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2011-02-08 ドラはあこがれ

小学校の頃「バラはあこがれ」という曲を習って、今でも覚えているのですが、つい最近、1番だと思っていた歌詞が本当は2番で、私の知らない1番があることを知りました。

永久(とわ)の誓いに背いた心が 君を捨てて行く時も

隠しきれない悩みを誰にも うち明けられない時も

  ■バラはあこがれ バラはあこがれ バラは僕たちの夢

  ■バラはあこがれ バラはあこがれ バラは僕たちの夢

(http://bunbun.boo.jp/okera/haho/bara_akogare.htm からお借りしました。)

私の世代の小学校は当たり前のように日○組が強かったのですが*1、さすがにこの1番を子供に教えるのはためらわれたのでしょうか。微笑ましい話です。

[]だのに何故、何を探して君は描くのか、そんなにしてまで

コアな麻雀マンガファンには常識ですが、北山茂樹という作家は1つのジャンルです。70年代中ごろ、麻雀マンガの黎明期に淡い光をはなち、その後の繁栄の中で忘れ去られた彼の作品は、「まあ別に、今更日の目を見なくてもいいかな…」という負のオーラに満ち満ちています。

【参考】北山茂樹の七不思議

  1. 何でいっぱい単行本を出せたのか分からない(10冊くらいある)。出版社に強烈なコネがあった、実は自費出版など諸説ある。
  2. 何でこんなに絵が下手なのか分からない。読者からのお便りで「マンガよりもイラストの方が面白い」と評されたこともあるらしい。
  3. 何で原作+作画を担当しているのか分からない。元々は原作者ってこと?
  4. 何で「世界麻雀パワー」の略が「VMP」なのか分からない。
  5. 何で表紙に麻雀卓を描きたがるのか分からない(参考画像)。何で電車を描きたがるのかも分からない。
  6. 何で「北山の牌返し」(後述)を多用するのか分からない。
  7. だのに何で、こんなに読者の心を惹きつけるのか分からない。

ということで今回は、入門的な作品を見ながら、北山画伯の魅力に迫ります。

[][][]雀鬼一番勝負(1978)

劇画・北山茂樹+原作・小島武夫+脚本・三輪洋平

  • 久保書店・WORLD COMICS

三輪洋平は麻雀新撰組の一員ですが、この時期に既に加入していたかのかは知りません。

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あらすじ

俺は梶原好一郎。社内でも有名なグータラ社員だが、麻雀の腕はピカイチだ。この腕と頭で何度も会社にドデカイ利益をもたらしてるのさ。俺はいつでも辞めていいけど、社長が辞めさせてくんないんだよなぁ。さて、今日はどこに打ちに行こうか、相棒のドングリ。

梶原主人公の連作集ですが、第2話「涙の四槓殺し」だけ別の話になります。「必殺!!四喜和」「麻雀レクイエム」「幸福への配牌」「雀鬼一番勝負」「雀ゴロ志願」「抜き勝負」の全7編を収録。

表題作は「麻雀で一番勝負?」というションボリ感に加えて内容もイマイチで、なぜこれをメインタイトルに据えたのか意味不明です。あと「抜き勝負」の抜き(イカサマの方ですよ)シーンは1ページしかありません。

表紙から負のツキが発散されています。まず後ろの、ほぼ全裸の女性。じっと眺めてると、心の水面に「ベラヤ・ラヒーモフ・杉江」という言葉が浮かんできます*2。額に☆がありますが、もちろんあの名シーン、竹之丞、エペ、杉江が床を転がったら、それぞれ三元牌が顔に付く、という故事にちなんだものでしょう。ということは下はパイパンなわけですね。

そういう世の中で3人くらいしか喜ばない『花引き』ネタはおくとしても、この女性、一度も作中には登場しないんですよね。じゃあどこに登場するかというと、裏表紙です。

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確かに作者の絵にしてはポーズが決まっていてお色気タップリ気味なのですが、かと言って繰り返されても、ねえ。70年代麻雀マンガのお色気に対する熱意は、30年後の世界に生きる我々の理解を超えています。

