2009-09-22 クリアストリーム事件:フランス現大統領と元首相の対決
2006年に発覚し、フランス政財界の重要人物の数々が予審判事の事情聴取を受けたフランス版ウォーターゲート事件、 クリアストリーム事件の裁判が21日に始まった。(日本語でのあらましは以下を参照)(以下全部、敬称略)
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2644073/4633066
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2282655/2140094
フランスの空を飛ぶコルボー(カラス)
フランスの警察や裁判所、税務署は毎年、他人の違法行為を告発する匿名の手紙をたくさん受け取る。こうした手紙の差出人はコルボー(カラス)と呼ばれ、違法行為の摘発に大きな役割を果たしているらしい。
この事件の発端となったコルボーは、外交、防衛産業界の重要大物、エアバスの親会社でもあるEADS社の副社長ジェルゴランだった(2006年5月にコルボーだったことを告白)。コルボーからの資料(後に偽造文書であることが発覚)で汚職、違法行為を示唆されたのは現サルコジ大統領(当時の内相)。偽造文書と知りながら、自分を追い落とすために偽情報を政治的に利用した、とサルコジから民事訴訟を起こされたのは、ドビルパン元首相というから、超大物ぞろいの大事件だ。ドビルパン元首相は、サルコジの当時の政敵、シラク大統領の後継者と見なされていた。疑惑の発覚当時、シラク大統領(当時)がどの程度かかわっていたか、に国民の関心が集まっていたが、この点は結局、今でもあいまいなまま。事件に関連して、日本の隠し口座の存在まで明るみに出たシラク氏だが、今のところ、事件の追求は彼にまで及ばない様子である。
スパイ小説より面白い奇々怪々
この事件は、もっと深いところで、ロシアマフィアやもっと巨大な政財界スキャンダルと関わっており、単なる政敵追い落とし事件に矮小化されてしまうとすれば、残念なことだ。洋の東西を問わず、政財界の奥深くに溜まっている腐敗の膿はなかなか外にでないようだ。
話は2003年3月に遡る。航空機・出版を中心とする仏最大のコングロマリット、ラガルデール社のトップ、ジャン・リュック・ラガルデールが変死した。ラガルデールとともに2000年、ドイツ、スペイン、フランスの防衛産業を合併させ、巨大企業EADSを設立したジェルゴランは、ラガルデールが変死した状況や死亡前後のラガルデール社株の不審な動きから、ロシアマフィアの関与を強く疑い、フランスの経済・技術公安長官に調査を依頼した。調査を開始した長官も何週間後かに、常に誰かに見張られていることを認識し、仏秘密警察に通報。秘密警察は、公安長官に張り付いていた男の一人がフランスの民間警備会社社員で、ロシアマフィアと関係がある人物であることを突き止めたが、「追跡者」の調査はどういうわけか、ここでストップしてしまった。
秘密警察はこのとき、ラガルデール株が複雑な経路で、ロシアマフィアやかつて東欧の秘密警察のフィクサーだったスウェーデンの兵器商人に大量に買われ、何人かの仏政治家の手にも流れていることを発見したと見られている。ロシアマフィアが欧州軍事産業を破壊あるいは乗っ取ろうとしている、と危機感を高めたジェルゴランは 2003年、知り得た情報を知り合いの秘密警察関係者ロンド将軍(70-80年代の国際テロリスト、カルロスを捕らえたことで知られる)に伝達し、さらに調査するよう依頼した。
2004年初め、ジェルゴランは更に情報を得るため、部下でITセキュリティ部長のレバノン人ラウドに、ルクセンブルグの銀行クリアストリームのコンピュータシステムに侵入して、口座保持者リストを盗むよう命じた。この銀行は、賄賂授受やマネーロンダリングにしばしば使われることで知られている。ラウドはハッキングによって得たとして、同銀行の口座情報をジェルゴランに渡し、ジェルゴランは友人のドビルパン(当時の外相)に、これらの情報を伝えたという。
後の事情聴取で、この口座リストはラウドがハッキングしたものでなく、会計監査情報をダウンロードし、そこにサルコジなど需要人物の名前を加えて偽造したものと判明した。ラウドはそこまでのIT天才ではなかったようだ。誰がサルコジの名前を加えるよう命じたのか、が裁判であきらかになるかどうかはわからない。
台湾汚職にも関連
2004年3月、ラウドが金融詐欺で逮捕され、警察は、ラウド、ロンド将軍との関係を明らかにするジェルゴランの手紙を発見。ちょうどいい具合にラウドが逮捕されたのは、すべてお見通しだったサルコジ内相の差し金ではないか、という憶測もある。
2004年中頃、防衛関係取引に関する汚職調査の担当判事が、コルボーから匿名の手紙や情報を受け取った。口座リストには、ファビウスやサルコジ内相(当時)の名前があった。調査の結果、リストは偽物と判断され、2007年の大統領選で対抗馬となる可能性が強かったドビルパン首相(当時)がサルコジ追い落としのために、偽情報と知りながらそれをリークしたとして、サルコジは2006年、元首相に対する民事訴訟を起こした。偽造リストはサルコジを狙って作られたものではないと思われるのに、自分を被害者にするために、サルコジはそれを最大限に利用した、と元首相は、サルコジを非難している。
きのうのリベラシオン紙の記事(ルノー・ルカードル記者)によると、サルコジは2004年の最初から、自分に対するこの「工作」を完全に把握していたという。2006年3月まで民事訴訟を待っていたのは、大統領選を見据えた効果的な演出だったのかもしれない。
ジェルゴランがコルボーとなったきっかけは、もうひとつある。1990年代初め、フランスが台湾にフリゲート艦6隻を売却した際の巨大汚職事件を探りたい、と思ったことだという。仏政治経済史上、最大のスキャンダルとされるこの事件では、キックバックを突き止めた台湾軍人、その従兄、軍関係者、フランス人のスパイなどが何人も不審死を遂げている。パリの自宅下で墜落死したフランス人スパイは、台湾にいるとき、この取引に関わっていたとみられ、死ぬ前に「自分はすべて知っている。たいへんな額がフランスに還流した」と友人に打ち明けていた。日本でもよくある話だが、仏警察は、新居のアパルトマンからの飛び降り自殺として、事件を簡単に処理してしまった。妻子の到着を待っていた息子が、入居初日に自殺するはずがない、と、父親は今でも息子は殺されたと思っている。
日本で急死した仏人関係者もいる。
しかしフランス政府は、この件に関して未だに口封じをしているようである。台湾が支払った異常なほどの高額支払いのかなりの部分が、仏、台湾の当事者個人のポケットに入ったとされているから、蓋をあけたら臭いどころの話ではない。
さてさて、被害者は知らぬふりして仕掛けられたワナにかかったのか、ほんとうの被害者は誰なのか。この裁判であらためて明らかになることはあまりなさそうだが、その奥に潜む膿の大きさを知れば知るほど、目が離せない・・。










