持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

文章における論理とは何か(その2)

説得のための文章(続き)

大熊(1973)は論証の方法として、帰納的推論と演繹的推論に加えて類推法を取り上げている。類推法には説明を分かりやすくするという効果があるが、結論が確実に出る保証はなく、大熊もこのことに対して注意を促している。
書き手が論証を行う際に、ときには誤りを犯してしまうことがある。非常に犯しやすい誤りの1つに因果関係推定の誤りがある。たとえば、単に2つの出来事が偶発的に連続しただけなのに因果関係があると思いこんでしまったりする場合である。複数の原因があるはずなのにそのうちの1つだけを恣意的に取り出してしまうのも、この誤りに含まれる。複数の原因から恣意的でない形で1つを指摘する場合は、もっとも大きく、直接的で、重要な原因を挙げなければならないにもかかわらず、それよりも間接的で軽微な原因を指摘してしまうのも誤りである。また、複数ある原因の相互関係を見落とすことも、因果関係を誤って捉えてしまう原因となる。この他、文章の論旨から逸脱した議論をしたり、議論すべき問題の優先順位を取り違えているのも、論証の誤りと言える。

説得以外を目的とした文章

論理が必要とされる文章は、説得を目的とした文章に限ったことではない。照屋(2006)は日常の仕事の中で作成するさまざま文書を分かりやすく論理的に書くアプローチを紹介している。技術文書の書き方を扱う高橋(2004)では対象となる文章が説得よりも情報伝達が目的となるものが多いが、分かりやすい文章は論理的な文章であると言い切る。
照屋も高橋も、帰納的・演繹的の2つの論理付け方法を採り上げている。照屋はさらに掘り下げていて、論理を「問いへの答えを構成する結論と複数の根拠を、縦と横の2つの法則性で構造化したもの」(照屋2006:31)と定義している。縦の関係とは因果関係であり、横の関係とは根拠相互の関係で、根拠が重複や漏れがないように配列することを重視している。照屋は根拠の配列に関して、単純な「並列型」に加えて、根拠の客観性に基づいて分類し配列する「解説型」という配列も取り上げている。

参考文献

  • 熊五郎(1973)「基本的文章:論証文」『国文学』18(12) pp.63-69.
  • 高橋昭男(2004)『日本語のテクニカルライティング』岩波書店
  • 照屋華子(2006)『ロジカルライティング:論理的に分かりやすく書くスキル』東洋経済新報社

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