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2009-08-19

[]続報:ナノ粒子への曝露によって労働者が死亡したとする論文

昨日取りあげた論文はやはり大きな波紋を呼んでいるようだ。論文自体はまだERJ誌のウェブサイトに掲載されていないので読むことができない。

Andrew Maynard氏はブログに3つも連続で記事を書いている。1つ目は、ナノテクに対する反対派と推進派によってこのニュースがどのように利用されうるかを検討し、そのどちらも安全で責任あるナノテクの発展を阻害するものになる可能が高いことから、両者の中間の冷静な対処を勧めるもの。中国での工場についても「結局、これは人為的ミスの話であり、新興技術の話ではない」としている。2つ目は、この論文について、Maynard氏が6人の専門家に見解を尋ねた結果を紹介している。対応が素早い!別のエントリで1人ずつ簡単に紹介する(おもしろいと思ったとこだけ書いたので原文で確認してください)。3つ目はこの論文の概要と欠点が紹介されている。まずこっちから読んだ方が良いだろう。

研究の概要

中国の工場でナノ粒子に13ヶ月曝露した18〜47歳の7名の女性労働者が、肺の損傷により入院し検査を受けたところ、胸液中にナノ粒子が検出され、細胞中にも見られたという。そのうち19歳と29歳の2名が死亡した。作業内容は、ポリアクリルエステルのペーストをポリスチレンの基材に噴霧するというもので、基材は続いて熱硬化される。自然換気がほとんどない囲まれたスペースで行われ、5か月前には局所排気装置が故障したままだった。7人の症状は、息切れ、胸水(胸腔に水がたまること)。肺組織サンプルには非特異的な炎症、肺線維症、胸膜の異物肉芽種。5人には心外膜液(心臓のまわりに水がたまること)が見られた。

患者の肺のまわりの液体と、肺の内外の細胞細胞質と核質から直径30nm以下の粒子を見出した。同様のサイズの粒子はポリアクリルエステルのペーストや故障中の換気システムからも見つかった。コートされたポリスチレンが熱硬化される際に煤煙(smoke)が生じていたことも分かっている。こうした証拠と、様々な先行研究(in vitroおよびin vivo試験)から、著者らは肺疾患(死亡を含む)がナノ粒子曝露の直接的な結果であると推測した。結論部分を再引用するとこんな感じ。

これはヒトについてのナノ粒子への長期曝露による臨床毒性学の最初の研究かもしれない。そのため、多くの疑問に答える必要があるし、「ナノ材料関連疾患」についてのありうるメカニズム、診断、治療と予防に関するさらなる研究が必要である。これらのケースは保護具なしでのある種のナノ粒子への長期曝露がヒトの肺への重大な損傷に関連するかもしれないという懸念を引き起こした。細胞に入り、肺上皮細胞細胞質や核質にたまった、あるいは、赤血球細胞膜の付近で凝集したナノ粒子を除去することは不可能である。

研究の欠点

  • 臨床研究であり、毒性学研究ではない。対照群も設定されていない。
  • ここからはナノテクノロジーの安全な利用についての一般的な結論を導き出すことはできない。
  • 曝露データがない。量についても質についても。ナノサイズの粒子を少なくとも含む物質のカクテルに高濃度に曝露されたという程度しか分からない。
  • 粒子の化学組成が不明。分散した状態で曝露したのか、凝集した状態で曝露したのかも不明。
  • 粒子の表面がどうであったのか不明(化学物質が吸着していたのかどうか)
  • 発見されたというナノ粒子の電子顕微鏡写真がない。
  • 工場内や生体内で見つかった粒子について化学分析が行われていない。両者が同一なのかさえ分からない。そのため、ポリアクリル酸の粒子なのか、ペーストへの無機の添加剤なのか、それ以外の粒子なのかも分からない。
  • 症状の原因として「ナノ粒子曝露」以外の因果関係がまったく検討されていない。著者らは最初からナノ粒子が原因だと決めつけている。
  • ナノ粒子の有害性に関する先行研究を引用しているが、ナノ粒子が多様であることを理解していない。形状や性質は全く異なるにも関わらず、動物へのカーボンナノチューブ曝露の結果と今回の症状が似ている点を証拠の1つに挙げている。ナノ粒子が全部似ているという間違ったメッセージを伝えることになる。

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