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リスク論のネタ帳&ナノ追っかけ RSSフィード

2008-06-22

[]IARCモノグラフにカーボンナノチューブがリクエストされた

これもPoland et al.レターの波及効果ネタ。International Agency for Research on Cancer (IARC)(国際がん研究機関)の「IARCモノグラフ」シリーズは、ヒトにがんを生じさせる可能性のある対象を、1971年以来900件以上とりあげ、そのうちおよそ400が「ヒトへの発がん性あり」あるいは「ヒトへの発がん性の可能性あり」と評価されている。6月17〜20日に開催されたばかりの会議では2010〜2014年に出るモノグラフの優先順位が話し合われた。

将来モノグラフの対象にしてほしい物質(に限らず事象)があれば、(今回の締切は6月10日だったが)このフォームに記入すれば誰でもリクエストできる。で、今回ノミネートされた一覧表を見ればちゃんと、エントリーナンバー11番に「カーボンナノチューブ」が入っている。リクエストした人は2人いて、1人は英国サウサンプトン大学の疫学研究センターのDavid Coggon氏で、もう1人は米国のメジャーな環境保護NGOであるNRDCのJeniffer Sass氏だ。彼女はナノテク担当だ。彼らのリスクエストフォームはそのままpdfで見ることができる。Coggan氏は「ナノチューブアスベストに似た発がんリスクを課す可能性があることが分かってきた」と書いており、Sass氏も、これまでに行われた気管内投与の動物試験とともに、中皮腫に結びつく病変を見出した「新しいデータ」について触れている。公衆衛生的な懸念は「水汚染」にあるとしている。

ちなみに、CNTの他にもリストには旬な物質が並んでいる。様式に基づいたものから、Eメールで物質の名前だけ書いたものまで様々。参考文献リストや実験データまで書き込んだものもあるし、いまどき手書き(読めない!)のものもある。これらは次のエントリーで。

[]IARCモノグラフへのその他のリクエスト

Imperial Colledge Londonの環境疫学者であるVineis氏は、ストレス、気候変動、ハーブなどの代替薬品をリクエスト。気候変動で発がん?と疑問に思ったら、途上国での干ばつや洪水で土壌の成分が変わり、ヒトをがんから守るセレンなどの微量栄養素が減るかもしれないという理由。

ナノ毒性学で有名な、ロチェスター大学のGunter Oberdorster教授は、ナノ材料ではなくて、「金属ニッケル(Metallic Nickel)」をリクエスト。慢性吸入試験の結果が出たからとのこと。

他にも、12〜14 ディーゼル排気(粒子)、17 携帯電話とレーダーを含む無線周波数電磁界、18 アセトアルデヒド、19 アクリルアミド、25 バイオ燃料とそれらの成分(エタノールメタノール、他の含酸素添加剤)、26 ビスフェノールA、44 MTBE、45 PFOA、などが気になる。残念ながら日本人からのリクエストはないようだ。

[]REACHにおいてCarbonとGraphiteが対象物質に

6月9日(月)のEUの関係者の発言によると(nanowerk記事)、欧州委員会では前週、これまで免除規定であるAnnex4(物質固有の特性のためリスクは最小限であることが十分な情報により示されているもの)に含まれていた「炭素」と「グラファイト」を免除規定から外す、すなわちREACHのもとでの試験を必要とする物質とすることを決めたそうだ。現時点のAnnex4のリストにはまだCarbonもGraphiteも、H2OやCO2なんかといっしょに載っている。

ただし、閾値はまだ1トンのままだし、これですぐにナノスケールの炭素グラファイトが特別に規制対象となったわけではない。あくまでもナノスケール物質を取り込む道を開いたにすぎない。

この決定ももちろんNature Nanotechnology誌のPoland et al.レターの波及効果の1つに数えることができる。でも、REACHの対象にナノ材料を含むようにすることは2004年の英国Royal Society and Royal Academy of Engineeringによる報告書の勧告の10番目(R10)にすでに指摘されていたことだ。

R10 我々はナノ粒子やナノチューブの形状をした化学物質が現行の(※英国の)NONS規制とREACH規制のもとで新規物質として扱われることを勧告する。ナノ粒子やナノチューブの毒性に関する情報が集まるにつれ、関連する規制主体が、試験を必要とする年間生産量の閾値やナノ形態の物質に関する試験方法がNONSやREACHのもとで改訂されるべきかどうか検討することを勧告する。

この勧告をベースに考えるならば、免除規定から外すというのはほんの第一歩だ。そう考えると、Poland et al.レターが後押ししたとはいえ、規定路線なのかもしれない。ただし、この件については欧州委員会からの正式なプレスリリースはまだない。

欧州委員会は、6月17日に「委員会ナノテクノロジーについての公開対話(public dialogue)を開始する − 安全な製品を通して経済的および環境保全上の潜在力を開拓する」というプレスリリースがあったが、内容は上記とは直接関係がない。むしろ、ナノテクはREACHを含む現行の法規制でカバーされている,と書かれている。また、現行の法規制を新しい製品に正しく適用していく、なんていう文言もあるので今後の展開の布石かもしれない。

[]とうとう出た企業向けナノリスクコンサル「ナノリスクチェック」

工業ナノ材料を生産したり使用したりする企業にとっては様々なリスクが懸念される。製品によって何らかの健康被害が生ずるというリスクはもちろん、直接そんな事態がなくても、法規制ができて材料や製品が売れなくなる事態だって十分考えられる。そんなことになれば研究開発投資だって無駄になりかねない。こうした場合には、保険とコンサルビジネスチャンスだ。

