に要請したことは以前書いた(リンク)。その情報提供の第一号としてやっと2009年12月に、スタンフォード大学が回答した(pdf)。DTSCが提出を要請している6項目への回答は以下のとおり。
- 16のラボでCNTsは使用されている。
- NIOSHのナノテク野外調査グループと曝露評価とモニタリングを2010年に実施する予定。
- 使用量は年間16グラム程度。
- NIOSHやICONから情報収集。研究者は「予防的ではあるが、合理的なアプローチ」を採用。
- 大学が定めた「化学衛生プラン(CHP)」と「工業ナノ材料を安全に扱うための一般原則と実践」を遵守。
- 有害廃棄物として処理。
カリフォルニア州DTSCは2010年1月に何か新たな動きがあるという情報もある。
2010-01-12
■[リスク]欧州委員会がリスク評価アプローチの改善を検討開始
欧州委員会の3つの委員会(SCCS, SCHER and SCENIHR)が共同で、リスク評価アプローチの改善に向けたワーキンググループを立ち上げた(pdf)。リスク管理側のニーズをうまく汲み取ることと、リスク問題についての効果的なリスクコミュニケーションを実施するため。
ここで書かれている問題意識がずっとぼくが考えていることとほとんど一緒なのでざっくり訳して引用してみた。さあ、どんな回答が出てくるんだろう?報告書は2011年6月に発表予定。
健康および環境リスク評価への現行アプローチでは、リスク管理者や政策決定者が目指す保全目標とは直接関係がないようなエンドポイント、生体応答、その他のテクニカルなパラメータの検討に基づいた、様々なテクニカルなリスク表現が使用される。
他方で、(リスク評価者に)問題を提示する際に、リスク管理者が適切なフレームワークをいつも提供するわけではない。特に、リスク評価者がアウトプットを(リスク管理者が)簡単に利用できて、誤解の余地がないような形で手渡すことができるように政策目標を特定するとは限らない。
その結果、リスク評価報告書で使用される表現を解釈することは、リスク管理者や一般人にとって難しいものとなり、誤解や歪みのもととなり、コミュニケートしづらい。
そのうえ、リスク評価報告書は、リスク、および、リスクとベネフィットを適切な指標で表現することが可能な場合でも、対象とする特定のケースで生じるリスクベネフィットのバランスの問題に、直接的、体系的、透明な形で言及されることはめったにない。
最後に、リスク評価手法・手続き・結果の表現が、リスク管理者や政策決定者が意思決定に必要な情報である、費用便益、あるいはより一般的には多基準(マルチクライテリア)評価と連携することはめったにない。
このプロセスでの重要な課題は、リスク評価やリスク管理プロセスにおいてパラメータを比較可能で意味のあるやり方で重み付けることができるように、リスク・ベネフィット・コストを計測し定量化するためのアプローチや方法論を確立&標準化することが可能かどうかである。
そういったアプローチが欠けている結果、標準化されていないパラメータ(例えば潜在的健康ベネフィット vs. 社会経済的コスト)の比較が、使用される仮定によって大きく変わってしまい、政策形成におけるそれらの比較の価値を制限してしまう。
リスク評価者はしばしば、現行プロセスから出てくるテクニカルなパラメータ(例えば、安全マージン)とリスク管理者の問い掛けの間のギャップを、リスクの「点数化」といった表現を使って自分たち自身で「解釈」することで埋めようとする。しかし、あらかじめ決められたり同意されたりしたスキームの外側でリスク表現を組み立ててしまうと、その役割についての誤解や混乱が起こりうる。
2010-01-04
■[イノベーション]「技術革新は21世紀の生活にどのように貢献すべきか?」
2020 Scienceブログの12月は、Maynardさんが出したお題「技術革新(technological innovation)は21世紀の生活にどのように貢献すべきか?」にゲストが回答していくゲストブログ特集。その経緯は12月10日のブログ記事を参考に。12月14日から18日まで合計10人。それぞれがとても刺激的なのでじっくり読んでみた。おすすめ。
21世紀のためのバイオポリティクス
著者はCenter for Genetics and Societyの副センター長であるMarcy Darnovsky氏。1933年のシカゴで開催されたWorld's Fairのテーマが「技術革新」であり、そのモットーが「科学が発見し、産業が応用し、人がそれに合わせる」だったというのはおもしろい。著者はわれわれはここからどれくらい進歩しただろうかと問う。そして、新規技術のイノベーションについて検討するために必要な5つの原則を提示。
誰のためのイノベーション?何のためのイノベーション?健常者優先主義の影響
著者はCalgary大学の准教授であるGregory Wolbring氏。科学技術イノベーションの話にいつもマイノリティ、特に非健常者の視点が欠けているという指摘。"ableism"とは「健常者優先主義」という意味。本当に責任ある科学技術発展には非健常者の視点が不可欠であるという主張。イノベーションはいったい誰のため、何のためなのかともう一度考えてみる必要があるなあ。
安全性を超えて:新規技術についてのいくつかの大きな問い
著者は、Friends of the Earth AustraliaのGeorgia Miller氏。表面的な「リスクvsベネフィット」の比較を超えて、そのフレーミングに立ち返って再考すべきという提案。社会的課題の解決には、ありえない夢を振りまく新規技術の開発に期待するよりは、既存技術の有効利用を妨げている社会経済システムの改革が先決じゃないの?と指摘。要するに、新規技術も社会的課題解決の手段に過ぎず、「新規技術そのものの是非」という狭いフレームで考えるのではなく、既存技術の活用や政治的・経済的解決策も含めた広いオプションの中から何がベストかを考えるべきということ。これもおもしろい。
栄養十分な世界にとってのイノベーション:技術にとっての役割は何か?
