アイドル全開!/『Seventh Code:セブンスコード』※ネタバレあり

海外での前評判が抜群だった、黒沢清の『Seventh Code:セブンスコード』を観てきました。本作はロシア(ウラジオストク)の暗く陰鬱な空気感と黒沢清の才能が絶妙にマッチした傑作映画だったと思います。

■あらすじ
秋子(前田敦子)は松永(鈴木亮平)という男性を追い掛け、ウラジオストクを訪れる。ようやく極東の街で念願の相手と再会を果たすものの、向こうは彼女のことなどきれいさっぱり忘れていた。ある日、斉藤(山本浩司)が経営する小さな食堂で働きながら松永の行方を探していた秋子のもとに、ようやく情報が入ってくる。(yahoo映画より)

導入部から黒沢清ウラジオストク、それと前田敦子のマッチングは抜群で、1ショット目の唐突な街の映像でいつもの黒沢清っぽい不安を煽るような冷たい画面。そのショットからの長回し。観客がまだストーリーを理解していないうちに、必死にキャリーバッグをガラガラと転がしながら走って車を止めようとする前田敦子を捉えるカメラ。追ってもまったく止まる様子のない車。この辺から「なんだかおかしい」匂いをクンクンさせ、手持ちカメラに切り替えて追う前田敦子を追うカメラ…
1ショット目から不安感をガンガン客に煽ってくるカメラや役者は、まさに黒沢清!海外で撮ってもやる事は変わっていないし、それ以上にウラジオストク黒沢清とのマッチングが凄まじい。

ストーリーは関しては至ってシンプルで「前田敦子鈴木亮平を追う」ってだけだけど、何をやるのも唐突で、どこまでも執着している前田敦子を映す事でミステリー効果を生み出している。
かれこれ彼を追い続ける前田敦子の前に、「少しでも世の中を変える力が欲しいから、お金が欲しい」と言う中国人の女が現れ、与謝野晶子の「旅に立つ」*1を歌いだす。

「いざ、天の日は我がために 金の車をきしらせよ、 颶風の羽は東より いざ、こころよく我を追へ」

この歌は与謝野晶子ウラジオストクからパリへ行く際に残した歌だそうです。

中国女がこの歌を歌う背景としては、彼女が世話になっている料理人の男性が「1億稼ぐぞ!」言う彼を信用して料理屋を手伝うことになりあくせくと働くのですが、結局、彼はお金を集めて店出して生活するのがやっとだし何か手に入れてしまえば満足してしまう。彼女とはそもそもの価値観の相違がある。だから結局彼女は彼のもとを去るし、歌の通りに道を歩んでいく。そして、ラストではこの歌が前田敦子自身に直結してくる。

それと、この映画60分しかないのですが、後半10分は本当にビックリする怒濤の展開です。
この部分は、是非観てほしいのでネタバレにならない程度に書くと、それまでの50分はなんだったんだ!?と思うようなひっくり返しで全てが黒沢清の手の内で転がされていたな!と思うくらいのエキサイティングなシーンの連続なのです。また、エンディング付近では前田敦子の曲がかかるのですが、これが爽快!『リアル〜完全なる首長竜の日』のミスチルに賛同出来なかった人でもこれは凄いと思うんじゃないだろうか。
そして、ラストのロングショットからの長回しからの○○の爆発、そして火と煙…圧巻の映画的シーンにしびれながらのエンドロール。
エンドロール冒頭で「プロデューサー:秋元康」ってのが一番最初に出てくるのが一番ビックリしたかもしれないですが(笑)

前田敦子というと、昨年公開された『モラトリアムたまこ』を思い浮かべますが、あちらとは全然違う演技をしていて、本作はアイドル全開。走る、しゃべる、叫ぶ、歌う、食べる、○○(ネタバレ自主規制)、…と大胆かつ躍動感のある演技をしていて観客をスクリーンに惹き付けることに全力全開!
僕はAKBのことあんまり知りませんが、少なからずパワーがあったのでここまで人を惹き付けることが出来ていたのではないかなーと思うのです。

ちょっと、観た後から興奮し過ぎてこの映画について話そうとしても中々口が回らない日が二日ほど続き、エントリーもこんな駄文で魅力を伝えられていないのが残念ですが、こりゃ傑作!!なので1週間の上映期間内*2で無理しても観に行きましょう。今年度のベスト候補でした!

■余談
唐突で何考えているかわからない前田敦子の演技っぷりは、『ライク・サムワン・イン・ラブ』の加瀬亮を思い浮かべました。全然違うだろうけど、なんとなくラストショットの火がボワッは『サクリファイス』観ているような気分になった。

*1:ウラジオストクに歌碑があるらしいです

*2:3月に前田敦子のシングルのおまけにこの映画がつくらしいです。