廣瀬浩司:授業資料格納所

授業用レジュメの残り物

先端文学演習1

1)問い:2004年に死亡したジャック・デリダの思想は、その文章の難解さも手伝って、急激に読まれなくなった。テロリズム、移民の問題、「来たるべき民主主義」など、きわめて現代的な問題を扱っているにもかかわらず、その思想はごく一部の研究者には読まれ続けているものの、──たとえばドゥルーズフーコーに比べ──読まれているとは言えない。
本演習では、デリダの思想を概括した上で、『デリダ脱構築を語る』という比較的容易なテクストを輪読することで、現代においてデリダを読み直すことの意義を探りたい。

2)デリダの思想(1)『フランス哲学思想事典』に基づいて。

I.
・経歴の「アイデンティティ トラブル」。「自伝」の不可能性。「私」と語ることの困難。「私はひとつの言語しかもっていない、それは私のものではない。」(「たった一つの、私のものではない言葉」)。
現象学者としてのデリダ
フッサール幾何学の起源」注釈、『声と現象』

II. 思想と著作活動
(1)形而上学への問い
形而上学の「脱構築」(deconstruction)とは。ロゴス中心主義、音声中心主義、現前の特権性。完全な現前性としての神(目的論)の批判。男根中心主義

(2)脱構築とは
二項対立の劣位におかれたものが、優位におかれたものの「可能性の条件」と考え、その働きが「優位におかれたもの」を内側から蝕んでいると考える。
「痕跡」の概念。口頭言語の現前性の特権。文字言語(エクリチュール)という技術によって、真理が危険にさらされる、というのがプラトンの考え。デリダはこの関係を逆転させるのではなく、むしろ両者の共通の根拠としての「痕跡」について語る。
1)けっして現在でなかった過去が、現在という「瞬間」を蝕み、構成しさえしている。
2)痕跡はみずからを変容させながら「反復」される。「反復しながら変容する」
3)みずからの働きを消し去りながら、その消し去る運動の痕跡を残す。
4)「間隔化」:空間と時間の共通の根拠である、空間化、時間化の働き。それが自己現前を蝕む。
5)生とは痕跡である。「私は死んでいる」から出発して「私は存在する」を理解すべき。「生は死である」

応答可能性=責任。主体がつねにすでに自己に先立つ他者への応答可能性のうちにおかれている=責任。

(4)アポリアとしての正義。
「法の力」:特異な他者たちの呼びかけに普遍的に答えること。決定不可能なものの決定。
贈与は贈与として現前してしまったら贈与たり得ない。
許し得ぬものを赦すこと。
メシアニズムなきメシアニズム。
来たるべき民主主義。
絶対的歓待と条件付き歓待。

3)結論の見通し:デリダの思想は、レヴィナスの影響もあり、現在の私の「生」が、本質的に「他者」や「死」との関係であることが強調されることが多かった。しかしこのような「他者」や「死」を孕みつつ、私たちは「生きている」。この「新たな生のスタイル」を発明することこそが私たちの課題なのではないだろうか。

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テクスト:
デリダ脱構築を語る』からまずは抜粋でいくつかのテクストを配る。そのなかから自分のやりたいテクストを選択して、発表してもらう。発表では
1)全体の題名
2)「問題」の概要の説明
3)興味深い点、不可解な点、不審な点の指摘
4)まとめないしは展開の可能性

というかたちにしてください。

評価:出席を前提として、
1)発表の内容、問題提起など
2)議論への参加
3)期末に簡単に自分の発表、ないしは全体を振り返って、簡単なレポートを書いてもらう(A4 1−2枚)。
なんらかの理由で発表できなかった人は、別の課題でもう少し長いレポートを書いてもらう。

補足:
・レジュメは適宜 http://d.hatena.ne.jp/parergon/にアップします。

・オフィスアワーは、月の昼休みおよび六限、火の昼休みおよび六限。