シロクマの屑籠(汎適所属) このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-06-16

「俺が不幸なのは○○のせい」という自己欺瞞ライフハック

 

 

 音楽趣味やオタク趣味が未熟なんじゃなくて、貴方が未熟なんじゃないんですか? - シロクマの屑籠(汎適所属)

 

 この記事はともかく、「俺が不幸*1なのは○○のせい」という自己欺瞞ライフハックは、ネットの内でも外でもかなりの頻度で遭遇する。実際、「○○という原因のせいで俺は不幸なんだ。不遇なんだ、○○さえ無ければ俺はhappyだった筈なんだ」という物言いは、○○以外の自分自身の問題から目を逸らせるには優れたライフハックといえる。

 

 例えば「俺がモテないのはエロゲーオタだから」という物言いをする人がいるとしたら、その人はエロゲーオタであること以外には問題は無い、と思いこむことで、エロゲーオタという自分自身の属性以外のすべての自分自身の問題から目を逸らせることが出来る。エロゲーオタというたった一つの属性に原因の所在を転嫁し、他の問題は一切不問に付すことで、ある種の安心感を得ることが出来るのだ。

 

 しかしこの場合、彼がエロゲーオタをやめることはまず無い。むしろエロゲーオタという属性を悪し様に罵倒しながらもエロゲーオタを続けることこそ、このライフハックにおいては重要なポイントになる。なぜならエロゲーオタをやめてしまったら、自分がモテない理由なり不遇な理由なりに、改めて直面しなければならないからだ。自分自身の不遇をエロゲーに責任転嫁して安心している人が、エロゲーオタをやめてわざわざその構図を駄目にしてしまう筈が無い。「そんなに嫌なら、エロゲーやめれば?」などと言うと、この人達は口ごもってしまうか、やめられない根拠を強く主張する*2

 

事例

 

 1.「俺が女の子と付き合えないのは、顔面障害者だから」

 自分が異性と交際出来ない苛立ちを、自分の顔面、特に顔面の形態のせいにするライフハック。特に男性の場合、顔面の形態なんてものは、異性と交際できるか否かのほんの一部分のファクターでしかない。出会いの多寡・性格・表情の豊かさ、などなど様々な要素が複雑に絡まって、一個人が異性と交際するかどうかが決まってくるし、本当に異性との交際について考えるなら、そんな短絡的な一元論に飛びつくほうが本来どうかしている。しかし、こういった物言いはネット上では珍しくない。

 

 

 2.「俺が皆に差別されるのは、世間に根強いオタク差別のせい」

 これもかなりひどい自己欺瞞といえる。例えば女性スタッフの多い職場にきわどい美少女フィギュアでも飾っている人が、「俺が陰口を叩かれるのは、オタク差別のせいだ」などと言う場合、彼がオタクだから陰口を叩かれているという理解は一面的に過ぎる。それ以前の問題として、女性スタッフの多い職場にきわどい美少女フィギュアを持ちこむに際して何の予防策も講じない、という感性のほうが問題視されている可能性なども、検討されて然るべきなのだ。または、食べこぼしのスナック菓子がゴキブリの餌になっている事のほうが問題なのかもしれない。だが、自分自身の問題に目を触れずに済ませたいだけなら、「全部オタク差別のせい」に責任転嫁しておけば問題ない。

 

 

 3.「俺が職場で評価されないのは、誰それの陰謀のせい」

 時には本当に誰かの陰謀のせいで頭を押さえつけられている、という事も無くはない。だがこの手の陰謀論が、あらゆる角度からみて評価されそうにないような人の口から出ることがある。文句は人一倍言うけれども自分の手足を動かすのは大嫌い、人付き合いも悪く、いつも猫背で、ピントのずれた事ばかり言っている人が、「誰それの陰謀さえなければ、俺も出世出来るのになぁ」などとスナックのママにぼやいているのを耳にすると、ああ、この人は陰謀のせいにでも責任転嫁していないと、やってられないんだろうなぁと思わずにはいられない。

 

 

自己欺瞞ライフハックは、自分自身に対してしか効果が無い

 

 なお、この手の自己欺瞞ライフハックは、自分自身を騙して安心するには十分でも、それを耳にする周囲の人達の考えを変えるには全く向いていない、ことは付け加えておく。むしろこんな自己欺瞞に溺れてばかりいると、「ああ、やっぱりこの人は駄目なんだな」という冷ややかな視線をいっそう集めかねない。殆どの場合、この手の自己欺瞞は他人からはミエミエなのだ。もし、この自己欺瞞ライフハックを使って他人の目もごまかせると思いこんでいる人は、“頭隠して尻隠さず”という格言を地で行くことになってしまうだろう。

 

 大体から言って、たった一つの属性や原因だけのせいで、不幸やらモテ非モテやらが語れるはずがないのだ。人にはいろいろと心の都合というものがあるので、確かに一つの要因に責任転嫁せずにはいられない状況というものもあるし、そういう人には「俺が不幸なのは○○のせい」という自己欺瞞ライフハックも有効だろう。しかし、自分自身の目隠しには向いていても他人には効果の無い、そういうライフハックだということは心得ておかなければならないだろう。そして目隠ししているだけでは自分自身に潜んでいる、もっと多様な問題からは遠ざかってしまうのである。