次に*3注目したいのは、表紙の男の手。皆さま、これ何をしているか分かりますか?実はこれ、自分がアガった牌姿を手に持って、相手に見せつけている所なのです。「義一のバンザイ」と並ぶ70年代の表現技巧、「北山の牌返し」です。*4

作者は特にこの表現を好んだ様子で、絵柄的にもう少し後の作品と思しき『麻雀血風録』では多用しています。今から紹介するのは、この単行本に載っている牌返しシーン。

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とても味があります。お手本のような牌返しです。

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こちらは何と、牌返しにいたるまでのシーケンスを図解してくれています。私の知る限り世界にこの1コマだけです。しかも図解を見ると、彼はアガる前、手牌を全部上下逆さまにして並べてますね。ついでに左右の順番も一般的な左→右流れとは逆です。その状態でひっくり返すと相手に対して分かりやすく、かなり親切です。

これを見た後で表紙絵を見返すと、左手が隠れていて、ちょっと不完全かな、という気がします。その辺の「何で表紙をもっと頑張らないの!!」感も、北山茂樹の魅力の1つです。

ストーリーは、しっかりと「グータラ社員もの」のフォーマットに落とし込まれています。

  • 取引相手の地主や社長が麻雀好きで、麻雀に勝てば商談に応じてくれる。
  • 彼らから麻雀で金を巻き上げた後に、ソープに連れて行って満足させる。
  • 会社から表彰されるけど、昇進は断ってボーナスだけ貰う。

といった感じで、他の北山作品に比べるとリーダビリティは高いと思われますが、頭悪い感も相当あるので慣れてない人は注意が必要です。

しかもその分、絵の方に注目がいきがちになってしまい、微妙な気分になることもしばしば。例えば、これは第1話の1ページ目、初めて梶原が登場するシーンです。上は相棒のドングリ。

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手にした本に目の焦点があってない気がするのですが、どうなんでしょうか。読み慣れている私でも、これは外れかな、と思わせる初っ端の1ページです。

ちなみにイケメン好きの四方田さんが好きそうな情報を書きますと、この2人、どうやら中野のアパートで同棲しているようです。しかも状況から察するに、ドングリは家賃も生活費も払ってません。

後はまあ、70年代の普通のクオリティの麻雀マンガです。北山画伯の絵も下手だけどヤバくはない範囲に収まっていて、入門編にはピッタリ。すごく偉そうですみません…

100円で売ってたら、買っておいて損はないと思います。

最後に、多分もっとスマートなイカサマなんだろうけど、作者の絵のクオリティが残念なシーンを紹介して終わります。

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■参考

…北山茂樹をネタじゃなく扱おうとすると難しいですね。とりあえず四方田さんの『麻雀番外地』レビューとか、マンガけもの道の『いれずみ雀鬼』レビューを読むといいんじゃないでしょうか。

*1:この歌も歌声喫茶でよく歌われた曲と聞きます

*2:そういえば名前がベラヤなら、苗字は「ラヒーモワ」にならないとオカシイんじゃないかと今思いついたのですが、どうでもいいので流します

*3:まだ表紙の話です

*4:80年代の「タンタンタタン」に繋がるかどうかは調査中

2011-02-05 むっかしーむっかしー裏ドラは〜

「麻雀は竜宮城か?」…分からないですね。居心地良いのは確かですが、関わり方は人それぞれでしょうし。自分のことをいえば(話は多少違うのですが)、コマ寮は跡形もなく、私は二度と駒場に行く気はありませんが、心のなかにはありますし、その精髄のような物について考えることはあります。麻雀はどうなんでしょう。分からないですね。

ということで?今回は、国際色豊かな作品をご紹介します。

[][]新嘉坡雀鬼(1979)

