★★★★
モロコが2003年に発表した『Statues』はポップ・ミュージック史に残る一大傑作だった。21世紀に発表された音楽作品の中で、これを超える作品は未だに現れていないと個人的には信じている。そんな傑作を出してしまうとさすがに次の一手はなかなか出し難いようで、現時点ではモロコの今後の活動については一切未定らしい。この休息期間を利用して、モロコのボーカリストであるロイシン・マーフィーがマシュー・ハーバートのプロデュースでソロ・デビューした。
っていうか日本盤の名義は「ロイシン・マーフィー・プロデュースド・バイ・マシュー・ハーバート」ってなってるんだけど、そこまでしてハーバートの名前を前面に押し出したいか? 別にハーバートは嫌いじゃないけど、これはスノッブを気取っているようでイヤーンな感じだ。こうしないと日本じゃ売れないってのは分かるんだが、こうしないといけない構造ってのはやっぱり歪んでると思うぜ。絶対にいると思うから先に書いておくけど、モロコを聴いた事ないくせに、ハーバートがプロデュースしてるからって理由だけでこのアルバムを誉めそやす連中は絶対に信用するなよ。
当然ながら音作りはマシュー・ハーバートが担当しているので、ダンス・アルバムとしては失格。音があくまでも頭から捻り出されていて、肉体を通過していないのでグルーヴ感が希薄なのだ。だが、ロイシンのボーカル・アルバムとしては素晴らしい仕上がり。ロイシン・マーフィーという人はパティ・スミスにも匹敵する名ボーカリストだとおいらは思っているのだが、本作でも彼女の多重人格ボーカルの真価が存分に発揮されており、とりあえずは声を聴いているだけで全12曲48分があっという間に過ぎ去ってしまう。彼女独特のメロディ・センスも相変わらずで、ユーモラスなコーラスが楽しい「Ramalama (Bang Bang)」のような曲は彼女にしか書けない唯一無二のものだ。
というわけで、基本的にはマーク・ブライドン抜きのモロコ、もしくは『Things To Make And Do』以前のモロコ、といった感じの内容(本作に最も近いモロコのアルバムは『I Am Not A Doctor』だろう)。まあ、通常のポップ作品としては十分に傑作と言える。でもな、モロコの凄さを知ってる人間からすると、こんなんじゃ全然物足りないんだよ!