著者は食糧・農業・開発問題の専門家であるGeoff Tansey氏。ここでも、技術革新が飢餓や貧栄養といったグローバルな課題を解決することは決してないと指摘。なぜならそれらは本質は技術的問題ではないから。続いて、知的財産権の問題を指摘し、さらに「すべての新規技術は全般的に過剰に宣伝され、かならず意図せぬ帰結をもたらした」と述べる。最後に食物をめぐる倫理的フレームワークを例示。
立ち止まって考えよう:ラッダイト的視点
著者はNRDCのJennifer Sass氏。あえて悪名高い「ラッダイト」と名乗るわけは、彼らは、自分たちの職が失われるだとか、職場環境が非人間的になってしまうという、新規技術の社会的影響を正しく予測していた点において優れていたからであり、その点がたいてい無視されて、「ラッダイト」という言葉は時代遅れという意味の「悪口」として使われる。ただし彼女も「新規技術そのものに反対しているのではない。実際、科学者としてイノベーションは好ましく思っている」と述べていて、要点は、もう少し慎重に「ラッダイト的視点」を取り入れようよ、という提言。
新しい責任あるイノベーションの時代
著者は英国ウェストミンスター大学のRichard Owen氏。タイトルはオバマ大統領の就任演説(和文)の「新しい責任の時代」から取っている。彼は元Environmental Agencyの職員。そこで学んだことは、イノベーションのスピードに、エビデンスに基づく規制は追いつけないということ。つまり、規制だけでは不十分で、それらを補完する「イノベーション過程に責任を埋め込む方法」が必要なのだ。EPSRCの研究資金公募に、研究提案の「リスク一覧表(risk register)」の提出を義務付けた。これは、提案研究に関連する環境・健康・社会的影響を予め検討し、時機にかなったやり方で管理してもらおうという願いが込められている。彼の昨年のES&T論文「規制を超えて:リスク価格付けと責任あるイノベーション」も併せて必読。
エコロジーとナノテクノロジー
著者はLoka Instituteでナノテクを扱っているRichard Worthington氏。コペンハーゲンでCOP15に出席しつつ書かれた文章。環境保護運動の夜明けには、産業界のリーダーは環境保護主義は過激派というレッテルを貼った。これが環境やエコロジーの第1のフレーミング。環境保護意識が広く行き渡ると、彼らは逆に環境保護主義を取り込み、自らグリーンであると主張し始めた。これが第2のフレーミング。さらに、現在は第3のフレーミングが進みつつあるという。ナノテクノロジーをその典型とする、技術主導の経済成長システムそのものが、(レトリカルに)生態系(エコシステム)として捉えられつつある。抽象的でわかりづらいんだけど、まあこんな感じ。
技術的ジレンマを逆転させる
著者はICTAとCFSのGeorge Kimbrell氏。ジレンマとは、先進国では技術依存がますます高まる一方で、途上国や環境に負荷を与えるため、「私たちは技術と共存し続けることができないけれども、私たちは技術なしの生活を想像できない」。このジレンマに対して2つのアプローチがあり、1つは自然の制約の中に留める「適性技術(appropriate technologies)」であり、もう1つが遺伝子や分子レベルの操作や地球規模の操作(ジオエンジニアリング)を通して自然の制約を取り払おうとするアプローチである。彼は当然後者に警鐘を鳴らし、「(科学)技術の時代」から「エコロジカルな時代」への転換を主張する。
被告、イノベーション
著者はサリー大学のTim Jackson氏。専門は、持続可能な発展。「落ち葉集め機」と「心肺バイパスポンプ」という2つのイノベーションを比較するにはどうすればよいかという思考実験。これはちょっとまとめるのが難しい。おもしろいけど。
21世紀の技術ガバナンス?ネド・ラッドならどうするか?
著者は、ETCグループのJim Thomas氏。ネド・ラッドは「ラッダイト」の語源になった人物。まずラッダイト運動の大ファンであることを告白。歴史家として、ラッダイト運動についての世間の誤解を解き、彼らは実は新規技術についてはもっとアンビバレントであったこと、そして、ある種の「(参加型の)テクノロジーアセスメント」さえ実施していたことを指摘。彼らは、はた織り機械を市場に引きずり出して、通りゆく人々に判断を仰いだ。これはパブリックコンサルテーションの原型だ。そしてこういう活動を現代の新規技術に応用するために3つの提案を行う。1つは、(手垢のついた言葉だけど)市民参加(public engagement)であり、市民陪審や市民委員会などを含む。2つ目は、グローバルな監視であり、その具体化として、ICENT(新規技術の評価のための国際協定)を提案。これはETCグループがあったらいいなと妄想する国連機関だ。3つ目は、集合知を使ったアセスメント(popular assessment)の提案。例えば、ウィキペディアの新規技術版である「テクノペディア」。うん、どれもおもしろいなあ。