画・郷力也(1作品だけ村岡栄一)+作・板坂康弘(1作品だけ別の人らしいが不明)

  • 徳間書店・タウンコミックス
  • 「シンガポールじゃんき」と読みます。

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あらすじ

スパイがもつ危険な香りに誘われたナオンが、お互いもう大人なんだからいろんな事をして任務完了。大体そんな感じです。

「新嘉坡雀鬼」「紐育雀鬼」「倫敦雀鬼」「巴里雀鬼」「露都雀鬼」「市俄古雀鬼」の6編を収録。それぞれシンガポール、ニューヨーク、ロンドン、パリ、モスクワ、シカゴを舞台に、表紙のような70年代風イケメンが麻雀に恋のアバンチュールにと大活躍します。ちなみに『ミナミの帝王』の郷力也は、当時「美女が描ける麻雀マンガ家」として人気だったそうです。

最後の「市俄古雀鬼」だけ、画が村岡栄一になります。原作者もどれか1作品だけ違うらしいのですが、ハッキリしません。普通に考えれば「市俄古雀鬼」なんでしょうけど。志村裕次かなぁ…

激闘!!海外麻雀戦争マンガ。

舶来趣味、という言葉がまだ生きていた頃の雰囲気がビンビン伝わってきます。主人公も「海外取材に行く週刊誌記者」「ニューヨークで消息不明になった恋人を探す建築家」「映画会社の海外駐在員」「パリのモンパルナスに住むジゴロ」「商社マンに扮したスパイ」とお腹いっぱいなラインナップ。

原作者の板坂はシナリオ学校で後の竹書房の社長、野口恭一郎*1と知り合い、その縁で「近代麻雀」(活字の方)の初代編集長に就いた人です。映画に影響を受けたと思しき作品が多く、また独自の詩情が作品に溢れ出す人でもあります。

たとえば、パリのジゴロのモノローグ。

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麻雀マンガにはもっとキテレツなポエムがあるので、レベルとしては普通ですが、まあこんな感じです。

シナリオ学校出身だからか、この時期の麻雀マンガには珍しくプロットがあります。ネタバレを避けるため詳しくは書きませんが、どんでん返しが必ずあるんですよね。お、そう来たか、という新鮮な驚きが味わえます。

その分、麻雀シーンに関しては添え物というか、麻雀である必然性が余り…という印象が否めません。しかしその中でその国の特色を出そう、という意欲は高く、飽きさせない工夫が見られます。

例えばロンドンの宝石商との勝負は「ダイヤモンドシンジケートルール」。三元牌をそれぞれダイヤモンド(白)、エメラルド(發)、ルビー(中)に見立て、1枚で1飜つきます。点棒の代わりにダイヤを使います。ゴージャスですよね。

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題名の奇抜さが話題に上ることが多い作品ですが、内容も充実してます。当時の雰囲気を味わいたい人は、この作品や『麻雀無宿』(森義一+三田武詩)を読むといいんじゃないでしょうか。

最後に、昔の麻雀マンガの典型的な〆を紹介して終わります。

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おまけ

どうしても気になったもので…単行本の最後によくある他作品の紹介。「仙人直伝の飛打を武器にプロ・ゴルフ界に旋風!!」って、名木さん何やってるんですか。

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*1:2010年没。RIP

2011-01-12 ハンチクは酢飯!!

