その5 ハンピ ― インド ―

インドには美しい太陽が4つあるらしい。


ひとつ目はガンジス河に昇る朝日、
ふたつ目は黄金のゴアでアラビア海に沈む夕陽、
みっつ目はラジャスターンの砂漠に沈む夕陽、
そして、よっつ目はハンピの夕陽じゃないかと思う。


ハンピのサンセットポイント、つまり夕陽を眺めるのに適した場所は
村から少し離れたところにある。
途中までリクシャーか自転車で行き
細い山道を少し登り
むき出しの大きな岩肌までたどり着けば
その向こうに空と地平線が現れる。


そこから眺める夕陽は
地平線に向かって
ゆっくりと落ちていく。
巨岩だらけの大地と、ヴィジャヤナガル王国時代の遺跡と
少しの木々の緑が、だんだんとオレンジ色に染まっていき
やがてぼんやりと闇に溶けていく。
幻想的で開放的な光景と
デカン高原の心地よい風。
旅の疲れも癒える。


ハンピはホスペットの東、バスで30分ほどのところにある小さな村だ。
そもそもホスペットへのアクセスもあまり良くなく
そのおかげで観光客でごった返すことも無い。
デカン高原の中ほどにあるため
比較的涼しく、モンスーンの影響も受けにくい。
村の中心部のバザールは歩いて回るのにちょうど良い狭さ。
短時間で登るのに手ごろな山もあり
お椀型の舟が浮かぶ川もある。
王朝時代の遺跡が点在するのどかな田舎道を
自転車でふらふらするのも良い。
廃墟のような遺跡が続いたかと思うと
突然、ほとんど当時のままのような壮麗な遺跡に出くわしたりもする。


のどかで静かな村と
世界遺産の壮大な遺跡群。
旅のハイライトにも
中休みの場所にもなる
インド中央部の小さな村。


しかしそんなハンピにも残念な部分はある。
まず村を訪れる際に、村の警察署で許可証を取らないといけないこと。
外国人の安全確保のためらしいが
いささか面倒だ。



それと、名物料理が
ラザニア。


インドの片田舎で
ラザニア。


どこのレストランに行っても
「ヘイ、ジャパニ!ラザニア?!!」


こればっかりは腑に落ちない。