短編連作を三冊読んでみた。

拙著「追い風ライダー」と感じが似ていると教えてもらった本を何冊か読んでみた。読んでみたら短編連作というスタイルはストーリーにいろいろな広がり方、つながり方があってホントにおもしろい。


阪急電車 (幻冬舎文庫)阪急電車」有川 浩・著
「似ている」と言っていただくのもおこがましいほどの超人気作家、有川浩さんの大ヒット作。知らなかったけど映画化もされていたのね。阪急電車今津線を舞台にした作品で、片道8駅、折り返して16駅、駅ごとに主人公が入れ替わり16編のストーリーが交錯し、つながっていく。次々にストーリーが切り替わっていくので、途中で「あれ、このコは誰の彼女だっけ?」とわからなくなったりもしましたが(^^);;、この展開の切替や伏線回収はあざやかだと思う。ホントにおもしろい。女性の登場人物が皆、前向きで背筋が伸びている感じがするのもステキ。
ストーリー自体のおもしろさに加えて非常に興味があるのは、このストーリーの書き方がどういう書き方だったのかということ。それぞれの登場人物のストーリーをまず作り、プロットを切りわけて、別のストーリーのプロットと並べ替えていく。イメージとしては映像編集ソフトでシーンごとに切り分けてつないでいくような感じで書いていったのだろうか。緻密に書いていくならそうだろうと思うけど、なんとなく大雑把なプロットを作ったあとは、実際に電車の中や駅でのシーンを思い浮かべながら自然に書いていったのではないかという気がする。僕自身の書き方がストーリーをすべてアタマの中で映像化して、それを(アタマの中で映写しながら)描写していくという書き方なので、この作品のような「絵が思い浮かぶ」作品は、そういう書き方のように思える。最初に登場人物のキャラ設定をしっかりやっておけば、あとは思い描いたシーンのなかで、その登場人物「らしい」セリフやしぐさが自然と思い浮かぶ。勝手な想像だけど有川浩さんの書き方はそういう書き方のように思える。


虹色にランドスケープ (文春文庫)「虹色にランドスケープ」熊谷 達也・著
こちらも似ていると言っていただくには申し訳ない、直木賞作家の熊谷達也さんの素敵な作品。「阪急電車」よりも登場人物たちの関わりの糊しろが広いというか、人生の関わり方が深い。短編連作と言うより、平行して複数のストーリーが進んでいく感じ。この作品の素晴らしいところは、主人公の一人と言ってもいい「オートバイ」の描き方。オートバイが登場人物の生活、さらに言えば人生にしっかりと組み込まれている。だから(逆に)オートバイに関する描写に過剰な思い入れが見られない。熊谷達也さんがオートバイに乗り始めたのは高校生の頃だそうで、多分、ご自身にとってのオートバイの存在が、そういう自然な感覚なのだと思う。オートバイ(多分、自転車もそう)は思い入れたっぷりに美化して描写しようと思えばいくらでもできる。俄に何かに「ハマって」そのタイミングで小説のテーマとして取り上げると過剰な表現になりがちだ。でも熊谷達也さんとオートバイの関係はすでに「普通の生活」のレベルにある。とにかくオートバイがとても自然に描かれているのが素晴らしい。


ここは退屈迎えに来てここは退屈迎えに来て」山内 マリコ・著
山内マリコさんのデビュー作。こちらは「似ている」と言われたのではなく、山内マリコさんとは縁もゆかりもないのだけれど、アマゾンのカテゴリ分けで「や・ら・わの著者」カテゴリで一緒なので、ランキングチェックすると、印象的な表紙とタイトルが目に入って、ずっと気になっていた。タイトルで直感的に予想したとおり、地方都市を舞台にした女の子たちのストーリー。各編をつなぐのは高校時代に人気者だった男の子。各編の主人公たち同士のつながりは細い糸だけど、彼女たちをつなぐ太い縦糸として彼が描かれている。各編の主人公たちはそれぞれの時期、タイミング、シーンで彼と接点があり、思い出がある。高校の超人気者だった彼が、卒業後、地方都市の生活のなかで少しずつ色あせていくのが印象的。
女の子たちは地方都市にとどまったり、都会に出てきたあとUターンしたり、様々な人生を送る。心象風景はどれもちょっと切ない。「オッサンの少女趣味」と言って意味が伝わる人にはわかると思うけれど、読んでいると自分の「オッサンの少女趣味」の琴線に触れる描写が沢山あって、胸がちくちくする。
とにかく縦糸に一人の男の子を配して、横糸の短編を編んでいくという構成はとても新鮮。「こういう書き方もあるのか!」と「孤独のグルメ」の井之頭五郎のように思わず呟いてしまった。

三作品とも短編連作ではあるけれど、構成や味わいは別物。どれもおもしろかった。短編連作という書き方はいろいろなパターンが考えられて楽しい書き方だと思う。他にもおもしろい作品があったら教えてください。



阪急電車 (幻冬舎文庫)

阪急電車 (幻冬舎文庫)

虹色にランドスケープ (文春文庫)

虹色にランドスケープ (文春文庫)

ここは退屈迎えに来て

ここは退屈迎えに来て

追い風ライダー

追い風ライダー