山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

ペドロ・アルモドバル監督『アイム・ソー・イクサイテッド!』──アイム・ソー・エキサイテッド!


『アイム・ソー・エキサイテッド』ペドロ・アルモドバル監督、脚本、アルベルト・イグレシアス音楽

 題名はポインター・シスターズのヒットディスコミュージックである。本作は、オーストラリア映画の、オネエ三人組がかつての、ヒットディスコナンバー、アバの「ダンシング・クィーン」を踊る、『プリシラ』を思い出せる。しかし、アルモドバルは、もっとエグく、もっと軽く、もっと皮肉に、もっと批評的に仕上げている。

 おもな「舞台」は、飛行機の不具合によって着陸できず、上空をさまよっている飛行機のなか。乗客に不安を与えないために、エコノミークラスの客は、睡眠薬入りの飲み物を与えて全員眠らせている。だから、おもな出演者は、ビジネス・クラスの客で、当然数は限られてくる。このへんの設定も心憎い。担当キャビンアテンダントはオネエの三人組。彼らが踊ったり、怪しげな飲み物を配ったりして、「接客」(?)に努める。

 あろうことか、コックピットに入り込む怪しげな霊能力者の女(アラフォー処女)もいる。それぞれが、それぞれの事情でビジネスクラスに乗り込んでいて、彼らのひとりひとりが問題を抱え、その問題が機内で露わになっていく。その間も、家庭を持っているパイロットも、男同士(機長+副機長+三人のキャビンアテンダント)の恋のさや当てに巻き込まれていく。

 これでもかの下ネタの連続。あきれかえる展開。それでも、アルモドバルは全然ブレていなくて、テーマは相変わらず、愛、それも、家族愛である。
 作中、三人のオネエアテンダントが口パクしながら踊る、ポインター・シスターズの「アイム・ソー・エキサイテッド」は圧巻である。今作も、良識も常識も、胸のすくほど突き抜けてくれた。