「一×透華本」*1と思っていた読者に冷水を浴びせかける前書き。しかしV林田さんの力作『麻雀漫画で読む咲』は素晴らしい達成でした。麻雀マンガファンに限らず、全てのマンガ好きに入門書としてオススメできます。

この同人誌がきっかけとなって、『咲』の現代性についての議論が進むといいですね。慣れた手つきで紹介を進めていく林田さんの筆が、モンプチさん*2の項だけ生硬になっていて、その辺りに未来を感じるオジサンなのでした。


[][]青春牌の譜跡 1巻 (1985) その2

画・北野英明+作・四方城五郎 マンサンコミックス

  • 「別冊漫サン 傑作麻雀劇画」昭和59年5月号〜60年2月号掲載(1巻収録分)
  • 全2巻(2巻は未読)

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※その2です。その1はこちらから

その1ではキャラクターについて紹介しました。ここでは麻雀部分について簡単に触れてみます。


読んですぐ分かりますが、「競技麻雀 VS バクチ麻雀」というテーマが柱です。原作の四方城五郎はこの時期「現代競技麻雀研究会を主宰し」*3ているそうなので、実際の出来事に基づいたエピソードもあるのでしょう。

1980年代はこのテーマが盛り上がったようで、先行作品としては かわぐちかいじの『プロ 雀界の光と影』(1981〜84、竹書房)、松山三津夫の『プロ雀士修行』(原作・伊東一、1979)があり、少し後には北野英明の『勝負星』(原作・梶川良、1985)、ほんまりうの『B』(恐らく馬場裕一が協力、1987〜89)が続きます。

(追記)すみません、北野英明の『勝負星』は『青春牌』より前、1982〜83でした。訂正します。

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『プロ雀士修行』3巻。怖いです。

これらの作品の要諦は「プロとは何か?」という疑問です。つまり、

  • 「バクチ麻雀で金を稼いでいるプロ」がいて、
  • 「競技麻雀の普及に努力を重ねるプロ」がいる、

では一体どちらのプロを目指せばいいのか、どちらが本当のプロなのか、という迷いがアマには生じます。一方でバクチのプロと競技のプロは、イデオロギーとしても実際の存在としても相容れませんので、鋭く対立します。ここにドラマが生まれます。

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バクチと競技の対立


これはとても魅力的なテーマだったようで、イカサマを中心とした作劇の組み立てに影響を及ぼしたと考えられます。私の乏しい知識で見る限り、1980〜82年を境に麻雀マンガ作品におけるイカサマの比重はグンと低くなります。上に挙げた中で「イカサマも実力のうち」として扱っているのは『プロ雀士修行』のみで、後は話の彩り程度に扱われるか、全く登場しないかです。

『青春牌の譜跡』には全くイカサマが登場しません。ストイック度は100%です。例えば、野澤白龍の許に遣られた流哲男は雀牌に触れることが許されず、代わりに庭の掃除や牌磨きをさせられます。夜になると、『麻雀大辞典』はもちろん『孫子』『葉隠』などを読まされます。

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野澤白龍は豪邸に住むプロ雀士協会北海道支部の重鎮で、古武道にも通じている人物として描かれます。この辺りは当時でもネタとして受け止められていたようですが、競技麻雀と武道のアナロジーは他作品にも登場します。


1巻の最後は、旅打ちに出た主人公が童貞を捨て、文字通り?一皮剥けるシーンで幕を閉じます。大人の仲間入りをすることでバクチ場の雰囲気に飲まれないようになったというオチはありがちですが、無理はありません。

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ビーンと言われましても…

1985〜90にかけて麻雀マンガは興隆期を迎えるのですが、この作品に見られるような定型表現の成熟がそれを支えた、と現時点では考えています。


自分の考えがまとまってないうちに書くと失敗しますね…

とりあえず四方田さんの『雀剣示現流』レビューを見るといいんじゃないでしょうか。

*1:『咲』の登場人物、国広一と龍門渕透華(ともに女性)をカップルと見なして作られた同人誌のこと

*2:龍門渕透華の愛称

*3:カバー見返し

2011-01-09

ステモモ雀鬼狂騒曲(鶴賀ドちょんぼ荘)

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鳴島生『この腕売ります』(1973?)から(広告文は少し変えてあります)


麻雀マンガ研究者・V林田さんから大量のモモ同人誌を貰ったので鋭意消化中です。すべて全年齢向けというのが日本の明るい未来を感じさせます。あと年末にも某カリスマ麻雀ブロガー・いのけんさんから貰ったのですが、1冊とて被ってないのが素晴らしくも恐ろしいことです。

