持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

情報処理単位としての読解文法②

英文の基本構造の導入

英語の文を基本構造から導入する場合、文が主部と述部から成り立つ、というところから導入されることが多い。しかし、この文法用語がその後使用されることがほとんどない。主部と述部で文を2分する場合、主部の中核を成す語を主語、述部の中核を成す語を述語動詞と定義する。そのうえで、述語動詞に後続する要素を類型化したリストとして5文型を導入していくことになる。
主語と述語ということをまず教え、続いて5文型を教えていくことの問題点は、それぞれの文型が実際に使用される頻度や学習者にとっての難しさなどを考慮に入れずにただリストとして第1文型から第5文型へと番号順に導入するところにある。また、文を情報処理単位として切り取りながら語順に従って読んでいく際に、どこにどう目をつければ文型が捉えられるのかという実践的側面が完全に欠落している。
頻度という観点から文型の導入を考えた場合、真っ先に導入すべき文型はS+V+Oである。寺島(1986)は文をまず主語と述語に2つの要素に分けるのではなく、名詞+動詞+名詞という3つの要素に分けることを提案している。この分析では動詞の左側の名詞を主語、右側の名詞を目的語と定義することができる。阿部・持田(2005)もこの分析法を採用しているが、主語や目的語を日本語の訳語を介してではなく、述語動詞との位置関係によって説明できるのがこの分析の長所の1つである。主語に対応する日本語は助詞の使い分けが語用論的に規定されるため、英語の統語知識の基礎を導入する段階でこうした日本語の複雑さを持ち込むと学習者が混乱するおそれがある。また吉川(1995)などが指摘するように、英語の目的語に対応する日本語が「ヲ」以外の助詞で示されることも多く、これもまた学習者の混乱の原因となる。
安藤(2005)がS+V+Oを英語の愛用文型と呼んでいるように、この文型の出現頻度は圧倒的である。この文型を他の文型に先駆けて導入し、動詞の右側に生じる名詞を目的語と定義することで、従来の文型指導で学習者が躓く要因の1つであった、S+V+OとS+V+Cの識別という問題に学習者をあえて誘導しないようにできる。これは半ば強引ではあるが、Cとして名詞をとることができる動詞はごく少数に限られていることを考えれば、学習文法にはこうした強引なやり方も学習者の利益になると言える。

基本文構造と情報処理単位

英語の文型をS+V+Oから導入すると、「名詞+動詞+名詞」という語順の英語と「名詞+名詞+動詞」の日本語との語順の違いを学習者がいち早く意識することができる。学習者が日本語の語順に引きずられずに、語順通りの理解ができるように導くには、できるかぎりV+Oを1つの情報処理単位とすることが望ましい。

  1. S / V / O //
  2. S / V+O //
  3. S+V / O //
  4. S+V+O //

当然ながら、短い文であれば4.のように1文全体で1つの情報処理単位を構成できることが望ましい。しかし、主語や目的語が長い場合には2.や3.のようにスラッシュを入れてより小さな情報処理単位を構成することで理解が容易になる。ただし、1.のような分析は単位が小さすぎて日本語訳が確定できないことが多く、日本語を利用する割には学習者の安心感が得られないことが多い(伊藤1995)。
3.の分析を行うのは、Oが節である、すなわちOに文が含まれている場合が多い。この場合はVが心的動詞であることも多く、モダリティと命題内容とをいったん切り離すことにもなるので理解がしやすくなる。Oが節の場合は日本語の語順に当てはめて理解することがもともと困難であるため、VとOとの間にスラッシュを入れて切り離してしまっても問題はない。

受験英語・下線部和訳問題との兼ね合い

以上に説明した方法は、実は受験参考書にもすでに言及されている。

語族を異にし、文法構造を全く異にする2つの言語の間に架橋しようとする際には、どうしても文法構造とは異質の原理の上に立たねばならない。筆者はそれを言語理解の結果を論理的に分析することによって得られる文法構造ではなく、言語理解の心理的構造と人間の限界から生じる生理的制約に求めたいと思うのである。(伊藤1983:258-259)

これは、英語の主語を日本語の主語に、英語の述語を日本語の述語としてそのまま対応づけた和訳は困難であるし、仮に訳したとしても、読み手にとっては非常に読みにくい日本語になることが予想されるということを意味する。

我々の言語理解は発言(またはセンテンス)の長短とは無関係に、これを自分の情報受容力にあわせて切断し、切断したものを一応まとめることによって頭の中に次の情報を呼び入れるスペースを作り、そこに入ってくる情報を再び適当な所で切断してまとめる作業のくりかえしであると考えられる。(ibid.:259)

これは、受験英文解釈は究極的には情報処理単位に基づくリーディングに行き着くということを示唆している。伊藤は入試問題を解く上でこの方法を用いることは危険であると指摘しているが、現在大学入試で下線部和訳問題が出題される場合は下線部が長く逐語訳が困難であることも少なくないので、順送り理解を反映した訳文が必ずしも答案として不適切とは言えないのではなかろうか。

参考文献

  • 阿部一・持田哲郎(2005)『実践コミュニケーション英文法』三修社
  • 安藤貞雄(2005)『現代英文法講義』開拓社.
  • 伊藤和夫(1983)『英語長文読解教室』研究社出版
  • 伊藤和夫(1995)『伊藤和夫の英語学習法』駿台文庫.
  • 寺島隆吉(1986)『英語にとって学力とは何か』三友社出版.
  • 吉川千鶴子(1995)『日英比較動詞の文法』くろしお出版

現代英文法講義

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英語長文読解教室

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伊藤和夫の英語学習法―大学入試 (駿台レクチャーシリーズ)

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日英比較 動詞の文法―発想の違いから見た日本語と英語の構造

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