シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

自称「真面目系クズ」のエゴグラム集計結果報告

 
 【忙しい人のための要約】
 
 最近よく見かけるようになったネットスラング『真面目系クズ』に関する調査の一環として、「自称真面目系クズ」な人達のエゴグラムを募集した。3日間で50例のエゴグラムが集まり、これを集計した結果、エゴグラムの5尺度のなかで(AC)尺度が突出して高く、「自称真面目系クズ」の人達は依存性・従順性が高い傾向にあると推定された。
 
 
 
 【1.はじめに】
 
 『真面目系クズ』とは、2chの大学生活板が発祥地とおぼしき、新しいネットスラングである。概ね、「表面的には真面目で努力家のような体裁を取っているが、実際には他人の顔色を見ながら楽なほうに流されているだけで主体性や積極性の無い人物」といった意味で用いられる。ただし多くのネットスラングと同じく、話者によってニュアンスが異なっていることも多い。専ら自嘲的に用いられるが、他人を貶すために用いられる用例が絶無というわけでもない。
 
 2chのスレッド『「真面目系クズ」というのを知った 完全に俺のことでワロタwww』*1には、自称真面目系クズのエゴグラムの結果報告が五例記載されていた。この五例がいずれも依存性の高いプロフィールであった点に私は着眼し、自称真面目系クズのエゴグラムを募集して傾向を検討してみることにした。
 
  
 【2.対象と方法】
 
 2012年3月26日午後8時に、『真面目系クズと依存性』という記事をはてなダイアリー上にアップロードした直後、はてなブックマークコメント欄および筆者のtwitterアカウント(@)にて以下のような要請アナウンスを行った。
 

「自分は真面目系クズ」と思う人で、エゴグラムをなさった人の結果報告を集めています。もし差し支えなければ結果を教えて下さい。 エゴグラム→ http://www.egogram-f.jp/seikaku/

 
 呼びかけを行った後、はてなブックマークコメント欄または@宛てにエゴグラムの結果報告があったものを収集し、これを対象に集計を行った。集計期間は2012年3月26日午後8時〜2012年3月29日午後8時までの三日間とした。結果報告はエゴグラムのアルファベット5文字が全て揃ったものだけをカウントし、単一尺度だけを報告したもの・アルファベットにabc以外の文字を含んでいるものは対象から除外した。
 
 ・リンク先として提示したエゴグラムについて
 今回の調査では、こちらのwebsiteのエゴグラムをリンク先として提示し、その結果を報告して頂いた。リンク先のwebsiteはインターネット上では老舗的な存在であり、質問内容も臨床で用いられるTEGに概ね準じており、ここ数年大きな変化がみられないため、今回のような調査に適していると判断した。リンク先のエゴグラムはweb上で不特定多数に提供されるサービスのためか、各項目の評価が(a:高い,b:平均的,c:低い)と単純化されており、また妥当性尺度や疑問尺度を評価する仕組みを欠いている様子なので、十分に精緻なデータを取るには向いていない。その反面、アルファベット五文字の結果表示は被験者からreplyを得やすいというメリットもあり、実際、リンク先のwebsite抜きでは本調査は成立しなかったと思われる。
 
 
 【3.結果】
 
 『真面目系クズと依存性』をアップロード後、72時間で約38000のアクセスがあり、635個のはてなブックマークが集積した。また、twitterの@twit_shirokuma アカウントには『真面目系クズと依存性』関連のreplyが127個集積した。3月26日の夜半はリンク先エゴグラムのサーバがダウンしていたため、当初、任意被験者からの結果報告が得られない状態が続いたが、3月27日朝以降はエゴグラムの結果報告が相次ぎ、最終的に はてなブックマーク側からは31個の標本が、twitterからは19個の標本が抽出された。
 
 50例のエゴグラム標本の集計結果は以下の通り。
 

a b c
CP 8 22 20
NP 20 19 11
A 18 25 7
FC 21 21 8
AC 36 10 4

 (全標本数:50)
 
 
 【4.考察】
  
 標本全体の傾向としては、低(CP)高(NP)高(A)高(FC)高(AC)だったが、なかでも(AC)の高さが突出していた。この結果を見る限り、自称真面目系クズな人は対人依存性が高く・従順で・我慢を溜め込みやすい、と、ある程度は言えそうである。全標本平均をエゴグラムのグラフの形として図示すると、

 こんな形になる。グラフの形としてはcbbba型に近い。このエゴグラムの傾向――責任感や頑固さを司る(CP)が低く、依存性や従順性を司る(AC)が高い――からも、人の言うことに流されやすく自己決定が苦手な人物像が連想される。「一見、真面目そうに見えるけれども内実はそうではない」という、真面目系クズの捻じれた定義とも、この結果は矛盾しない。
 
 ただし、この結果は
 
 1.「真面目系クズと依存性」というタイトルの記事を読み、
 2.わざわざエゴグラムを実行し、
 3.わざわざ筆者に結果を返した者のエゴグラム
 
 だけが標本として抽出されたものである点には留意しなければならない。
 
 例えば、本調査では(FC)尺度がやや高めに出た。だがこれは、自称真面目系クズな人達が茶目っ気&好奇心たっぷりだからかもしれないと同時に、わざわざ筆者に結果を送ってくるぐらいに茶目っ気たっぷり&好奇心たっぷりな人ばかり標本として集まっているせいかもしれない。同じく、(AC)尺度がここまで集積した一因として、『真面目系クズと依存性』というエントリを読んだ後にエゴグラムをやったせいで(AC)尺度が高めに出やすかった、というバイアスの可能性も考慮に入れる必要がある*2
 
 逆に、今回の標本のなかには自分のことを真面目系クズとは思っていないけれどもエゴグラムを送ってきた人が混じっている点にも注意が必要である。例えばtwitter経由でエゴグラムを送ってくださった@さんは、自称真面目系クズでは無い*3。おそらく、全標本のなかにはこのような人が他にも混じっていて、標本としての純度に疑問の余地がある、と思っておくべきだろう。
 
 なので、厳密に言葉を選ぶなら、この結果は「『真面目系クズと依存性』という記事を読んで、記事筆者の“自称真面目系クズな人のエゴグラムを募集しています”という呼びかけに答えた人達のエゴグラムを集計したら(AC)尺度が高い傾向にあった」と表現するのが適当で、「やっぱり真面目系クズは依存性が高い」という簡略化した表現の間にはいささかのギャップがある点は断っておく。
 
 上記のように、本調査は標本の偏りも含めて多くの点で信頼性・妥当性の問題を含んでいる。だが、真面目系クズというネットスラングに自分を当てはめる人々について考える一契機とはなったと思う。このネットスラングがこれからどの程度広がり、どのように用いられるのかも含めて、今後も動向を注視したいと思う。
 
 個人的には、もっとちゃんとした統計学的追試が行われることを期待するが、こんなネットスラング相手に気合の入った統計を組みたいと思う人はあまりいないような気がするので、あったらいいな、ぐらいの気持ちで空のお星様にお祈りしておく。
 
 

*1:注:リンク先は2chまとめサイト

*2:ただし、どの設問にどう答えたら(AC)尺度が高くなるのかの採点基準をはっきり分かったうえでエゴグラムをやっている人はあまりいないような気もするので、バイアスがどの程度深刻かは分からない。

*3:この人は以前から知己だったので本人にも確認した。エゴグラムの形はcbbab。