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ここは小説家・寒竹泉美の活動の報告用ページです。
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  • 2010-05-30 個展の詳細 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

    個展の詳細。

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    物語は二列に分かれて同時進行する。歩きながら読んでいく大きさで、時系列は同じだが、視点が違う。最初は、喫茶店に入ってきた女と、喫茶店にいた男のそれぞれの視点で物語が進んで行くことになる。

    【女の視点】(上の段)

    「喫茶パピヨン」と書かれた看板を前にして、女は立ち尽くしていた。手書きのメニューや張り紙が貼ってあって、やる気はあるようだが、センスがない。中を覗いてみる。休日の昼下がりで、他の珈琲屋は軒並み満席か行列待ちだったのに、がらがらに空いていた。普段なら絶対入らない店だ。だが、女は、どうしても今、珈琲が飲みたかった。意外と隠れた名店かもしれない、と、自分に言い聞かせ、女は店の扉を押した。

     薄暗い室内には、カウンター席とソファー席が数席。奥には、なぜか巨大な信楽焼きの狸が据えられている。女は、狸の隣のカウンター席に腰をおろした。

     入り口に近い席で、新聞を広げてくつろいでいる男は、常連客だろう。他に客はいないと思っていたのに、視線を感じて振り返ると、後ろのソファーに、もう一人いた。根暗そうな男が、なぜか、こちらをにらんでいる。新参者の女が自分の縄張りを荒らしたとか、何とか思っているのだろう。

     女は灰皿を引き寄せながら、ふん、と鼻で笑った。どこにでもいるのよね、ああいう、独占欲の向け場所を間違えてる男って。

    【男の視点】(下の段)

     店に入ってきたのが若い女だと分かった瞬間からずっと、男は、腰を浮かして女の様子を観察している。

     飾り気がなく、隙のない格好をしている。きっと、一人で何でもさっさとやってしまうタイプだ。しかも、人の意見はきかないが、自分の思ったことは、ずばずば言う性格の女。

     男は、溜息をついた。

     わざわざ、こんな居心地の悪い店を選んで入ってこなくてもいいのに。

     女は、何食わぬ顔でカウンター席に腰を降ろし、珈琲とトーストを注文した。

     まずい、あれは危険だ。何としてでも、止めなければ。男はカバンから手帳を取り出すと、ページの一枚に走り書きをして破りとった。

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     ソファー席に座っていた男が女にメモを無言で渡す。女はメモをひっくり返して中身を見る。メモの中身は、閲覧者自らボードをめくって確かめてもらう。

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     そこには「珈琲の感想を口にするな。」と手書きの文字で書いてある。物語が進むとカウンター席の女は半ば強引に男の席に移動させられ、二人の視点が合流する。壁の切り替わりを利用して場面を変えていく。

     新たに上の段には、喫茶店のマスターと常連客の視点が加わって、物語はぐだぐだと奇妙な方向に進んでいく。

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     最後は、こんな投げっぱなしの問いかけで終わる。

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     気楽に書いてもらおうと猫の付箋を用意。個展の日数が進むと、猫がだんだん増えていって、なかなか可愛い。ここに書いてもらったアイデアから、続きを生み出して物語にしてしまおう、という予定。国語の問題のごとく硬直してしまう人や、何度も読み返して考えこむ人や、一生懸命わたしに説明してくれるんだけど言葉にできないやと諦める人や、いろいろで面白かった。人のを読むのは楽しい。

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     さて、これが今回わたしの考えた「小説展」でした。手書きの原稿をぺたぺた貼ったり本を積み上げたり創作過程を見せたりリアルタイムで書いてパフォーマンスしたり、書き下ろし小説をたくさん持って帰ってもらったり、などなど、いろいろなアイデアを考えたけれど、「ちゃんと読めるもの」「楽しめるもの」「展示でしかできないこと」をやろうと思ったら、こんな形になりました。

     まだまだ課題や改善点はたくさんあるものの、わざわざ遠くから来てくれた人たちが「面白かった!」と言ってくれたので、ひとまずは成功かなあ。でもまあ二回目は同じ手は使えないしね。同じ手を使うなら、もっと面白くないと納得できないだろうしね。どうなるかな。

     小説を展示で見せようなんて妙な試みだけど、本では得られないことをたくさん得られた気がします。またやりたいです。万全を期して。まずは2作目の長編を仕上げるのを第一優先にして、それが発売できることになったら、それに合わせて個展をしたいなあと、なんとなく思ってます。校了して発売までの期間は著者はやることないしね。

