RoHS指令の禁止物質リストに多層CNTと銀ナノ粒子が提案された件
RoHS指令のリストに多層カーボンナノチューブ(CNT)と銀ナノ粒子が入りそうだという件についてメモを作成した。最初に確認しておくべきことは、改正案の可決は「環境委員会」のもので本決まりまではまだまだ遠い道のりがあるということ。
RoHS指令の"RoHS"は「有害物質の制限(Restriction of Hazardous Substances)」の頭文字。RoHS指令とは「電気電子機器における特定有害物質の使用制限に関する欧州議会及び理事会指令」のこと。2003年2月にW公布され、2006年7月に施行された。これまで禁止物質は6物質。今回の改正案の目玉はこれらに2つのナノマテリアルの追加が提案されていること。
最初の情報は、欧州議会のプレスリリースからだった。このプレスリリースは、6月2日に欧州議会の環境委員会でRoHS指令の改正案が賛成55、反対1、棄権2で可決されたことを報告している。「ナノマテリアルズ」という一節に「欧州議会議員たちは、銀ナノと長い多層CNTの禁止を要求し、ナノマテリアルを含む他の電気電子材料はラベリングされるべきであるとした。また、製造業者は欧州委員会に安全性データを提供するよう義務付けられるべきであるとした」と書かれている。より詳しい情報は日本語のコラム「改正RoHS指令の議会の審議動向」に書かれている。これをもとに一次情報を探してみた。
6月2日の投票の対象となった改正案は、2009年12月14日のものに加えて、2010年3月19日に公開された修正案を、ラポータのJill Evans議員が妥協案としてとりまとめものである。ナノマテリアルに関する条項は3月19日の修正案で初めて出てきたもののようだ(Amendment 77-196とAmendment 197-339)。
ここに挙げられている修正案の中からEvans議員が選んで妥協案にしたものが可決された。パッケージ5が「Annexのナノマテリアル」に関するものなので以下にメモ。
定義(Amendment 159を採択)
意図して製造された1つ以上の次元が100nmオーダー以下。ナノスケールとしての特性を持つならそれ以上の大きさの構造物、一次凝集体、二時凝集体も含む。ちなみに、採択されなかったAmendment 160では「300nm」だった。
禁止(Amendment 316を採択)
禁止物質の最大濃度値(重量)は従来からの、鉛、水銀、カドミウム、6価クロム、PBB、PBDEがすべて0,1%であるのに加え、「銀ナノ粒子」と「長い多層CNT」は「検出限界値(detection limit)」となっている。
ラベリング(Amendment 263を採択)
Article 5a(3)のナノマテリアルについてラベリングの適用を要求。"Article 5a(3)"は後述。
説明(Amendment 80を採択)
そのまま引用→「ある種のCNTがアスベスト繊維のように振る舞い、それゆえヒト健康に重大な影響を与えるかもしれないという科学的証拠がますます増えつつある。同じことが、環境中に放出され、土壌や水生および陸生生物に重大な影響を与えるかもしれない銀ナノ粒子にもあてはまる。」
Article 5a(妥協amendment 5b)
- 電子電気機器(EEE)へのナノマテリアルの使用と、ライフサイクルにおけるヒト健康と環境に対する安全性についてのすべでの関連データを、欧州委員会に知らせるべき。
- 欧州委員会はそれらのデータをもとに安全性を評価し、議会と理事会に報告すべき。必要ならばその後の法制化につなげる。
- 消費者曝露につながりうるナノマテリアルを含むEEEにラベルすべき。
- 欧州委員会はナノマテリアルの特定と発見のための標準を作成すべき。
- 欧州委員会はラベリング要求の適用のための詳細なルールを作成すべき。
Article 5aのそれぞれについては改正指令案の成立後に期限が定められるようだ。つまり、どうやって計測するのかとか、検出限界ってどうやって決めるのか、どんなものにラベリングするのかといった難問は先送りになっているようだ。
今後の予定(あくまでも順調に行った場合)は次の通り。