まんだらけトラッシュ NO.03

古書店まんだらけ」の発行するミニコミ誌。定価600円(税込)。「芳文社特集」ということで買ってみた。画像はまんだらけトラッシュ紹介ページから拝借。
芳文社の旧ロゴの単行本536冊の表紙を総覧して、簡単な評を加えてあるのだが、とにかく「こりゃすげーや」と驚く情報量。麻雀マンガ作品全58点はもちろん、それ以外のジャンルの作品の数々に完全に魅了されてしまう。麻雀マンガを求めて、アクション・マンサン・ゴラク・日本文華・リイド・桃園・グリーンアローなどのマイナーコミックの棚に目を凝らしたことがある人なら、絶対に買っておくべき1冊である。




拙稿「麻雀マンガ30年史(前編)」では、芳文社は雑誌「特選麻雀」を中心に、80年から1984年にかけて麻雀マンガ作品を刊行していた、と記述している。しかし解説を読むに、どうやら幾つもの誤りがあるようだ。
その1つ目は、「特選麻雀」以前にも、複数の雑誌に掲載されていた麻雀マンガ作品が単行本化されていること。「コミックMagazine」「漫画ルック」「別冊週刊漫画」「漫画パンチ」「漫画パンチ増刊」「漫画コミック」などの雑誌があったらしい。なんて検索泣かせなタイトルたち…
雑誌についての記述から、麻雀に関わる部分だけを拾ってみる。

コミックmagazine
(中略) 1979年半ばに連載+中篇読切3本立てに方向転換。エロは前田俊夫、宮尾たけ士、麻雀はみやぞえ郁也、山口勝義など中心に良作に恵まれるが1980年10月2日号で「鉄火の巻平」が終了すると、看板作品がなくなり「濃密な色気とハードな行動雑誌!」を掲げた麻雀とエロの読切雑誌となる。(後略)


pp.2

漫画コミック
(中略)芳文社の劇画誌の中でも20代をターゲットとした比較的若年層向けの実験的構成だったが、4月*1には軌道修正し同年8月には麻雀&官能特集号が組まれる。このあたりから読切作品の比重が高くなる。
1981.6/3号からは4コマ漫画が1/3近くを占めるようになってくると麻雀漫画が減少し、(後略)


pp.3

2つ目は、出版年が、1978年から1986年の間に広がっていること。後期は『雀鬼が行く』(司敬)など、「特選麻雀」の連載作品が多く、前期はコミックmagazineのそれが多いようだ。



あとは、面白かった所を適当に引用。

北山茂樹「地獄の雀狼」漫画パンチ増刊11/14号212ページ書下ろし。
漫画パンチ増刊の巻末2色カラーページに掲載されていた『賞金3万円麻雀クイズ劇』は画北山先生の作品。実はアレが一番面白い。


pp.14

欄外マンガが一番面白い!!まあ、北山先生のマンガはアレだからなぁ…(苦笑)。桃園書房久保書店、そして芳文社。1976年ごろから、貸本テイスト溢れる遍歴をたどった北山先生については、ぜひ一度特集を組みたいと思っている。特に、北山先生の画力で無謀にもギャグに挑戦した問題作『麻雀三銃士』(下画像参照)あたりを中心に。

『地獄麻雀』
劇画・田丸ようすけ
原作・板坂康弘・灘麻太郎

漫画パンチ連載。人工授精児=愛の伴わない出産!人口授精児で生を受けた俺自身がイカサマだ!!イカサマ人間として生まれた以上、この世の人間の絆を破壊しつくしてやる!


pp.26

よ、読みたい…!!原作の1人、板坂先生は雑誌「近代麻雀」の初代編集長だが、原作では色々と映画にインスパイアされていて面白い。この作品の時代(1978)だと、多分「オーメン」あたりを念頭に置いているのではないかと推測される。別の所でも、

雀鬼』全2巻
劇画・和田順一 原作・板坂康弘

漫画ルック1977.9/21より連載。原題「さすらい雀鬼」。(中略)前田俊夫先生の「タクシードライバー2」的展開から雀鬼とジャンキーをかけてある事に気付いた方が何人いるのか?


pp.51

と評されている。前田俊夫タクシードライバーってのが良く分からないが、多分デ・ニーロの映画と関係あるのだろう。さすがシナリオ研究所出身だけはある。個人的には、麻雀版アメリカン・ニューシネマ『麻雀阿修羅伝』(画・村岡栄一)がオススメ。
麻雀阿修羅伝



最後に、麻雀コミック・間違えやすいタイトルベスト3を披露して終わりたい。
◆3位:『麻雀三四郎』(くずはら和彦)と『雀鬼三四郎』(みやぞえ郁也)
どちらも名作であり、芳文社コミックスの前期と後期をそれぞれ代表する作品。特に『麻雀三四郎』の闘牌は当時としても群を抜いている。『雀鬼』の方は、明るいお色気路線が楽しめる一品。主人公の一人称が「小生」、ヒロインのあだ名が「マドンナ」だったりするのが時代を感じさせる。


◆2位:『麻雀刑事』(都佐野史樹)と『牝雀刑事』(前田俊夫)と『刑事雀士』(北山茂樹)と『新宿刑事牌』(沢本英二郎)と『雀狂刑事』(多賀一好)
劇画はとにかく刑事が好きである。権力=暴力の象徴というより、ただ単に拳銃ぶっぱなしたいだけ。個人的には、ただの探偵(というか兄を殺した犯人を突き止めるだけ)なのに堂々と詐称する『刑事雀士』や、麻雀マンガだと分かるように後でくっ付けました的な『新宿刑事牌』の潔さに惹かれる。ちなみに『雀狂刑事』は「ジャングルデカ」と読む。
昔の麻雀マンガタイトルにはよく「雀鬼」「雀狼」「雀狂」が使われていた。取り分け多かったのが「雀鬼」で、今のようにただ1人の人間を指すようになったのは90年代以降のことである。


◆1位:『雀ごろ地獄』(みやぞえ郁也)と『地獄の雀狼』と『地獄麻雀』(田丸ようすけ)と『雀鬼地獄牌』(郷力也)と『雀鬼牌地獄』(北山茂樹)と『麻雀蟻地獄』(中野善雄)と『麻雀地獄変』(宮本ひかる)
7つのうち後4つは芳文社ではない。しかも、この中で本気で「地獄」の名に値するのは後2つだったりする。主に作画クオリティの面で。
ギャンブルにはまって脱け出せない、というのは一時期の大テーマであり、明るいラストを迎えるのは『雀ごろ地獄』くらいであろうか。宮本ひかるはひばり書房でホラーマンガを手がけていたそうだから、そちらからの連想もあるのだろう。

*1:1979年・引用者注