Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

レースペースはフォワードも速く!

oyajisculler2007-03-12

この1ヶ月程度、LBRC中年エイトの2000mレースに向けた乗艇練習でレースペースの有酸素運動化に取組んでいる。要はフォワード時間を圧縮してレートを上げて本数を多くする分、水中の負荷を有酸素運動で発揮できる程度まで下げて、レース中盤を有酸素運動化してペースを持続しようといういもである。2000mシミュレーションの7分漕をこれまで2回、1Xレースペース練習で1回、取り組み始めたばかりだが概ね方向性は間違っていない様だ。この有酸素系漕法は、フォワード時間を短縮してレートを上げる漕ぎ方であり、昔の言い方で言えばハイピッチ漕法である。これまでブログの中で書いてきたものと重複するが、ポイントをここで纏めたい。

漕法基本「蹴って休む」との相違:

ボートは水中で頑張ってフォワードで休むというのが基本の教えである。長い距離を延々と漕ぐ遠漕などでは、1本毎に使った筋肉を回復しようとすればそれが必要である。(見た目も優雅で美しい)しかしながら、レースを考えた時にどうか? ボートの公式レースは2000mであり、この限られた距離を如何に速くゴールインするかを競っている訳である。速くゴールインできれば良い。極端に言えば、見た目に違和感があったり、エンジンとしての漕手のエネルギー効率が悪かったりしても艇速が出ればそれでよい。ボートのレースはせいぜい6〜7分で終わる競技であり、フォワードで休んでいては高い推進力は得られない。むしろフォワードは推進力を発揮しない時間(ある意味で無駄)と考えて、この時間を圧縮して推進力を発揮している時間を長くすべきという見方は理にかなっている。

フォワードを時間を短縮するには:

ではフォワード時間を短くするにはどうしらた良いか?頑張ってフォワードを速くする以外にない。具体的に努力すべきは、やはりフィニッシュ後の反転動作であるハンズアウェーを思い切って速く出し、フォワードの出始めを速くすることが肝要と考える。一連の動作としては:

  1. 押し切り後のブレード離水・フェザーターンを素早く。
  2. ハンズアウェーを弾く様に一気に出す。
  3. ハンズアウェーに引かれる様にしてボディーリカバリー(上体前傾)。
  4. 上記の勢いを得て、早めに膝を緩めてシートスライド始動。
  5. シートスライドが始まればフォワード中盤は脱力状態。
  6. エントリー前は次の正確なキャッチに向けて準備。

取組み始めは素早い動きに体が順応できず「こんなに速く動くの?」という感じで苦しいが、慣れてくれば上体から無駄な力が抜けてリラックス出来る様になり、素早い動きがスムーズに出来る様になる。時間が短いのでフォワードで休むことは出来ぬが、フォワードを速くして疲れるということはない。

水中の無酸素運動的力みは無用:

そもそもの目的は、レース中盤でペースを落さないために無酸素系運動を廃し、有酸素運動化することにある。「蹴って休む」のゆったりリズム漕ぎでは水中負荷が無酸素系になるが、フォワードを短縮してレートを上げた漕ぎでは本数が稼げる分、水中は有酸素運動系で発揮しうる負荷まで落してよい。イメージとしては1本1本歯を食いしばるような力は無用であり、何本でも押し続けられる様な水中強度でネットリ・確り押せば良い。くれぐれも「水中強度を上げてレートUP」等と考えないこと。=それはスパートモードだ。

レートが上がってもリラックスして正確に動く:

漕技未熟なクルーに、レース中盤のレートをもっと上げろと言うと、水中とフォワードの時間比率(即ちリズム)を変えずに上げようとする。序盤は無理して水中強度を上げてレートが上がるが、途中から耐えられずにブレードを浅くしたりレンジを短くしてレートを保とうとして自滅してしまいやすい。これでは狙った漕ぎにはならない。前述の通り、フォーワードを速くして水中は無理のない負荷でネットリ押す。この時に留意しなければならないのが:

  1. 高いレートでも正確に漕ぐために、体をリラックスさせる。力みは禁物。
  2. レンジは切らない。(レートが上がらない程、無理に伸びる必要もないが。。。)
  3. 水中はブレード一枚長く平らに押す。(ブレードが浅いと推進効率悪化)

