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2016-11-14

片渕須直『この世界の片隅に』感想――記憶を記録として残すこと

今年はアニメ映画がたいへん賑わっている。新海誠監督『君の名は。』が興収200億円が見えてきてポスト宮崎と呼ばれたり、『聲の形』も大ヒットしている。ツイッターなどを見ていてもアニメファンのみならず、広い層に受け入れられていると感じる。そして、クラウドファウンティングで資金を作り、何かと公開前から話題となっていたこの世界の片隅にが満を持して公開。原作は2007年〜2009年に『漫画アクション』で連載されていた。恐らく原作を知っている人からすれば待ちに待ったといった感じだったんじゃないだろうか。

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さて映画は?というと、戦争映画だからといって濃厚な戦闘シーンがあるかというと殆どなかった。戦時中の主人公・浦野すず(cv.のん)の日常生活を描くことに重きを置いている。のんびりとした日常生活とその生活を脅かすような戦時体験が日常を破壊していく様が描かれている。けして派手さはないが彼女の表情を見ていると脅かされる日常というものがしかとわかるように設計されている。本作は時に省略されテンポがいいのに、ゆったりとした余韻を残すような感覚がある。それほどに「時間」を意識した演出がされているといったことだろう。戦争アニメといえば高畑勲の『火垂るの墓』(1988)が有名だろうか。あの作品がトラウマになるくらい残酷に戦争というものを描いていたとすると、本作は戦時中でなくても「どんな時代でさえ、日常が脅かされるのではないか」と訴えかけてくるようである。前線から一歩引き戦争にNOを突きつける作品だったのではないかと。

主人公・すずは子供のころから妹に創作(物語)を聞かせたり、絵を描くことが大好きだった。彼女はイマジネーションに溢れており、実際に爆弾空から降ってきても「ここにペンがあったら……」とそんな光景に創作欲をかきたてられるような人間なのだ*1。彼女は常にそのようなことを考えているんだろうか、ぼーっとしているように見える。風景を描いていると彼女があまりに何を考えているかわからない様子だったのだろうか、憲兵たちに何か情報を横流しにしているんではないかと勘繰られたりする。彼女は他人から何を考えているかわからないような少し夢心地なところがある。ただそれを大胆に演出してみせたりしない。日常描写でそれとなくわかるようにしている。そういった意味でとても抑制が効いているので、『風立ちぬ』(2013)のように夢にズブズブと浸かりきらない。

爆弾が落ちてくる描写は途中スケッチ風になり、彼女の妄想が入り混じるような瞬間がある。悲痛な現実とアニメという虚構がせめぎ合うシーンだろう。そういった虚構も巧く使用されるが、本作では映画内での「記録」が重要視される。空襲警報が(○月○日〜)毎日鳴りそれが映像的にも反復されるシーンがある。すずの行動で日常が存在していることがわかるように、戦時中の様子も日常の一部として表象される。こういった戦時体験が彼女の記憶として強く残っていることは後にわかるのだが、彼女の声で記録*2が記憶として再生されるシーンがある。記憶と記録が確かに存在していたことを示しているようで、素晴らしい演出だと感じた。

日常シーンをキャラクターの動作で細かに描き演出する作画への力の入れ方。ロングショットで町並みや戦艦を描いたりと贅沢な時間を味わえる。それだけ日常描写にすぐれているので、そういった意味では戦争アニメというよりも、“日常アニメ”といったほうがしっくりくるかもしれない。どれだけ派手なシーンを描かなくても、確かにこういった生活が存在していた。そういった記憶を記録として残した作品だったのだと思う。

淡々と書いてみたものの自分はノレなかったのが正直なところ。なぜノレなかったんだろうな……と観終わってからずっと考えていたのだけど、まず物語にあまり惹かれなかったことか?もちろんショットが強烈な作品に惹かれることが多いけど、物語に心底打ちのめされることはあるし、ノレなかった原因として「物語」というのも少し違うようでもある。この感覚は2013年に『かぐや姫の物語』と出会ったときと感覚が似ているかもしれない。作品として物凄いポテンシャルをもっていると思ってもノレなかった。「個人の好み」といってしまうと、全てがおしまいな気がしてあまり言いたくないのだけど、便利な言葉なので使ってしまいたくなる。

冒頭はテンポよく気持ちよく、時にエロスがあり刺激があった……と面白く見ていた。そして、笑いがありオチがあり喜劇だなと。ただなんだろうか、省略は効いているけど圧縮が足りなかったのだろうか。そもそも、圧縮を意図している作品ではない*3のでそんなこというのはナンセンスなんだけど、だんだんタルく感じてしまい、女の子と手が吹っ飛ばされる瞬間の描写や爆弾が落ちてくるシーンは素晴らしいと感じても、何か物足りなかった。多分、自分の求めるものが違った表現(省略・圧縮)であり、感動するポイントがかけ離れているんだ、と。

長々とどうでもいい雑感を書きましたが、上映館が少なくて、僕がいった回もとても混んでいましたし、『君の名は。』のようなロングランもあまり期待できないような気がするので気になった人は早く見に行った方がいいと思いました。

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*1:キャラクター性というより記憶を記録するといった本作の主題的なものからしての意味合いだと思うが

*2空襲警報の記録

*3:圧縮とは対極の省略でゆったりとした時間を味合わせるのが本作の演出意図じゃないだろうか