パラドックス13+誘拐ラプソディー

パラドックス13

パラドックス13

 三月十三日午後一時十三分十三秒に起こる超常現象「P−13」をめぐるSF的サバイバル小説。脚本のような淡白さが少し不満。『リプレイ』や『東京島』を思い出した。てっきり、総理大臣を誰が殺したのか、という謎をぶち上げてその謎解きを終盤展開するものと思っていたが、どうやら今回は物語に徹することにしたようだ。『サンデー毎日』誌上での長期連載だったので、そういう含みもあったはずだが。せっかく警察官兄弟もいるんだし。登場人物たちが抱える問題も月並みな感じ。リーダビリティは素晴らしいが。

誘拐ラプソディー (双葉文庫)

誘拐ラプソディー (双葉文庫)

 人生どん詰まりの冴えない前科者がある少年と出会い行き当たりばったりの誘拐に打って出るが、実はその子はヤクザ屋さんの息子であることが判明、香港マフィアに中国マフィアに警察も巻き込んでの大騒動になってしまい、とにかく逃げまくる。サスペンスの常套手段、主人公をどこまでも窮地に追い込んでいく物語。人質の子供と犯人の交感という点では『パーフェクト・ワールド』の図式を意識したか。全体の構造としては、いわゆる "there and back" もの。過去をちゃんと描いているため、主人公もヤクザの親分も物語のスタート時に帰る、つまり日常にただ引き戻される、というだけではなく、人生の歯車が狂い始めた原点に戻る、という反省的な意味もある。例によってユーモア作家らしく軽妙な掛け合いで笑いを誘う。