冬立つ

目を見開けば微かに泳ぐ冬の華 ぞうりむし

冬がこれほど華やかな季節になったのは、現代においてのことではあるまいか。風や空、景色そのものが生命の熱気を思わせる春や夏とは違い、秋や冬はもの淋しい季節である。秋にはまだ紅葉がある。舌を楽しませてくれる食材もある。だが、自然の冬となると、これは索漠たるものである。木の葉は散り、風は肌を刺し、生き物は身動きをとらなくなる。
私はかつて、冬のよさを味わうには、よほど風趣を知っているものでなければなるまいと思っていた。その考えは今でも半分は正しいと思っていて、五感を楽しませてくれる素材に溢れた春や夏や秋とは違い、冬はやはり見る眼を持つ者にしか語りかけてはくれない。枯れ木や縁側の冷たさから詩を引き出す者は、生活に楽しみを見出せる者でなければならない。
けれども、現代では少し事情が異なっている。冬は今ではずいぶんと楽しみに溢れた季節になった。街を飾るイルミネーションなどは、その最たるものであろう。街灯は、人間が作りだしたもう一つの花である。だが、すきっぱらの写真は、目を凝らしてみれば、私たちがふだん見過ごしているような日常の風景にも冬の光が灯っていることを教えてくれる。外灯を飾る電球や、駅前に佇むクリスマスツリーだけが冬の華だというわけではない。

ぞうりむし

〜写真一口説明〜

仕事終わり。深夜まで働いて一日の気力も残りわずか。
少しでも早く帰宅しようと、足早に車に乗り込む。
フロントガラスの日よけシートを取り外した瞬間、見えてしまった。
そう、この写真は、日よけをドアップで写したものだ。
無数に続く円形のくぼみに外灯の光が反射している。
遠くのくぼみがボケて写ることで、金色の水玉模様となっており、幻想的。
この写真の光景は、我々の住む世界のものではない。
アリの世界、もしくは小人の世界のものだ。
時計を持った白ウサギの縦穴を通らずとも、あなたはファンタジーの世界へと旅立つことができるのだ。

すきっぱら