今回はコンサル事業の話。ドイツのテュフズードインダストリサービスGmbHTUV SUD Service GmbH)(※GmbH有限会社のような意味)とスイスイノベーションソサエティ社(The Innovation Society Ltd.)の共同事業。両者はすでに、ナノテクの環境や安全上のリスク管理に関する認証制度"CENARIOS®"を実施している。テュフズードジャパンのウェブサイトには2007年6月14日付けニュース「ナノテクノロジーリスクマネジメント認証:CENARIOS®」が読める(記事)。9月にはビューラー・パルテック社に初めて発行した(記事)。

今回のサービス「ナノリスクチェック(NanoRisk Check)」は2日半の時間でナノテク関連の企業活動のリスク評価を実施するというものだ。「チェック」というからにはたぶんチェックリストのようなものがあるのだろう。説明では以下のようになっている。うーん、どんなもんだろう?値段も知りたい。


NanoRisk Checkは、製品中のナノ材料の取扱いや使用に関するあなたの会社のリスクポジションの概観が分かる新しいツールである。

対象グループ:研究開発、生産、製造、小売を対象としている。

NanoRisk Checkはナノ特有の以下のものを含む。

  • 現行のリスク管理システムの適合性の評価
  • 生産における職業安全性(EHSリスク)の現場分析
  • 製品と責任リスクの状況の分析

NanoRisk Checkは両社の名高いナノテク専門家によって2日と半日の間に実施される。

  • 1日目:工場業務の責任者とともに工場ツアー
  • 2日目:その成果の分析と加工
  • 3日目(半日):結果のプレゼン

あなたのベネフィット:潜在的な欠点の概観を得ることができる。同時にNanoRisk Checkがさらなるソリューションを築くための第一歩となる。

[]自発的な報告制度:米国英国のその後

米国EPAが今年1月に開始したNMSP(Nanoscale Materials Stewardship Program)の基礎的プログラムBasic Program)への参加の締切日である7月28日まであと1か月ちょっととなった。これまでに提出したのは3社(DuPont, Office ZPI(※), 匿名の事業者)だけで、以前からあと10社ほどが提出予定と伝えられている。半年という期間は短すぎるのではないかと当初思ったけど、あとで紹介する英国の例を見ると半年程度で十分なのかもしれない。問題はどれだけの企業から提出があれば「成功」といえるのかだ。もし成果が不十分だと判断されれば、EPAはTRIのような強制的な報告制度に移行するのだろうか?また、もう1つの詳細プログラム(In-Depth Program)への参加企業は依然ゼロ。こっちもどうテコ入れするんだろうか?

同じ問題はさらに英国で深刻だ。英国のVRS(Voluntary Reporting Scheme)は2006年9月22日から2年間の予定で開始された。4半期ごとに経過がDEFRAのウェブサイトに報告されている。報告は依然9件(報告者は明らかになっていない)のままで、産業界から7件、学術界から2件。これらはすべて最初の9か月で報告された。それ以降ゼロ行進だ。このまま行くと失敗っぽい。今年に入ってガイドラインが改訂されたのでその効果があればこれから増えるかもしれない。そして2008年9月で終了する。

※ところで米国EPABasic ProgramにDuPontと並んで早々と登録したOffice ZPIは日本の釣り具メーカーのことだろうか?確かに、例えばメンテナンスオイルナノ材料を使っているようだ。米国でも有名なんだろうか?

[]物理化学的特性、in vitro試験、in vivo試験をつなげることに成功したという話?

PNASに出たところの論文ニュース記事だけ読むとすごいことが書いてある。とりあえずアブストを翻訳。物理化学的特性、in vitro試験、in vivo試験をそれなりにつなげることに成功したという話らしい。

Shaw, S. Y., Westly, E. C., Pittet, M. J., Subramanian, A., Schreiber, S. L. and Weissleder, R. (2008). Perturbational profiling of nanomaterial biologic activity. PNAS 105(21): 7387-7392.


ナノ材料生物学的影響(毒性を含む)についてのわれわれの理解は不十分である。In vivoでの動物試験はゴールドスタンダードであり続けている。しかし、動物試験を数多く実施することは現実的でないため、in vivoでの活性と相関のあるin vitro試験を開発することはやりがいのある仕事である。われわれは本論文で、一般化可能で体系的なやり方でin vitroのナノ材料の活性を分析することの実行可能性を示す。われわれは、ナノ粒子の影響を、細胞生理の異なる側面を反映する複数の細胞型と複数の試験を使って、多次元的なやり方で評価した。これらのデータを階層的クラスタリングすることで、単一のin vitro試験の結果から外挿するのと違って、細胞状況の広いサンプリングの中から同様なパターンの生物的活性を持つナノ材料を特定できる。われわれは、このアプローチがしっかりした詳細な構造活性相関を同種るすることを示す。さらに、ナノ粒子のサブセットはマウスで試験され、in vitroで同様な活性プロファイルを持ったナノ粒子はin vivoでの単球数への同様な影響を示した。これらのデータは、新規のナノ材料のデザインに有益な情報を与え、in vivo活性についての必要な試験を示しうるナノ材料のin vitroでの多次元的なキャラクタリゼーション戦略を示唆している。