偉い人と友達であるくらいしかアピールポイントのない私ですが、ステルスモモと誕生日が同じです。運命です。

それではステルスにつき粗略にて失礼。Tumblrの方は適当に更新しておりますので、ぜひ。

2011-01-06 おやすみなさい、ゴミ手ちゃん

断絶を知りてしまいしわたくしにもはやしゅったつは告げられている 岸上大作

年明けに岸上大作の著作がパブリック・ドメインになったという話題が流れていて、つまり没後50年が経過したということです。装甲車を足裏に踏むことすらほぼ不可能に近い中で、どうでもよかった青春を思い返す大人は昨日、仕事始めでした。

岸上で唯一面白いな、と思うのが上の歌です。ひらがなの「しゅったつ」が張り詰めていてカッコいい。

先日書いた賭け麻雀の件とか、去年の都条例の件とか、連帯について思うことが多くなりました。各個撃破されるのが嫌ならスクラム組む方がいいんでしょうけど、しんどいですよね。思うは一人の仕事で、考えるは皆の仕事ですから、思ってばかりだと何にもならないのは分かるんですけど。

1994年、コマ寮中寮2F麻雀部屋のヘビーローテーション・アルバムは、『ATOMIC HEART』『ORANGE SUNSHINE』を経て、オザケンの『LIFE』に移っていました。夜の9時くらいから打ち始めて、朝の6時くらいまでずっと繰り返し聴いていると嫌でも覚えます。音痴のタツオがひょろ長い声で「うぇでぃうぃごー、うぇでぃうぃごー、へいなーーう」と絞り出す時、誰もそれが「Where do we go,Where do we go,Hey now」だとは分かりませんでした。でもその問いは、確かにその時私に突きつけられていたのです。「さて、私たちはどこに行く?」


ということで今回は、オシッコちびるくらい青春している作品を紹介します。

[][]青春牌の譜跡 1巻 (1985)

画・北野英明+作・四方城五郎 マンサンコミックス

  • 「別冊漫サン 傑作麻雀劇画」昭和59年5月号〜60年2月号掲載(1巻収録分)
  • 全2巻(2巻は未読)

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作画の北野は言わずと知れた昭和麻雀マンガの大家。四方城五郎は麻雀マンガ雑誌の嚆矢『ギャンブルパンチ』(竹書房・1976〜81)の編集者・原作者、須賀五郎の別名。今は確か、名木宏之さんというお名前で麻雀博物館の文芸委員をされているはずです。

四方城五郎の原作は、麻雀プロを題材にしたものが多いのが特徴です。代表作は「ヒッカケハイスピードロックンロール」でお馴染み、『ロックの雀風(かぜ)』でいきましょう。


「せいしゅんぱいのふせき」と読むのでしょうか、なかなか秀逸なタイトルです。「青春牌」なる謎の単語と、こちらも聞きなれない「譜跡」という言葉の組み合わせ。色々考えても意味が分からないのですが、何となく「牌」が人で、道を歩んでいったり(歩跡)、将来を見据えて布石を打ったりするのかな、というイメージが湧きます。似たようなタイトルに『青春牌団』(桑沢篤夫+塚本JOY)というのがありますが、こちらは漢字4文字のせいか、「青春」と「牌団」の間に切れ目が意識されます。


|あらすじ

オールラスのトップでも、牌勢をテッペンまで追求した手役でアガるのがプロの雀士なのか? 競技麻雀に青春と麻雀人生を見いだそうと必死にもがく亀田洋介の若き瞳に映った雀卓の激闘は、果たしてなんなのだろうか!!

