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弾き語りを中心としたソロ・アルバム『Devils & Dust』〜トラッド・ソング集『The Seeger Sessions』(大傑作!)を経て制作されたEストリート・バンドとの久々のタッグ作。00年代に入ってからのブルース・スプリングスティーンは、それまでの寡作ぶりが嘘のように精力的な活動を続けているが、それにしたって今作の充実度は異常。凄い。凄すぎる。もう58歳だっつうのに、どうしてこんなに瑞々しい「うた」が作れるんだ!?
Eストリート・バンドとの前作になる『The Rising』は911の影響下で作られたこともあって、ややヘヴィーすぎるきらいもあったのだが、今作ではひたすらにバンドのダイナミズムが炸裂しまくった軽快なロックンロール・アルバムに仕上がっているのが嬉しい。『The Seeger Sessions』とそのツアーによって、ロックンロールのルーツであり、スプリングスティーン自身のルーツでもあるアイリッシュ音楽への回帰(同ツアーで頻繁に演奏された新曲「American Land」はポーグスにも通じるアイリッシュ・フォーク・ソングだった)を果たしたことが今作の充実に繋がっているのは間違いない。それはつまり、生きる糧としての「うた」を再確認する作業でもあったはずで、だからこそ今作には生命力が満ち溢れているのだろう。ザ・フーを初めて聴いた時のポール・ウェラーじゃないが、「過去から未来がやって来た」のだ。
俺達は未来を生きてるんだ
全てはこれから始まるんだぜ
(「Livin' In The Future」)
そう、全てはこれから始まるのだ。音楽のマジックが満載された、ブルース・スプリングスティーンのキャリアを代表する大傑作。「I'll Work For Your Love」はおいらが今年聴いた中で最もロマンチックなラヴ・ソングだ。たとえばティーンエイジ・ファンクラブの『Grand Prix』や初期のウィルコなんかが好きな人は、騙されたと思ってぜひ聴いてみてくれ。メアリー・ルー・ロードやバッドリー・ドローン・ボーイがブルース・スプリングスティーンを支持する理由がここには全て詰まっている、と思う。全12曲47分。必聴。
Bruce Springsteen - Radio Nowhere
http://youtube.com/watch?v=lKUnV7ma61c
この曲の歌詞に登場する「mystery train」とは、スプリングスティーンが多大な影響を受けたグリール・マーカスのロック評論集『ミステリー・トレイン―ロック音楽にみるアメリカ像』のタイトルの元にもなった、ロックンロールの原風景であるあのミステリー・トレインのことだ。