子供 vs. 成人

Health Affairs誌の2007年3/4月号は"Designing Children's Health Care"特集.Editorialのタイトルが「子供はどれくらい重要か?資源配分の衝突」.この特集の中で一番気になるのはミシガン大学のDaniel Eisenberg and Gary L. Feedによる「社会が若者の健康をどれくらい優先させているか再評価する」だ.費用効果分析の効果の指標には通常「救命人数」か「獲得余命年数」が用いられる.米国でもいまこれが議論になったいる.後者は成人や高齢者に比べて子供を有利にするが,獲得できる「1年」自体は,何歳の1年でも同じ重みだ.この論文では,さらに,獲得できる「1年」にも年齢によって重みが異なるのではないかと指摘しているようだ.論文を見ていないので詳しいことは分からないけど,記事によると,彼らは既存研究をレビューした結果,成人や高齢者が獲得する1年に比べて,子供や青年が獲得する1年の価値は2〜3倍になると結論付けたようだ.こういった重みは「年齢ウェイト(age weight)」といって,DALYではすでに採用されている.しかし,DALYの場合は人々の選好ではなく,社会にとっての生産性(専門家が評価する)が重視されていて30歳代に一番大きなウェイトが付与され,逆U字カーブになっている.
やや観点は異なるが,われわれが行った調査では,子供の死亡リスク削減は成人のリスク削減の4〜5倍の価値があるという結果になった.現在まとめ中.
Eisenberg, D. and Feed, G. L. (2007). Reassessing how society prioritizes the health of young people. Health Affairs 26(2): 345-354.

インフルエンザの流行を予測する.

あちこちで予測市場が使われ始めいてるが,今度はインフルエンザの流行についてパイロットプロジェクトがうまくいったという話.アイオワ州で"flu market"(インフルエンザ市場)を,2004〜2005年のシーズンに立ち上げ,61のヘルスケア労働者たちが参加した.CDCによる5段階レベルで表されるインフルエンザ流行度合いを取引.その結果,州全体の季節性のインフルエンザ活動を,2〜4週間早く予測できた.71%の週で正確に予測,93%の週で1レベル以内の予測ができた.彼らは自分が働いている個々の病院の情報を持っているが,これまではそれらを集計するメカニズムがなかった.予測市場はそうした個別の断片的な情報を効率よく集計することができた.彼らは,公衆衛生の分野でも,活用できるのではないかと提案.例えば,鳥インフルエンザがヒトからヒトに感染する可能性を取引するとか,ワクチンの有効性を取引するとか.
Polgreen, P. M., Nelson, F. D. and Neumann, G. R. (2007). Use of prediction markets to forecast infectious disease activity. Clinical Infectious Diseases 447: 272 – 279. (感染症活動を予測するための予測市場の利用)

フード・マイルズとフェア・マイルズ

食料品の選択を通してCO2排出量を減らすには,フードマイルズという概念(指標としてはフードマイレージ)は便利だ.食材の輸送量×輸送距離で測られるフードマイレージを小売店が食品に表示するようになれば,消費者はこの数字の小さい食材を買うことでCO2削減に貢献できる.フードマイルズを小さくすることは事実上,地産地消とほぼ同義だ.でもものごとはそんな単純じゃない.トレードオフは何にだってつきものだ.
1つは,フードマイレッジには食材の生産にかかるエネルギーがカウントされていないことだ.地元でハウス栽培されたトマトよりも,海外で露地栽培されたトマトの方が,フードマイレッジ込みでも,使用エネルギーが少ない可能性もある.生産方法でのエネルギー使用量までカウントした指標がほしい.英国DEFRAの報告書"Impacts of food production and consumption "はこうした問題にとりくんでいる(link
もう1つは,途上国で食料を輸出して生計を立てている人たちへの影響だ.フェアトレードという運動が以前からあるが,フェアトレードとフードマイルズが衝突する場面はとてもありそうだ.International Institute for Environment and Development(iied)の報告書""Fair miles"? The concept of "food miles" through a sustainable development lens"では「フード・マイルズ」に対して,途上国の経済を支援するという意味で「フェア・マイルズ」という概念を提唱している.

NANOTOXICOLOGY 2007

イタリアのヴェニスで4月19〜21日,ナノトキシコロジー2007という会議が開かれる(ただし,プログラムは見当たらず).第1回は米国マサチューセッツ州ケンブリッジで2006年4月に開催された.そのときのタイトルは「ナノトキシコロジーの効果的な研究デザインへの障害を克服する」だった.第2回の今年のテーマは「進歩と将来展望」.この会議はもうすぐ出る雑誌"Nanotoxicology"とも連動している.
ここにもやはり,Andrew Maynard氏(ウッドロー・ウィルソン国際学術センター),Gunter Oberdorster氏(ロチェスター大),Vicki Colvin氏(ライス大)といったお馴染みのメンバーが参加予定.