職人気質な傑作映画『たまこラブストーリー』※ネタバレあり

たまこラブストーリーは、昨年TVで放送されていた『たまこまーけっと』の劇場版。監督は『けいおん!』の山田尚子で、作風としては『けいおん!』と同じく日常系アニメと言っていい。また、劇場版と言っても、本編の知識無しに楽しめる作品に仕上がっている。

簡単にあらすじを書くと、主人公”たまこ”のことを想う幼馴染みの”もち蔵”が、東京の大学にいくことになり、たまこへ想いを告げるシンプルなお話。ある人がある人へ想いを伝える「投げる」ことと相手が「受ける(キャッチ)」二つの動きを巧みな演出で引き込ませるのがとてもうまかった。

たまこと、もち蔵は互いに別の餅屋の娘と息子の関係であり同級生でもある。彼女らは向かい合ったお店の上に住み、何かあったときは、窓から糸電話を投げて会話する。ただし、たまこは、糸電話をキャッチすることが得意ではなく、成功するのは100回に1回くらいということが語られる。また、彼女はバトン部に所属しており、バトンを上方へ投げてキャッチする動作があるが、ここでもたまこはなかなかキャッチができない。

彼女へ「投げる」という行為は、何度もこの映画のなかで繰り返されるが、彼女はなかなかそれが出来ない子である。そして、”もち蔵”が彼女へ想いを告げたときも、彼女は上手くキャッチすることが出来ずに彼への返事を保留にしてしまう。

そして、もう一つの演出として、「境界線」が多く使われていたと思う。もち蔵がたまこへの想いを告げる時も、飛び石を渡りきっていない。それと、カーテンの存在。彼女の部屋は妹とカーテンで区切られているが、妹はそれを容易に超えてくる。しかし、もち蔵との距離は道を挟んだ対岸側なのに、道よりもカーテンという存在が二人のコミュニケーションを不可とする。どちらか一方が覗いても相手は覗かない、お互いの”気まずい”空気を表現しているように思える。それと、二人はよく近所の銭湯を使う。ここでも、カーテンではないが、近くに二人を壁が遮っている。このように、二人の距離は近いのになかなか超えられない対象物の存在が物語を盛り上げている。

それと、二人の関係性を強調するように第三者の存在がある。彼女の幼馴染み”みどり”は、もち蔵のことが好き(と思われる)のだが、彼女は複雑な心境の中、たまこのことも好きなので二人を一歩引いた距離で見ている事ができる。彼女が存在することで、二人の関係が進展する機能を果たしている。とくに、もち蔵がたまこを見ているときに、みどりがたまこを見るもち蔵を見ているという演出シーンなんかは青春映画の機能として上手く演出されているなと感じました。

そして、ラストシーン。正直、生でアレを見たら恥ずかしくってこちらまでドキドキしちゃう演出であったが、飛び石を渡りきらなかった効果がハッキリ出ていて、ラストではたまこが境界線を振り切って新幹線ホームで告白する。しかも、糸電話を使うのだが、たまこは誤って両方の糸電話を投げてしまう。そして、またもち蔵からたまこへ投げる。「投げる」「受ける」の二つをもう一度演出し、「答える」という最高の名シーンとなっていた。それと同時に暗転で幕を引いていく終わり方もとても素晴らしい。

多分、画的なものも、さほど、萌えアニメ的ではないですし、万人に通じるアニメ作品として通用するのでは?と感じました。それと、80分くらいしかないけど、「投げる」「受ける」だけの最低限の行為だけで、ここまでの映画にさせるのはものすごい手腕だと思います。派手な映画は山ほどありますけど、たまには徹底した職人気質な演出とシンプルなストーリーに酔いしれるのもいかがでしょうか。傑作でした。

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