「酒と涙とジキルとハイド」

うおーーーもしろかった!!三谷幸喜さんが「ただひたすら笑って、最後にはなにも残らない」コメディを久しぶりに志して書かれた作品とのことで、その期待を裏切りません。1時間45分という上演時間もすばらしい。これが不思議なことに、「あっという間」とは思うけれど「短い」とは思わないんですよね。つまり時間が濃密なんですよ。

2001年に「バッドニュース・グッドタイミング」を上演したときに、前述の「何も残らない」コメディの決定版を書きたい、という話をされていたけれど、それ以来こういった形のコメディとは一線を引いていたような感じがありましたよね、三谷さん。笑いはあるけど、笑わせることだけが目的ではないというような。いや、恥ずかしながら私も若い頃は、「笑えるけどそれだけだよねー」なんて、今思ったらもう「さあ、殺せえ!」ってぐらい恥ずかしいことを平気で言っていましたが、しかし今回、「笑えるだけの芝居と言われることは僕にとって最大の名誉」と仰っていた、かつての三谷さんの作品を彷彿とさせる芝居を観ることができて、そして改めて思う!「笑えるだけの芝居」をめざし、そして実際に観客を「笑わせる」ことがどれだけすごいことかを!

舞台はジキル博士の研究室。登場人物はジキル博士、その婚約者のイブ、博士の助手のプール、そして博士が呼びつけた売れない役者ヴィクター。明日は博士の研究発表会があり、そこで博士は長年研究してきた「人間の人格を完全に分離する」実験の成功を公表するはずだったが…という筋書き。

もちろんワンシチュエーションコメディですので場面はそのまま動きません。役者の出はけと衝立だけですべての場面のすれ違いと入れ違いを見せきります。しかし、筋としては単純なものなので、そして動線もそこまで複雑ではないので、嘘が嘘を呼び混乱が混乱を招く、みたいな理屈のうえでのスラップスティックさで楽しむというよりも、その単純な筋立てのうえに乗っかった役者の力技を堪能するといった方が近いかも知れません。なにしろ、「別人格になる」薬が物語にかかわっているわけですから、やりすぎ!と鼻白むこともない、むしろそれぞれの必死さが余計笑いを生むっていうね!

優れた作品というのは不思議と、奇妙に時勢と絡み合ったりしてしまうものですが、この作品も「実験」「影武者」という、ここのところ巷間を賑わせた事件を思い起こさせるシーンがあちこちにあって(愛之助さんが『200回は成功したんだ!』と叫び、藤井隆くんが『ぶっ込んだ?ねえ今ぶっ込んだ?』とツッコんだのはあとから足した台詞でしょうかw)、まさか三谷さんもこの芝居を企画したときに「実験」というフレーズに絡んで笑いがくるとは思っていなかったでしょうね。

いやーでもほんと、この面白さを文章では到底伝えきれない。いいコメディっていうのはその台詞を書いても見てない人にはまったく面白くない、でも見た人にはどうにもたまらない、ってものだったりするのかもしれないですね。だってほら、春のパン祭り。これだけでしばらく顔のニヤケがとまらない私だもの。

拝見する前、愛之助さんと藤井隆くんというキャスト、というのは認識してたんですけど、紅一点が優香さんだってことを実はすっかり忘れていた私…。見始めて、「たしかこれ女優さんもわりと有名な人なんだよね」とか思ってた私。そしてその思い切りと達者ぶりに、最後まで優香さんだと気がつかなかった私だ!はずかしい!しかも彼女、初舞台!うっっそー!!すげーなオイ!

品の良さと姑息さを持ち合わせた愛之助さんのジキル、まじめなんだけどそのまじめさが笑いを呼ぶ、大仰さが笑いを呼ぶ、一生懸命さが笑いを呼ぶ、呼ぶ、呼ぶ。藤井隆さんの必死なハイド、「方向性が定まりきらない」ままでの突っ走りようにもう笑った笑った。だめだもう…いろんなシーンが瞼の裏に浮かんで…顔が!にやける!これますます彼のゴド1楽しみだよわたし!

そしてこの三人がばばーーん!とキャストとして発表された中、そっと寄り添うようにチラシに名前のある迫田孝也さん。まあね、もうこのパターン予測すべきだった。三谷さんの作品において、こういう役回りが実は最大の要だってことを!長髪ブロンド、良い声、良い滑舌、その場をおさめようとしてもっとも混乱させる男、プール。いんやああもうかっこいいのなんのって

かっこいいんだよおおお!!

久しぶりにフォント色変えるぐらいかっこいいんだよ!!なんだ!もう!劇場出てiphoneの電源入れてまずやったの「迫田孝也」の検索だわ!wiki見たわ!「桜の園」出てる!わー!覚えてない−!(ごめんー!)正直、プールと春のパン祭り見たさにもう一回行きたいとか考えちゃってる私だ!

酒と涙とジキルとハイド、そのタイトルが見終わった後にはなるほど!と思えるところまで含めて、すばらしく「よくできてる」!本当に心の底から楽しい時間でした!