カバーの裏はこんな文章。前半部分は疑問符がつきますが、大筋は合ってます。


熱血硬派競技麻雀マンガ。

競技麻雀を目指す若者の話は沢山あって、片山まさゆきの諸作品や、最近完全版で復刊された『メジャー』(伊賀和洋+南波捲)が記憶に新しく、古いところでは『勝負星』(北野英明+梶川良)、『プロ雀士修行』(松山三津夫)、『東大プロ雀士』(鳴島生+井出洋介)などが比較的入手しやすい作品です。

また大阪(関西)は麻雀が日本に伝わった頃から競技麻雀の伝統がある土地柄で、例えば「大阪・中之島中央公会堂は、昭和3年に日本で初めて麻雀大会が開かれた場所」だそうです。上に挙げた中では『勝負星』の主人公も関西出身です。

つまり「競技麻雀+関西」という組み合わせは意外とメジャーで、その分新鮮味が薄いと言えます。この作品も失礼ながら最初は「作画は北野英明だし*1、多分あんまり盛り上がらないんだろうな…」と思いながら読み進めていました。しかし豈図らんや、こんなにキャラクターが立った物語だったとは、と後で舌を巻くことになったのです。


最初に足を止めるきっかけになったのは、主人公のハプニングです。主人公は「俺は親の人形にはならない!!麻雀で自分の能力を試したい!!」高校生、亀田洋介。奨励会の先輩(社会人)の「金が絡まないと真剣に打てない」という発言に食ってかかるほどの青臭さ。

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オジサン読者としては共感しづらく、どちらかというと後で登場するライバルの方がカッコいい感じなのですが、その彼がやってくれました。

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分かりづらいですが、優勝すればアマチュア競技会の全国大会に出場できる予選会の決勝で、四暗刻をアガって小便を漏らす姿です。上に書いた「オシッコちびるくらい」は比喩ではないのです。これは衝撃的です。『咲-Saki-』はただ漏れそうにしているか、タコスが口でジョージョー言ってるだけですが、こちらは実際に主人公が勢いよくジョーと漏らしてます。しかも恐怖ではなくて興奮のあまり。こんなシーン見たことありません。

そして付いたあだ名が「ションベン小僧」。主人公のあだ名がションベン小僧…一気に次の展開が待ち遠しくなりました。

また彼を支えたり叱ったりする大人たちも熱いです。複雑なキャラクターではありませんが、脇役として十分な存在感を示します。


次に作品に引き込まれるようになったのは、主人公の最大のライバルとなるであろう流哲男の性格づけです。流は鉄火場出身で、師匠に言われて仕方なくアマチュア競技会に参加する人物として登場します。段位審査試験でも、ペーパーテストとマナーはからきしですが、麻雀の得点は最高です。

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これだけなら麻雀マンガにはゴマンといるのですが、流が珍しいのは、「実は競技・博打に捉われず麻雀に情熱を傾けていて、主人公に共感する」点です。大体この手のライバルはイカサマ、脅迫といった卑劣な手段も厭わず、ダーティだけど強い、というのが定番なのですが、彼は素行は悪いが根っこは真面目です。競技麻雀のヌルい雰囲気が許せないからマナー悪く振舞うだけで、真剣に打ち込む主人公とは意気投合します。また彼は競技会から追放されるのですが、それは仲間の私怨からくるチクリによるもので、彼はあくまでも自分の信念を貫いたまま辞めていきます。

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彼はその後、北海道の野澤白龍*2の道場へ遣られ、そこで麻雀修行することになります。

こういう複雑なキャラクターが1人いると、話がぐっと面白くなるようです。似たようなタイプに『ザ・ライブ』(神田たけ志)の三雲がいます。


こうして物語にズズイと引きこまれていくわけですが、この作品、麻雀の部分にも結構細かいこだわりがあります。下の画像のようなテストが作品中に出るのです。その辺りはまた次回に。

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(この項続く)

*1:北野は超売れっ子で作品を量産しているので、傑作が少ない。あと現代からみると絵が地味。

*2:北海道には仲澤青龍というプロがいるので、名前を借りたものか?