10『天地明察』沖方丁

天地明察

天地明察

 本屋大賞とってます。でも難しかった〜。算数と天文学の話。
 構成がねえ……冒頭の場面がすむと回想に入るのですが、そこからいつかは冒頭に戻るんや、と思うにしては回想がきっちりしすぎてて、冒頭を意識しながら読むべきか、この場面(ただし回想)だけに集中していいのか、中途半端な読み心地。で、「あの場面への回想なのだな」と思うと先が読めてしまうし。
 それと、長い話だから「からんころん」をキープするのは難しいわ。

11『利休にたずねよ』山本兼一

利休にたずねよ (PHP文芸文庫)

利休にたずねよ (PHP文芸文庫)

『秀吉と利休』と『利休と秀吉』を読んだ、と言ったら、
「利休ものやったらこれが面白かったよ」と勧められました。うん、確かに面白かったです。『秀吉と利休』と対になってる感じ。二冊とも読むのがおすすめです。もっとも、こちらの方がずいぶん俗ですが。でも茶席のしつらえの描写などは細かくて見えるようでした。
 ところで文庫本の解説は宮部みゆきさんです。利休にたずねるとしたら…の質問は愚問過ぎるような…

12『知ってる古文の知らない魅力』鈴木健一

知ってる古文の知らない魅力 (講談社現代新書)

知ってる古文の知らない魅力 (講談社現代新書)

 時代物づいているので、ついでに古文もお勉強。ものすごく読みやすい文章でした。古典には共同性と個性が埋め込まれている、今までにある物語を下敷きにしたり、そこから表現を引いてきたりして、作品の格を上げたり、読者の想像力を膨らませたりするのが古典の表現だから、それは剽窃とか盗作ではなくて、物語を豊かにしてくれる物なのだ、一から十までオリジナルである必要は全然ないのだ、という話。具体的に、源氏物語平家物語枕草子…などおなじみの作品で、その実例が。今昔物語の話が面白かった。

13『下手な人生論より徒然草』荻野文子

ヘタな人生論より徒然草 (河出文庫)

ヘタな人生論より徒然草 (河出文庫)

 上の本と平行して読んでおりました。徒然草に人生を学べ!という本。徒然草の原文はあんまり出てこなくて、作者による口語訳(さすがマドンナ先生)で話が展開していきます。
 で、その人生論より、「おお!徒然草にもこんな古典からの引用が!」と気づいてそれを楽しんでおりました。つまり、『知ってる古文の知らない魅力』の説が、徒然草でも実証された訳です。荻野さんはそんなおつもりはないので、「これの元ネタは中国の漢詩で…」とか全然書いていないのですが。
 つれづれの引用と荻野さんの実体験は興味深く読めますが、つれづれに基づいた荻野さんの人生論の部分は斜め読みになってしまいました。

14『破獄』吉村昭

破獄 (新潮文庫)

破獄 (新潮文庫)

 ちょっと前に広島で脱走がありましたが、そのときに不意に思い出してもう一度読みたくなり、ちょこちょこ読み進めておりましたが、先日の日帰り出張、往復の新幹線で一気読み。新幹線で寝ないのは珍しい…
 とにかく刑務所から脱獄しまくる男とそれを追う人、彼らを取り巻く時代の話。吉村昭ですから、事実中心にたんたんと進んでいきます。脱走男の心理描写なんかありません。私はこういう書き方は好きですが、物足りない、と思ったら映画を見ましょう。緒形拳がやっているそうです。しらなんだ。こっちも見たい。
 脱獄後、服や食べ物を民家からちょこちょこ盗んで調達するのですが、今の時代やったらこれは難しかろうなぁ。