1/12 オクターブバンド・フィルタ (1)

「オクターブバンド・フィルタ」とは、バンドパス・フィルタの通過域上端の周波数 (f2) と、通過域下端の周波数 (f1) との比がちょうど 1 オクターブの

f1 : f2 = 1 : 2

となっているフィルタのことを言います。
同様にして、1 オクターブの帯域幅を N 個に分割したバンドパス・フィルタで、通過域端の周波数の比が

f1 : f2 = 1 : 2(1/N)

となっているものを 1/N オクターブバンド・フィルタといいます。
振動や騒音計測の目的では、オクターブバンド・フィルタや 1/3 オクターブバンド・フィルタが良く使用されています。
BPF の中心周波数を楽音の音階の周波数に選んだ 1/12 オクターブバンド・フィルタ・バンクを作成すれば、入力信号の中からそれぞれ特定の音階の音だけを抽出することができます。
以前から、1/12 オクターブバンド・フィルタを並べて、入力信号に含まれる音階を表示する装置を作ってみたいと思っていました。
それにはかなり急峻な特性のフィルタが必要であり、どの程度の性能が要求されるのか、またその設計方法も不明であるため、なかなか実現には至りませんでした。
1/N オクターブバンド・フィルタの規格 (JIS C1514:2002) を調べていて、規格の範囲での緩い側の特性であれば 6 次のバタワース BPF で実現できることが分かり、また、その設計方法も普通の BPF の設計方法が使えることが分かりました。
ただし、1/12 オクターブバンドともなると BPF の各 2 次セクションの Q は 17.3/34.6/34.6 と高くなり、アナログ・フィルタでは安定に実現するのが難しくなります。
そこで、まずはディジタル・フィルタとして PC 上のソフトウェアでの実現と、PSoC5LP の DFB (Digital Filter Block) での実現を行いました。
そのうち、スイッチト・キャパシタ・フィルタ IC での実現と、OP アンプを使ったアナログ・フィルタでの実験もしてみたいと思います。 (ただし、隣接する 2 バンド程度)
JIS C1514 のクラス 2 (最も緩い特性) で規定されているフィルタ特性と、6 次バタワース BPF の特性の図を下に示します。

緑色の線が最大減衰量を示しており、隣接バンドとの境界で減衰量が無限大となる、つまりグラフとしては垂直に切り立った形になります。
青色の線が最小減衰量を示しており、「ベル型」の形状になっています。
12 バンド以上離れた周波数については最小減衰量は一定値の -60 dB になっています。
赤色の線で示したのが 6 次バタワース BPF の特性です。 最小減衰量の要求はクリアしています。
後で示す「容量結合型 LC BPF」での特性を下に示します。

フィルタ次数は実質 5 次で、ゲイン -20 dB 程度より大きな減衰量の部分で規格を満たしていません。
実際には LC フィルタではなく、OP アンプで実現した FDNR を使ったアクティブ・フィルタで実現することになります。
規格のバンドパス特性を周波数変換してプロトタイプ LPF の要求特性に変換したものを下に示します。

この図では、要求特性は一番厳しいクラス 0 のものを示しています。
赤色の線が 3 次バタワース LPF の特性です。 一部、最小減衰量の青い線に接していますが、逸脱はしていません。
逆に言うと、カットオフ周波数をキッチリ合わせないとクラス 0 の特性は満足できないことになります。
プロトタイプ LPF の正規化カットオフ周波数を 1 よりやや小さめに選んでおくと少し余裕ができます。
次回はディジタル・フィルタでの実現について述べます。