     まずは2作目が出せるよう、がんばります!

    utkutk 2010/05/30 09:58 行きたかった・・・。
    ぱそ子さまお疲れさまでした。←この言葉を忘れていた;
    次は絶対行きます。日程が決まったら即予定組んで葬式と発表会以外では動かせないようにします。
    何卒よろしくおねがいします。

    pasocopasoco 2010/05/30 10:56 おおお、ありがとうございます。そこまで言われたら絶対2回目しないとね。そして次はもっと早く告知するようにします…m(__)m

    J.V.NJ.V.N 2010/05/30 11:57 いや、素晴らしいっスよ!寝起きだったんですが、一気に読んでしまいました。しかし、アイデアもさることながら、何よりも、ぱそ子さんの作家としての熱意や魂に驚嘆しました。やっぱりプロは凄いですね。
    あと関係ないですが(というかプロの方にこんな事を言うのは恥ずかしいのですが)偶然ですが、僕が先日完成させた小説も、まさにこれと同じで、二人の主人公、二人の視点を交互に、というスタイルなんです。一方のストーリーを進めるには、反対側の主人公が物語の「鍵」を手にして扉を開けてやる必要があるという感じの。視点も、ただ断章で区切るのではなく、バッサリと別のタイトルの異なる小説という設定です。はっきり言って、書き上げて自分で読んで自己満足していればいいやって感じだったんですが、尊敬するぱそ子さんのブログを読んで、妙にやる気を出し始めた自分がいやがるので(笑)どこかの賞にでも応募してみようか、という気になってきました。

    pasocopasoco 2010/05/31 11:13 おお、ありがとうございます。プロになってから「小説」で個展をやるって結構なプレッシャーだったので、気合入れてがんばりました。そう言ってもらえると嬉しいです!
    視点を交互につむぐ形式は、本ではよくある形なのですが(章ごとだと春樹とか、本ごとだと「冷静と情熱の間」とか)、その形ってやっぱりスリリングで面白いですよね。ばらばらのものがつながっていくカタルシスがある。でも読むときにページをめくったり戻ったりしながら話を確かめて対応させるのがめんどくさいので、展示だと視線移すだけで確かめられて面白いかなあと思って、こんな試みをやってみました(笑)ただ、展示なので長くは読めない。あの長編のカタルシスは、やっぱり本の専売特許ですよね。
    J.V.Nさんのその小説も面白そうです。ぜひ、世の中にデビューさせてください。

    シーガルシーガル 2010/05/31 19:02 こんにちは。
    個展、評判良く終了おめでとうございます。得るものも大きかったようで、本当によかったですね。その間、東京へも行くという何という行動力!
    個展の展示、私的には小説の構成の基本的なことを形で示してもらったような気がしました。(私は”小説の構成”が何だかわからない・・)構成かぁと、あれから村上春樹の初期の短編集を読み返していました。
    ぱそ子さんの、いつもいろんな方面から「面白い視点」を探しだそうとしている熱意と行動力に驚いています。

    ゆすらゆすら 2010/05/31 23:08 おもしろそうな個展!行ってみたかった。
    続きが気になるなぁ。『冷静と情熱のあいだ』がけっこう好きなんだけど、これはもっとぴったり同時進行でおもしろそう。
    完成させてくれるのを楽しみに待ってます。

    希霜希霜 2010/06/05 06:24 うぅ、行きそびれた…。
    結構楽しみにしてたんですが、残念です。
    …というか、せっかく案内をいただいてたのにすみません。
    またどこかで(できれば大阪で。笑)開催してほしいです。

    ともあれ、個展おつかれさまでした!

    pasocopasoco 2010/06/08 11:57 >シーガルさん
    見に来てくださって、ありがとうございます。実際にお会いできてお話できて嬉しかったです。確かにあの方法で小説の構成が目に見える形で示されていたのかもしれません。やってみて、シーガルさんに言われるまで気づきませんでしたが。
    せっかく小説のことだけしていい人生を勝ち取ったので、これからも小説の面白さをいろいろな方法で伝えていけたらいいなと思います!

    >ゆすらさん
    そう、ぴったり同時進行にしてみました。まだ最初なので実際やってみたら、もっとあれこれ発展できそうな気がしました。いつか発展形を見に来れる場所でやりたいです!

    >希霜さん
    おお、残念。また休憩したら、やりたいです。大阪でもやりたいですね。がんばりますー!