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萩の塵拾い

2009-10-28 幻想作家事典四方山話

怪奇幻想漫画家事典・続き・先行研究など 07:45

 マンガは日本では文学よりもずっとメジャーな芸術である。従って、その研究や基礎データなどは文学よりももっと充実していて然るべきである。が、大衆芸術が研究の対象にならないのはずっと昔から決まっていることであるためか、これがまったく充実していない。

 マンガを児童文学と同等に取り扱った画期的な事典『日本児童文学大事典』は、現在廃止するのなんのと騒がれている大阪府立国際児童文学館の企画であり、全体としても非常にすぐれた物で、私はずいぶんとこの本に啓発されたし、今回の事典執筆に当たっても大いに参考にさせてもらったのだが、その事典でも、マンガ家はそれほど多くはない。まあ当たり前なのかも知れないが、この事典は本格的なもので、ものすごく高価で、個人で買うものじゃないのだから、もうちょっとマンガ家を入れても罰は当たるまいと思うのだ。つまり、参考にはなったが、有名作家ばかりで数が少ない。また、島田啓三について、この事典で作品名を調べたりして、さらに国会図書館で調査して原稿を書いたら、想田さんにこれはまずい、雑誌で活躍した人なのにその情報がない、付け焼き刃だからしょうがない、と叱責されたりしたのだった。そこで想田さんに教えてもらった雑誌情報などを頼りに、学年雑誌などを読んで書き直したのである。実は文学の場合も、短篇などは本にならないまま打ち捨てられるのだが、事典にも載るように作家ともなれば、長篇作品はそれなりに単行本として刊行され、単行本として追跡が可能である。マンガ家の場合は、島田啓三の如き戦前の大物でも本にまとめられることもなく、なおざりなのだとわかった。考えるに、はやりすたりが激しく、すぐに劣化してしまう(時勢に合わないというか読者の感性からずれるというか)のであろう。ネットを見ても、まとまった情報はなく、ああ、これではまずい、と感じた。恐らく一事が万事こうなのであろうと思われたのである。

 実際、こうした研究はこれからなのだろう。今はまだ、研究と評論の境目もついていないような感じで、ただの評論を研究と称したりしている。方法論さえ確立していないのではないかという感じがしてしまう。

 今はまだ、マンガは若いジャンルであって、数はそこそこあるけれども、多くのマンガ家は生きているのだし、徹底的な研究ができるはずだ。ネット上には多くのファンサイトがあり、書誌データを公開している人もいるが、その人たちは、自分こそがマンガ研究をしているのだという自覚を持ってもらいたい。マンガというジャンルを愛好するならば、そのファンの力を結集すれば、文学などかなわない研究が成立すると思うのだ。文学で書誌データを集めている人なんて本当に少ない。みんなただ好き勝手に批評したりしているだけだ。文学では評論はあるけど、研究はないのだ。しかし、マンガには、またアニメにもそれがある。今後はそれをまとめられるようなカリスマの出現を期待したいところだ。

 

 マンガの事典でこのほか参考にした直近の本に小学館の『現代漫画博物館』(06)という本があるが、小学館での受賞歴などを見るには便利、というだけの本で、事典としてはまったく使えなかった。ただし、データは正確であるらしいので、確認作業のために大いに使わせていただいた。データが不正確というのは、自分で事典を作っていても起こりがちのことで、強迫神経症のようになって何度も確認しつつ間違う、ということが現実に起きるのだ。また、一度流布した間違いは訂正されにくい。本事典には「宍戸左行」というマンガ家が取り上げられているが、この名前は「さこう」と読むにもかかわらず、資料で「さぎょう」と間違えて読んだため、それが流通してしまったと想田さんに聞いた。想田さんいわく、「竹内オサム氏があれはさこうの間違いである、とことあるごとに訂正しておられるのだが、それでも間違った流通は止まない」。

 マンガ人名事典のようなものはこれまでにもいくつかあり、それらを片端から見たが、やはり間違いがあった(もちろん普通の文学事典にもある)。それらはなるべく訂正するようにしたが、しかし一方、自分が書いたものもまた間違いを含んでいるということもあり得るわけである。特に今回は挙げている作品名・書名といったデータの数などは半端ではない。中にはすぐに間違いがわかるものもあるが、高橋正彦さんや成瀬正祐さんのように、日本でも何人が本を持っているのか?というような稀覯書を元に書いておられる場合もある。実際、ググっても出やしない本は当方の小説の方にだってある。大学図書館横断検索でも出ず、国際児童文学館とあと地方の作家縁の図書館だけに結果が出る本などというものもあり、これも児童文学館の蔵書はGOOGLEではひっかからないので、地方の図書館情報が一点出るだけ、みたいなことがあるわけである。まだ結果が出ればよし、どうしても出ないものもある。書いた本人が、ある日、間違いにいきなり気づく(ということはよくある)のでなければわかりようもないのである。

 ともあれ、今回の作業を通して熱意を持つ人も、書ける人も実はたくさんいるとわかった現在、なぜ、どうして本格的なマンガ事典が作られていないのか? という大いなる疑問が残った。それがあれば、経歴調査などについて、安心感がもてたものを。なにしろ作家自身のホームページが自作について間違えているような現状なのだし、Wikipediaは最後まで信頼できないから(ただし文学よりはマンガ、アニメの順で信頼性が高い)。こうした事典は積み重ねである。版が改められて良い物になっていくのである。その意味で、ともかくも一度本格的な事典が作られるべきであろう。明治大学京都精華大学は蔵書しているだけでは仕方ないので、さっさと整理を済ませてそういった取り組みをしていただきたい。

 マンガについてなおも続くが、週末は大阪に行くので、続きは来週。