出崎統『ルパン三世 ヘミングウェイ・ペーパーの謎』(1990/TV)・演出メモ

先日『劇場版エースをねらえ!』が再発されてご機嫌がいいここ最近ですが、勢いあまって出崎ルパンまで再見しまくっててさらにご機嫌がいいので小ネタというかメモ書き。1990年のテレビスペシャル枠のルパン三世 ヘミングウェイ・ペーパーの謎』(監督・絵コンテ:出崎統(さきまくら)/作画監督:古瀬登,平山智,永岡康史/キャラデザ:古瀬登,青木悠三/美術:平田秀一)についてです。

出崎ルパンとしては『バイバイ・リバティー・危機一発!』から2作目となりますが、『ヘミングウェイ』が出崎ルパン・ベスト作品だと思う。後の『ロイアより愛をこめて』冒頭から出崎演出で怒涛に攻めて素晴らしいですが、物語、作画、演出含めすべて含めかっこいいのが『へイングウェイ・ペーパーの謎』。物語はヘミングウェイが残したという財宝を探しに行くといったものですが、少し珍しいのが次元と五ェ門が終盤になるまでルパンと一緒に行動をしないといったところ。というのも次元は復讐相手との一騎打ち、五ェ門は斬鉄剣で切れないものを求める、といった別々の目的があるから。不二子も銭形も出てきますが、それもまた別々の行動を辿る。

そんな混沌とした設定のなか、90分といったテレビスペシャル内キャラクター個々の魅力もしっかりと伝えているのがこの作品のすごさ。出崎演出をフルボリュームで載せまくってめちゃくちゃ情報が多くても、語りが速いのでカロリー過多にならない。逆に見逃せないと集中力が増していく。ハーモニー、三連PAN、入射光はもちろんのことスプリットスクリーンで切り返しショット*1 、オフスクリーンの演出(特に画面の「黒」の部分がすごく印象的なので演出が映える)を使ったりありとあらゆる技術で、ときに「圧縮」して、ときに「濃密」な時間を描く。

「圧縮」して「濃密」、言葉を変えるのであれば「濃縮」されまくっていて高カロリーなんだけど、語りが速くて簡潔だから胃がもたれることがない。例えばこの冒頭の数シーン(↓)。俯瞰で海の見えるシーンから(背景がまたいい)握手しようとするけど、2カット目でスプリットスクリーン、そしてそのまま不二子へつなげて構図を変えちゃう。スクショしてみると次のカットに片方の画面がつながっているように見えるしズレも意識しているかも。





この数シーンを見ただけで思わずグググっと来てしまうんですが、これは単にファンだからなのだろうか…。『AIR』では数日間を「濃密」に、『CLANNAD』では数年間を「圧縮」していたと思うんだけど、どちらにせよ「濃縮」されているんだなと思うわけですね。昔まっつねさんがブログで「人生の一部分だけど全部じゃないそこがいい人生をギュッと凝縮したのが出崎統作品」(2008-11-10)って書いているんだけど、ああその表現だな〜ってホント思う。「濃縮」とは言い方は違うけどそんな感じ。(『華星夜曲』もまさに人生の作品だし)んでこの作品には馬もガッツリ出てくるし作画カロリー的にも結構大変だったのでは。また西部劇というかマカロニウエスタンというかの舞台設定もいいし背景も渋くてすごく素敵。といった感じで簡単に。

アニメーション監督 出崎統の世界 ---「人間」を描き続けた映像の魔術師

アニメーション監督 出崎統の世界 ---「人間」を描き続けた映像の魔術師

*1:オーバーラップで二つの絵を重ねてスプリットスクリーンにしているシーンもある。