 

 

 ※補足:私はこのエントリを通して、republic1963さんの処世術がこのライフハックに則っていると言いたいわけではありません。ですが、このエントリはみようによってはrepublicさんがそうであるという誤解を誘導しかねない文面であると感じました。これは、私の配慮不足だったと思います。もっと、誤解を招きにくい表現を選ぶべきでした。

 

 republicさん、すいませんでした。今後気をつけます。

 

*1:不幸、の代わりに[もてない男][ニート]などといった語彙を当てはめてもOKです

*2:この、相手に対してというより自分自身に対しての主張に失敗してしまうと、彼の自己欺瞞がつぶれてしまうので、うんうん、と聞いてあげるぐらいのほうが彼は喜んでくれるかもしれない。

hobblinghobbling 2008/06/17 01:00 こういうライフハックとか精神的勝利法は阿Q先生に学ぶべきですね。

mirrorpersonmirrorperson 2008/06/17 06:17 加藤もライフハック失敗したよねw
弱者が追い詰められているのをライフハックと呼ぶ
のはどうかな〜って思うけどw

p_shirokumap_shirokuma 2008/06/17 07:48 >>hobbingさん
 もちろんこれは、皮肉です。

p_shirokumap_shirokuma 2008/06/17 07:50 >>mirrorperson
 どうかなーと思うのも、それはそれで別にいいんじゃないですか。
 どちらにしても、これをライフハックというのは皮肉のつもりですし、こんな事してちゃ、目隠ししてるうちに柱に頭をぶつけてしまいます。

lets_skepticlets_skeptic 2008/06/17 11:41 セルフ・ハンディキャッピングの話ですね。自己成就予言まで話を進めると、より興味深い話になるかなと思いました。

hobblinghobbling 2008/06/17 12:49 > もちろんこれは、皮肉です。

いや、阿Q先生というのも皮肉なので……魯迅の阿Q正伝ネタです。こういうライフハックを駆使して悲惨な結末を迎える話ですよ。

p_shirokumap_shirokuma 2008/06/17 19:44 >>lets_skepticさん
 自己成就予言ですか、そこまで行くと確かに面白そうですが、取り扱うのも難しくなりそうだと思いました。確かに興味深いところではあります。

p_shirokumap_shirokuma 2008/06/17 19:48 >>hobbingさん
 教科書か何かで一節を見かけた記憶も既に無く、阿Q正伝がそういう話だという事を今改めて知りました。この手の「アレなライフハック」は、いろいろな作品から学ぶことが出来そうです。

republic1963republic1963 2008/06/17 21:21 私はそんな事をいってしまったんでしょうか・・・

p_shirokumap_shirokuma 2008/06/17 21:52 >>republic1963さん
 リンク先のさらにリンク先のrepublic1963さんのエントリに、このライフハックに近い何かを感じ、さらにおとといのエントリを自分で書いているうちに、一度これは書かぬわけにはいくまい、と思って書きました。

 が、republic1963さんのあれは、この自己欺瞞ライフハックに合致するものではないと思っています。この点、誤解を招きやすいリンキングになってしまっているとしたら、ごめんなさい。

accadia11accadia11 2008/06/18 22:02 なるほど。私は、圧倒的大多数の労働者の憎悪の的である経団連のお偉いさんが、(その学歴・社会的地位を鑑みるに)首を傾げたくなる位香ばしい発言を繰り返すのは、

・富裕層の権益を守るため、その代表者として罵詈雑言を進んで己の身に受けることで富裕層の権益の人柱たらんとするある種の「高貴なる義務」精神の発露である

という風に捉えていましたが、
それでも、ものには言いようがあるだろうと思っていました。ですが、今回のエントリを鑑みるに、あの人たちは、

・あえて傲慢なもの言いをすることで、労働者の怒りを煽り、剥き出しになったその怒り(怒りは本来、どうしようもなくプリミティブなものです)が必然的に内包する「野卑さ」や「低俗さ」、「粗暴さ」を白日の下に晒すことによって、「負け犬」のルサンチマンの醜さを世間に印象付ける

という側面もあるなあ、と今更ながら思い至りました。
まあ、オタクの自己正当化と労働問題を同列に語るのは無理がありますが…。
ただ、労働問題の場合、我慢強く文句を言わずに黙って耐える国民性をいいことに搾取を続け、抗議したらしたで「その僻み根性こそが負け犬の負け犬たる所以」などと片付けられてきたわけで(秋葉原事件以降、変化の兆しはありますが)、まさに前門の虎、後門の狼。進むも退くも地獄とはこのことか、と思った次第です。

p_shirokumap_shirokuma 2008/06/19 18:31 >>accadia11さん
 労働者がそのような野卑さを高確率で発露せざるを得ない、ということ自体が、為政者側の無能や管理者側の無能を暗示しているように思えます。が、為政者側が、そのことよりも「労働者がギャーギャー言っているのは○○のせい」という自己欺瞞ライフハックに浸るというのはあり得ることです。

 なんにせよ、一原因に着眼するのは大事にしても、それ単体に原因を求めるという姿勢には危うさがあるなぁと思っています。