要するに、レートを上げても正確に漕ぐ必要があるということ。正確に漕げない程レートを上げるのは逆効果。レートの上限がどこにあるかはクルー毎に違う。

結果として推進効率が改善:

以上の通り、レースペースの有酸素運動化を狙った漕法だが、

  1. フォワード時間が短いので、フォワード中の艇速(漕手+艇の合成系の速度)低下が小さく速度変化の振幅(凸凹)が小さくなり、推進効率が改善する。(フォワードが速くなった分、フォワード中の艇単体の速度が増加して推進抵抗が増加する問題があるが、話が複雑になるので、ここではこれを敢えて割愛する)
  2. レートを上げることにより、1本当りの水中負荷を落せるので、ブレードのスリップが減り、オールの推進効率が改善する。
  3. フォワード時間が短くなり(水中とフォワードが1:1のリズム)、フォワード中に休むことは出来ないが、ランニング、自転車等の連続運動に近い運動になり、リズムが良くなる。間欠運動であるローイング運動にありがちな無用な力みが少し緩和されてる。言い換えれば、6,7分間連続して運動し続けることが出来る有酸素運動の負荷まで落すことで、フォワードで休む必要が無くなる。運動が有酸素系になることも運動中に体がリラックス出来る理由の一つでもある。

意図せず有酸素運動系の漕ぎをした記憶:

おやじが大学4年時のT大の対校エイトのコンスタントレートはSR36〜36.5だった。この年のクルーはランニングは遅いがエルゴは回るという心肺系というより力持ちタイプが多く、余り高いレートに出来なかったというのが実態のところではある。(前年はランナー型の漕手が多く乗ったクルーで、コンスタントレートは37前後だった)
このクルーで、一度ハイレートで漕ぎ通したことがある。東商戦を終え、クルーを組替えて2週間、未完成クルーのままで臨んだ国際大学漕艇選手権の代表選考会のレース。決勝が午前と午後の2回あるという変則的なレースで、午前のレースで不覚にも2位となってしまい、午後の2次決勝は圧倒的に差を付けて勝たねばならないという状況。結構な逆風が吹いたコンディションだったが、スタートダッシュから殆どレートを落さずそのまま突き放そうという戦術。逆風の中、2Q以降もフォワードを落さずSR37以上をキープし、大きく水を空けて圧勝したレースだった。4年時の国内決勝レースは全て優勝したが、2位との艇差はこのレースが最も差を付いた記憶がある。(逆風が得意だったこともあるが)
さて、前段が長くなったが、普段、順風でも36程度で漕いでいたクルーが、背水の陣で望んだレースで必死でレートを上げた(フォワードを速くした)結果、逆風の中でも高いレートで漕ぎきれたというのは、今考えれば、有酸素運動系の漕ぎになっていたということだろう。その時点では気合が入っていたから出来たとしか思わなかったが、理にかなったリズム・漕法になっていた訳だ。気付いていてその後の取り組みを変えていればもっと速いクルーになっていたかも知れない。。。。

世界のトップクルーは既にやっている:

世界選手権のトップレベルでは、シングルスカルでもコンスタントレートは36で漕いでいる。手元にある2003年のLW1XやLM1Xの決勝レースを見ると、優勝したカナダのLW1X選手(Fiona Milne=彼女の漕ぎがコマ送りで見られるサイト)やイタリアのLM1X選手(Stefano Basalini)の漕ぎは他の選手に比べてフォワード時間が短いハイレート漕法。これは明らかに有酸素運動を意識した漕ぎを狙ったものとみた。ただ、並みのスカラーと違うところは、ハイレートで漕ぎ続けながら、ブレードワークは正確無比でブレード一枚平らに長く押している。おやじもかくありたい。

纏め:

レースの漕法として効果があることは明白であり、LBRCエイトやおやじ自身の1Xの練習やレースで取組んで行く予定。ただ、フォワード時間の圧縮というのも自ずと限界がある筈であり、今後の練習でその当りを見極めて行きたい。最初は無理をしてでもハンズアウェーやシートの出だしを速めるなど、思い切りが必要と考える。ただ、無理をし過ぎて漕ぎが荒れない様に留意する必要がある。
尚、未だ低レートでもブレードワークが確りできない未熟な漕手が取組むべき漕法でない事は、論じる必要もない。
以上