最終章 ― Rough Train ―


これは
きつい。


列車がウドンターニーを出発してからずいぶんと経つ。
そして俺が目を瞑ってからも
かなりの時間が経っているはずだ。


眠れない。
揺れがひどくて眠れない。
もし一旦、眼を開ければ
今夜は一睡も出来なくなってしまいそうだ。


列車が音を立てて揺れている。
寝台席がギシギシと揺れている。


身体はひどく疲れている。
昨日、
行きは運良くデラックスなバスに乗れ、チェンカーンまで行けたのは良かった。
うって変わって今日、
帰りはソンカオと呼ばれる所謂トラックの荷台で揺られて
チェンカーンからルーイへ。
ルーイから2等バスでウドンターニーへ。
気温40度をおそらく超えていたウドンターニーの灼熱のなか
熱中症を疑うほどのめまいに襲われながら列車の到着を待ち
乗ったのがこのバンコク行きの寝台列車
この旅、最後の移動。
疲労はピークに達していた。


でも眠れない。
絶えず足が、腰が、そして頭が揺さぶられている。
列車の連結部分に近いせいだろうか。
いや、そんなレベルの話ではない気がする。
言ってみれば、例えはアレだが
震度5地震が自分の周りだけで常に続いている感じだ。


あと何時間でバンコクに着くのだろう。
その間、絶えず揺さぶられて
一睡も出来ないのだろうか。
明日の夜はLCCの狭い機内。
なんてことだ。
明日もきっと眠れない。


これはタイの列車の軌道が狭いせいではないのかとないかと思う。
軌道、つまり線路の幅の広さだ。
日本も中国も、タイもおそらく狭い。
もちろん車体の精度もあるだろうが
軌道が狭いから揺れるのだ。
それに比べてインドは広い。
広軌道だ。
設備はもちろん中国やタイのほうが良いが
土台が安定しているぶん広軌道のインドのほうが揺れは少ない。


絶え間なく身体全体が揺さぶられている。。
中国の列車のほうがまだましだった気がする。


それにしても俺は乗り物のなかで
「列車が最強」だと思っていた。
浅はかな考えだ。
そんなことは無かった。
この国では違っていた。
タイはバスの国なんだろう。
バスは割りと快適だった。
今思えばこの国なら列車より全然快適だ。
変な日本の夜行バスより良いかもしれない。
でもこの国の列車はいかん。
これはもはやディーゼル云々の話ではない気がする。
きつい。
この揺れはきつすぎる。


やはり列車ならインドだ。
インドは線路の軌道が広いのだ。


次、列車で寝るなら
インドにしよう。
インドの列車なら
ぐっすりと眠れる。
なにせ線路が広軌道だ。


揺れが収まる気配は無い。
誰かに頭をつかまれ
絶えず揺さぶられている感じだ。


インドの列車で眠りたい。


インドに行きたい。






― タイ旅行記? 完 ―