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Konstanz als Heimatstadt

田中森一・反転 闇社会の守護神と呼ばれて

反転―闇社会の守護神と呼ばれて

反転―闇社会の守護神と呼ばれて

バブルの時代の一面がわかる作品です。


著者はもとはエース検事として知られ,後には弁護士として闇社会とされる人々とのつながりをもっていました。本書はその両方について,ここまで書いてもいいのかというくらいに詳しい内容が書かれています。
本書の前半は,生い立ちから検事時代のエピソードまでが紹介されています。検事としての輝かしい実績や失敗が赤裸々につづられており,又その中では,操作に対する政治的な介入あるいはキャリア・ノンキャリアの対立の図式も出てきます。著者はその中で検事の仕事に対して興味を覚えなくなったこと,また母親の介護が必要になったことを契機に,弁護士に転身します。本書の後半は弁護士としてこれまでは追及の対象であった側の人々を弁護する役回りを演じることになります。ちょうどバブル期とも重なり,さまざまな話が出てきます。
本書全体を通読して感じられることは,バブル経済の主役として世間を賑わせた人々に共通する,底辺からの「はい上がり」に掛けた大きな努力です。筆者はその境遇に対して共感をよせたため,結果として弁護士としての顧客がそうした側にシフトしたと述懐しています。バブルとは金余りによる投機の激化の帰結と考えられてきましたが,貧しい極みからはい上がった戦後日本の経済・社会のひとつの帰結であったとも位置づけられそうです。