第2045冊目 スタンフォードの自分を変える教室  ケリー・マクゴニガル (著)


スタンフォードの自分を変える教室 スタンフォード シリーズ

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  • 第1のルール 「汝を知れ」


自己コントロールは人類ならではの素晴らしい能力のひとつですが、人類の優れた特徴は自己コントロールだけではありません。人間には自己認識――自分のしていることを認識するとともに、それを行なう理由を理解する能力――も備わっています。場合によっては行動を起こすまえに自分が何をしそうか予測できるので、よく考えてから行動することも可能です。このレベルの自己認識は、人間にしか見られません。イルカやゾウは鏡に映って自分の姿を認識しますが、自分自身を理解するために心のなかを見つめるという証拠は、確認されていません。


自己認識なくしては、自己コントロールのシステムなど使い物になりません。意思力を要する決断を下すときには、自分自身でしっかりとそれを認識していなければならないからです。さもなくば、脳はいつでも最もかんたんなことを選びます。


たとえば、タバコをやめたいと思っている女性がいるとしましょう。この人はまず、自分がタバコを吸いたいと思う瞬間に気づき、どういうときに最も吸いたくなるのか(外で寒風に吹かれると、ついライターを探してしまう、など)を知る必要があります。


そして、吸いたい気持ちに今日も負けてしまったら、たぶん明日も負ける可能性が高くなることにも気づかなければなりません。運命の水晶玉でものぞいてみれば、このままでは保健の授業で習ったとおり、さまざまな恐ろしい病気が待ち受けているのがわかるでしょう。そんな悲惨な運命を免れるには、「タバコを吸わない」という意識的な選択をする必要があります。そういうことを自分で認識できなければ、運命は目に見えています。


自己認識などわけがないと思うかもしれませんが、心理学者なら知っているとおり、私たちはほとんどの選択を無意識に行っており、なぜそうするのかという理由などろくに認識してもいなければ、どういう結果を招くかなど考えもしません。


それどころか、選択を行っている自覚すらないこともしょっちゅうです。ある研究では、参加者に、「食べ物に関する決断を一日に何回くらい行っていると思いますか」とたずねました。あなたは何回くらいだと思いますか?


実験における回答は、平均で14回でした。しかし、こんどは同じ人たちに実際に記録をとってもらったところ、結果は平均で227回にもなったのです。つまり、この人たちは200回以上もの選択を無意識に行っていたことになります――つまり、食べ物に関する選択だけでこれほどの数なのです。ですから、コントロールすべきことを認識すらしていなかったら、自己コントロールなどできるはずがありません。


現代社会はただでさえ気が散るものや刺激にあふれているのですから、まったく困ってしまいます。スタンフォード大学経営学部教授のババ・シヴは、「人は気が散っているときほど誘惑に負けやすい」という研究結果を発表しています。


誰かの電話番号を思い出そうとしながらデザートを選んでいる学生は、フルーツよりもチョコレートケーキを選ぶ確率が50パーセントも高くなります。またうわの空で買い物をしている人は店頭販売に引っかかりやすく、買い物リストにはなかった品物をごっそり買い込んで帰宅するはめになります。


考えごとで頭がいっぱいになっていると、長期的な目標など忘れてしまい、衝動的な選択をしてしまいます。コーヒーショップの列に並びながら携帯メールを打っていたら? いつのまにか、アイスコーヒーのかわりにモカ・ミルクシェイクを注文してしまうかもしれません。買い物も仕事のことが頭から離れない? そんあことだと、店員さんのお勧めどおりに高い買い物をしてしまうかもしれませんよ。

  • 「選択した瞬間」をふり返る


自己コントロールを強化するには、まず自己認識力を高める必要があります。ですから、意思力のチャレンジに関する選択を行うときには、そのことをはっきりと意識するのが大事です。


たとえば、「仕事帰りにジムに行くか行かないか」といった単純な選択もあるでしょう。けれども、自分が何気なく行なった選択の結果に、少し時間がたってから気づくこともあります。


仕事のあといったん帰宅しなくてもすむように、朝、ジムへ行く用意をして家を出たでしょうか?(賢いですね! サボる言い訳をしにくくなります)


終業まぎわに長電話につかまったせいでお腹がペコペコ、このままジムになんか行けない?(あーあー 夕食をとってからじゃ、なおさらジムには行かないでしょうね)


一日分でもいいですから、その日に行なった選択をふり返ってみてください。一日の終わりに、「自分でいつ目標を達成するための選択、あるいは妨げてしまう選択をしたのか」を分析してみましょう。そのように自分の選択をふり返って意識することで、いい加減な選択の数が減っていきます。それにより、意思力は確実にアップします。